議論を呼ぶYouTubeプレミアムのテレビCMから考える、動画広告の未来

(出典:YouTube Japan公式チャンネル)

最近Googleが、YouTubeプレミアムのテレビCMを本格的に展開しはじめたことが、ネット界隈でちょっとした議論を呼んでいます。

「いつでもどこでも、楽しみが途切れない」というキャッチコピーで、YouTube Japan 公式チャンネル上には6種類の広告が公開。

(出典:YouTube Japan公式チャンネル)
(出典:YouTube Japan公式チャンネル)

それぞれ、バックグラウンド再生などのYouTubeプレミアムのメリットを訴求している動画になっているのですが、テレビCMでメインで展開されていると思われるのが、「広告なし」を訴求したバージョンです。

テレビCMで広告の非表示を訴求

このテレビCMでは、ヨガをしている最中に広告がはじまってしまって困るという、YouTubeを使っている人なら誰もが感じたことのあるであろう状況を例に、YouTubeプレミアムなら広告が出ないという内容を訴求しています。

無料版は広告が表示され、プレミアムなどの有料版にすれば広告が出なくなるというのは、いわゆるフリーミアムと呼ばれるビジネスモデルでは普通の話で、特に珍しい話ではありません。

ただ、これまでYouTubeの広告表示のされ方に不満を持っていたユーザーからすると、このYouTubeの自らの広告モデルを自己批判するようなテレビCMは、ツッコミどころ満載。

ツイッターを検索すると「YouTubeも広告邪魔だと思ってたんだ」、「楽しみを途切れさせてたのはYouTubeでは」や「広告を無くせるのを広告でアピールするのか」という趣旨の発言を多数見つけることができます。

テレビCMを使って自社広告モデルの否定?

ただ、この話は自虐的なテレビCMをYouTubeが始めたという笑い話では終わりません。

このテレビCMを何度も見せられて心中穏やかではないのは、普段からYouTubeに広告を出稿している広告主の方々です。

ツイッター上にも、自分達が支払っているYouTubeの広告費を使って、その広告を自己否定するテレビCMを流すのか、という広告主らしき方々の恨み節の声が散見されます。

なにしろYouTubeといえば、インターネットの動画広告市場における最大のプレイヤー。

直近の2021年第1四半期の収支報告でも、前年同月比で脅威の49%増というスピード感で収益を伸ばしており、2021年の通年の収益は3兆円を上回り、YouTube単体でネットフリックスの予測収益を超える可能性があるとまで言われているのです。

参考:YouTubeの「成長が止まらない」ワケ、広告収益激増で好調ネットフリックス超えへ

みずからの広告ビジネスによってそれだけの巨額の収益をあげながら、その収益を自らのユーザーを広告が表示されないYouTubeプレミアムに誘導するべく、テレビCMの広告費に大量投下しているとなると、広告主の中に不満や不安が募る方が出てくるのは当然とも言えるでしょう。

Googleが挑む広告依存からの脱却

ここで注目したいのは、GoogleやYouTubeが自らのビジネスモデルの未来をどう見据えているのかという点です。

現在、YouTubeを運営しているGoogleは、Facebookとともに、世界のインターネットの広告市場の半分以上を2社で寡占しているとも言われています。

ただ、ネット広告市場が存在感を増すにつれ、ネット広告の現状に対して広告主やユーザーから徐々に批判の声が増えるようになり、ついに昨年末には米国の10州が反トラスト法違反で提訴するなど、両社の寡占化に対する風当たりが強まっているのです。

参考:米10州がグーグルを提訴--広告入札の競争を阻害、Facebookは「共謀者」

この状況は日本でも同様で、日本の検索連動型広告や、広告の入札システム市場の半分以上を占めると言われるグーグルに対して、情報開示の義務づけを柱とした報告書を公表され、厳しくけん制されているのです。

参考:政府、ネット広告で寡占の米Googleけん制

こうした社会的状況や、昨年のGoogleの決算がコロナ禍による広告収入の減少で上場以来初の減収になるなどの影響もあり、YouTubeのビジネスモデルも、広告依存の形から、プレミアムのような有料モデルとのハイブリッドへのシフトが必須になっているものと思われます。

参考:Alphabet決算、Google上場以来初の減収 コロナ禍による広告減で

おそらくは、日本におけるYouTubeプレミアム訴求のテレビCM本格展開も、こうした広告依存モデル脱却のための1つの活動ということなのでしょう。

お金を払う人には広告が表示できない未来

そう考えると気になるのは、ネットにおける動画広告の未来がどうなっていくのかという点です。

YouTubeがビジネスモデルのシフトをすすめるために、YouTubeプレミアムへの移行を強く推進していくと、極端な未来としてはYouTubeプレミアムにお金を払う余力のあるユーザーには広告が表示できなくなり、広告主の広告が表示されるのはYouTubeプレミアムのお金を払う余力がないユーザーばかりとなる可能性すらあります。

こう書くとちょっと極端な話に聞こえるかもしれませんが、すでにその極端な状況を実現しているのがNetflixです。

有料の動画配信サービスとして、全世界に2億人以上の会員がいるNetflixですが、競合の増加や会員数の伸びの鈍化もあり、投資家からは継続して広告モデルの導入を迫られていると言われています。

ただ少なくとも昨年1月の段階では、広告モデルの導入は明確に否定。

参考:Netflixはそれでも広告を入れないと宣言

広告モデル抜きでの成長を目指すことを宣言しているのです。

そういう意味では、Netflixユーザーは会費を支払うことによって広告フリーの映像体験を楽しむことができているわけで、YouTubeプレミアムユーザーと同じ状態ということもできます。

つまりネット動画配信サービスの世界においては、月額課金の金額を支払える人には広告が表示されず、月額課金サービスにお金を払わない人にしか、広告主が広告を届けることができなくなる未来の可能性が出てきていると言えます。

すでに、インターネットブラウザにおいても、不適切な広告表示が問題になり続け、有料の広告ブロックアプリをわざわざ購入して広告を避けようとするユーザーが増えていることを考えると、動画広告をお金を払ってでも避けようとするユーザーが増える可能性は小さくないでしょう。

参考:日本のネット広告業界で、本気の健全化の取り組みがはじまるか

一部の広告主は「宣伝」ではなく「コンテンツ」にシフト

こうした動画広告が避けられる流れに呼応するように最近増えてきているのが、広告主によるウェブドラマやショートムービーを作る流れです。

従来から、少し長めの広告動画というようなショートムービーはYouTube上でも多数存在していましたが、最近はだんだんとそのコンテンツの長さが長尺化し、本格的なドラマやコンテンツが増えてきています。

最近では、「SK-II」が池江璃花子さんを始めとして、アスリートを題材にショートムービーを公開して話題になったことが記憶に新しい方も多いでしょう。

参考:池江璃花子選手のショートフィルムから学ぶ、「広告」が嫌われる時代の「広告」のあるべき姿

また、日本におけるウェブドラマ製作の代表企業と言えるECサイトの「北欧、暮らしの道具店」は、2018年4月に「青葉家のテーブル」というウェブドラマをYouTube上に公開。

累計再生回数が600万回を超えるヒットになった結果、なんとウェブドラマを元にした映画を製作することも決定。

コロナ禍で延期はされたものの、この6月18日に公開されることが決まっています。

また、こうした取り組みの草分けと言えるネスレ日本では、以前から「ネスレシアター」という企画でショートムービーを自社で製作。

大ヒット映画「カメラを止めるな!」のスピンオフである「ハリウッド大作戦」を作ってしまったという事例もありました。

参考:カメ止めのスピンオフが壊してしまった「広告」と「映画」の境界線

劇場版「青葉家のテーブル」を視聴するには当然チケット購入する必要がありますし、「ハリウッド大作戦」もその後DVDが販売されています。

実は、いまや動画広告自体が、コンテンツの楽しみを途切れさせる存在から、広告自体をコンテンツとして楽しんでもらう存在へと変化を始めているのです。

新しいネット動画広告の可能性を見直すタイミング

従来のマスメディアの時代においては、テレビCMのような広告は、コンテンツを無料で視聴できる代わりに、コンテンツとセットで強制的に表示されるのが当然の存在でした。

そのため、コンテンツ側の番組もテレビCMがはいる前提で製作されています。

トイレタイムと揶揄されたり、CM入り前の視聴者を引き留めるための過剰な演出が批判をされたりもするものの、総じてテレビCMとコンテンツは共存がうまく図られていたといえるでしょう。

ただ、YouTubeの長尺動画における広告表示は、どうしてもコンテンツの再生中に唐突に邪魔をする形で挿入されるため、ユーザー体験として動画広告を嫌われ者にする構造になりがちです。

筆者自身も、前述のウェブドラマを視聴する上で、唐突に何度も差し込まれるYouTubeの広告にイライラしてしまった結果、YouTubeプレミアムを契約してしまったばかりでした。

今回、YouTube自身が自らテレビCMで広告非表示の価値をアピールしたこと自体が、ネットの動画広告を、視聴者の楽しみを途切れさせずに表示させる難しさを明確にしたと言えるかもしれません。

ただ、実は「SK-II」や「北欧、暮らしの道具店」が取り組んでいるように、動画自体を「宣伝」としての邪魔者ではなく、「コンテンツ」として楽しんでもらえる存在に変えていくことで、同じ動画広告であってもユーザーに邪魔者ではなく、歓迎される存在となる可能性も見えてきています。

今回様々な議論を呼んでいるYouTubeのテレビCMは、そんな新しいネット動画広告の可能性自体を、業界全体で見直すきっかけになるかもしれません。