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半沢直樹の5週連続トレンド世界一に学ぶ、テレビとツイッターの理想の形

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:日曜劇場半沢直樹ウェブサイト)

TBSのドラマ「半沢直樹」の勢いが止まりません。

もともとは4月クールのドラマだったのが、コロナ禍の影響で撮影・放送が延期され心配されていたものの、初回放送から世帯視聴率は22%をたたきだし、その後も好調を維持。

先週日曜日の放送に至っては、25.5%と令和のドラマで1位の記録更新を達成しています。

参考:<半沢直樹>視聴率25.5%&5週連続トレンド世界一!

さらに注目したいのは、ツイッターで「#半沢直樹」が5週連続でトレンド世界一という偉業を更新している点でしょう。

もちろん、ツイッターのトレンドに、ドラマやテレビ番組のキーワードがランクインするのは日本では珍しい現象ではありません。

ただ、なんといっても今回の半沢直樹の凄いのはトレンド1位が国内のランキングではなく、世界のランキングで続いているという点です。

ドラマの視聴率は長期的に低下傾向

そもそも、テレビドラマの視聴率はこの数十年低下傾向にあります。

1990年代は人気ドラマが軒並み25〜35%という高視聴率を誇っていたのに対して、現在のドラマは10%を超えればヒット作。

これには、テレビドラマ以外に様々なエンターテインメントが増えたこともあるでしょうし、録画視聴がしやすくなったことも影響しているでしょう。

また、国内のテレビドラマ自体にかけられる予算が少なくなっているという指摘や、日本の独特な芸能事情を指摘する声もあります。

参考:日本のドラマがこの10年で急速につまらなくなった、本当の理由

さらに、最近の視聴環境の変化として最も大きいのは、NetflixやHulu、Amazonプライムビデオなどの動画配信サービスの普及により、視聴者が自分の好きな時間に好きなドラマを見るという視聴スタイルが拡がっていることでしょう。

すでにその視聴スタイルが普通になっている米国では、テレビドラマのアカデミー賞と呼ばれるエミー賞で、Netflixが史上最多となる160のノミネートを獲得するほど、テレビドラマの中心が動画配信サービス制作のドラマにシフトしている印象があります。

参考:第72回エミー賞、Netflixが最多160ノミネーションで記録を更新

 

日本でも若い世代を中心に、動画配信サービスの普及が広がっており、最近では、Netflixで配信されている韓国ドラマ「愛の不時着」が日本でも大きな話題になるなど、動画配信サービスのドラマの存在感が増しています。

参考:『愛の不時着』大ヒット 再来のたび強くなる韓流ブームの仕掛け

現在では録画環境の選択肢もふえており、TVerのような見逃し配信の手段も充実してきていますから、テレビ局の放送時間に合わせてドラマを見るという視聴スタイルは日本でも減ってきているのは間違いないでしょう。

「半沢直樹」と「歌舞伎」の関係

しかし、今回ドラマ「半沢直樹」は、そんな時代の流れに主人公の半沢直樹さながらの真っ向勝負を挑み、現在のところ見事に勝負に勝ち続けているようです。

個人的にここでポイントとなるキーワードと感じているのが「歌舞伎」的な視聴スタイルです。

半沢直樹では、前作の宿敵であった大和田役の香川照之さんや、証券取引等監視委員会の調査官の黒崎役の片岡愛之助さんなど、重要な役を歌舞伎役者が演じていることでも有名です。

今回のドラマでは、前作以上に、そうした歌舞伎俳優を中心に、「顔芸」とでも言うべき大袈裟な演技のシーンが、これでもかというぐらいに展開され、ドラマに色を添えています。

参考:「半沢直樹」がウケるワケ 歌舞伎俳優の「やり過ぎOK」 「帝国航空編」も目が離せない

こうしたオーバーな演技には、一部の純粋なドラマファンからは批判も出ているようですが、実は「半沢直樹」を現代版「歌舞伎」と考えると、少し見え方が変わってきます。

現代版歌舞伎とでも言うべき視聴スタイル

歌舞伎には、「大向こう」と呼ばれる観客の掛け声がつきものです。

演目の盛り上がる場面や、見せ場になると、「成田屋!」「中村屋!」とか「待ってました!」と、観客が掛け声をかけるのです。

演目によってはその掛け声がないと進行できないようなものあるそうで、観客の掛け声が歌舞伎の1つの要素になっているということもできるでしょう。

今回のドラマ「半沢直樹」においても、ツイッターを見ながらドラマを見ていると、ある意味歌舞伎の掛け声と同じように、明らかに視聴者の反応を意識したシーンが多数あることに気づきます。

象徴的なのは、半沢直樹の決め台詞である「倍返し」でしょう。

ドラマ中にこの発言が出てくると、ツイッターのタイムラインも一気に「倍返し」で沸き立ちます。

さらに今回は、大和田による「恩返し」、伊佐山による「詫びろ詫びろ詫びろ詫びろ」など数々の分かりやすい決め台詞や名言が投入されています。

歌舞伎には「見得」と呼ばれるポーズを決めて止まる演技がありますが、こうした決め台詞がその「見得」と同じような役割を果たしているわけです。

ドラマ「半沢直樹」では、そうした、ここぞという「見得」的な台詞にたいして、ツイッターから視聴者が「大向こう」のように掛け声を投稿しています。

ある意味、現代版歌舞伎とでもいうべき視聴スタイルで、役者とツイッターユーザーの掛け合いが確立しているのです。

映画館で大声を出しながら視聴することを「応援上映」と呼びますが、ドラマ「半沢直樹」では「ツイッター応援視聴」とでもいうべき視聴スタイルが確立しており、これが5週連続でツイッターのトレンド世界一という快挙の要因の1つになっているわけです。

日本ならではのツイッターとテレビの理想の形

テレビを見ながらの「ツイッター応援視聴」といえば、金曜ロードショーにおける映画「天空の城ラピュタ」放映時の「バルス」や、映画「サマーウォーズ」放映時の「よろしくお願いしまああああす!!」などが有名です。

参考:1分間に23万7000バルス! 金ロー「天空の城ラピュタ」のバルス祭り

またサッカー日本代表の試合や、ラグビーW杯でも、ツイッターを見ながらのソーシャルビューイングが普及しています。

ただ、こうした映画やスポーツの場合は、ツイートが多く投稿されるのは、作品や選手が狙っておこした現象ではないのに対して、今回のドラマ「半沢直樹」では明らかに制作サイドが、視聴者の反応を狙ってつくっていると思われるのがポイントでしょう。

Yahoo!リアルタイムで半沢直樹の投稿数を見てみると、毎週のように盛り上がっているのが良く分かります。

(出典:Yahoo! リアルタイム検索)
(出典:Yahoo! リアルタイム検索)

役者の決め台詞や演技に対して、視聴者がツイッター上で同時に掛け声のようにかえすという役者と視聴者の掛け合いは、実は歌舞伎の頃から脈々と続く、日本ならではのエンタメの楽しみ方と言うことができるのかもしれません。

また、こうした「ツイッター応援視聴」とでもいうべき視聴スタイルは、地上波のテレビ放送を通じてリアルタイムで映画やドラマを楽しむ文化がまだ残っている日本だからこそ、実現できているスタイルと言うこともできます。

NetflixやHuluのような動画配信サービスでは、大勢の視聴者が同時に同じタイミングでツイートをするということを実現するのは難しいわけです。

また、毎週のように登場人物の方々がツイッターで予告をしてくれるのも、毎週1本放映されるテレビドラマならではと言うこともできます。

そういう意味で、ドラマ「半沢直樹」のツイッター応援視聴は、日本ならではのツイッターとテレビを組み合わせた楽しみ方の可能性の象徴と見ることもできるでしょう。

今年は、テレビ番組を起点としたネット上の誹謗中傷が社会問題としても注目されているタイミングでもありますが。

ドラマ「半沢直樹」では、テレビ番組と視聴者のツイッター上の応援が重なり合えば、多くの人に笑顔や勇気を届けることも可能なことを証明してくれているわけです。

コロナ禍の今だからこそ

現在、歌舞伎や演劇も、新型コロナウイルスにより大きな影響を受けていますが、今回のドラマ「半沢直樹」は歌舞伎のファンを増やす効果ももたらしているようです。

参考:『半沢直樹』、コロナで苦境の歌舞伎にファン増やす効果も

そう考えると、ドラマ「半沢直樹」が7年ものブランクを経て、コロナ禍の今、放映されることになったというのも、ただの偶然ではなく必然のようにも見えてくるのは、私だけではないはず。

今晩の半沢直樹をご覧になる方は、是非ツイッターを片手に「#半沢直樹」の投稿を見ながら、現代版歌舞伎とでもいうべき視聴スタイルの息吹を味わってみて下さい。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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