クルーズ船告発動画騒動から考える、ツイッター時代の情報公開のあるべき姿

クルーズ船の外から想像するしかなかった状況を、1本の告発動画が変える結果に(写真:ロイター/アフロ)

感染症専門医の岩田教授がクルーズ船での対応について告発した動画が、大きな波紋を広げています。

動画の公開直後には、こうした告発を行うことへの賛否も分かれていましたし、船を追い出されたことに感情的になっている印象も強かったですが、一方で船内の証拠写真や船内医療チームの声など、告発内容に正しい指摘も含まれていたことが確認される情報が増えてきているようです。

参考:「声を上げられないスタッフを代弁してくれた」岩田健太郎氏の動画に、船内スタッフが沈黙破る

 

新型コロナウイルスの実態がまだ専門家ですらつかめていないこともあり、新型コロナウイルスをめぐる報道や議論は何が正しいのか分からない話が多くありますし、今回の騒動についても岩田教授側、厚生労働省側、双方に立場上の言い分はあるのだろうとは思います。

ただ、一連の議論を見る限り、告発に対する厚生労働省側の対応姿勢にどうしても納得いかない点が多々見られるため、危機対応時のコミュニケーションの姿勢の視点から、問題提起の記事を書いておきたいと思います。

2日間の間に激しく情報が錯綜

今回の告発動画をめぐっては、岩田教授が動画を削除したこともあり、動画自体が間違いだったのではないかとか、政府側が圧力をかけたのではないかと、様々な憶測も増えてしまっており、情報が錯綜しているようです。

まずは一度、時系列に出来事を整理しておきましょう。

■2月18日午後9時頃  

岩田教授がYouTubeに日本語と英語で告発動画をアップロード。

 

 

■2月18日深夜から19日早朝にかけて

ツイッターを中心に話題が拡散。

ツイッターのトレンド入りしたことも大きな話題に。

■2月19日午前10時  

橋本副大臣が岩田教授の告発の一部が事実であることが確認されるツイートを投稿。

 

 

■2月19日  

CNNやBBCなどの海外メディアを皮切りに、一日中、告発動画がマスメディアでも報道。

 

 

■2月19日午後10時  

岩田教授が乗船するきっかけを提供した高山医師が、岩田教授が不完全に把握されている点をFacebookで補足。

高山医師と岩田教授がコメント欄で激しい議論を展開。

(現在は議論は削除された模様)

 

 

■2月20日午前6時  

岩田教授が告発動画を削除。ツイートで謝罪。

 

 

■2月20日午前11時頃  

岩田教授が記者会見を実施。動画削除の背景を説明。

参考:新型コロナ、クルーズ船の「告発」をした医師が、海外メディアに訴えたこと

 

 

■2月20日午前11時頃  

厚生労働省が告発動画の指摘に対する説明のリリースを公開。

参考:クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」内の感染制御策について

 

 

■2月20日午前11時頃  

橋本副大臣が上記のリリースを連投する流れで船内の写真を投稿。

岩田教授のゾーニングの問題提起が正しかったことが確認される結果に。

 

参考:新型コロナ、副大臣がクルーズ船内の写真をアップ→「内部告発ですか?」とリプ殺到→削除

 

 

■2月20日午後15時頃  

厚労省と内閣官房の職員の感染が確認される。

参考:新型ウイルス クルーズ船で業務 厚労省職員ら2人感染確認

 

 

■2月20日午後6時  

ハフィントンポストが船内スタッフの取材記事を公開。

参考:「声を上げられないスタッフを代弁してくれた」岩田健太郎氏の動画に、船内スタッフが沈黙破る

 

 

たった2日間の間に激しく岩田教授の評価が上下したのを見ていましたし、今後まだ変化がある可能性もありますが。

橋本副大臣が投稿し、あわてて削除した現場の写真を見る限り、岩田教授の「ゾーニングがぐちゃぐちゃだった」という指摘は少なくとも正しい面があったように見えます。

 

 

個人の告発動画が世界を動かす時代

ただ、今回の告発動画をめぐっては発言をした全員に、それぞれ応援の声も批判の声も投げかけられており、見る人の立場や印象によって評価が大きく異なる面があるのも事実です。

告発動画を投稿された岩田教授も、高山医師からの指摘を受け、議論の結果動画を削除して謝罪の投稿をされたのは、やはりご自身が感情的になり、危機を煽りすぎた面があったと感じておられるからだと思います。

また、岩田教授が動画を削除した結果、そもそも「告発」という組織を乱す行為自体に否定的な方からすると、告発自体がでっち上げだったのでは無いかと思っている方も少なくないようです。

一方で、高山医師の組織の論理を重視する姿勢にも、それはそれで問題があるのではないかと厳しいコメントもついています。

岩田教授の告発の内容がどれぐらい正しく、どれぐらいが誤解に基づくものだったのかは、素人の我々には評価できませんが。

岩田教授の告発動画が広まったのも、高山医師の誤解への指摘が広まったのも、橋本副大臣の写真投稿が話題になったのも、全て個人のツイッターやFacebookなどのSNS投稿が起点になっていると考えると、従来の記者発表やマスメディアを通じた情報公開とは全く異なるネット時代ならではの騒動だったのは間違いないでしょう。

特にYouTubeやFacebook投稿なども全てが、ツイッターを軸に拡散していることを考えると「ツイッター時代」と言った方がわかりやすいかもしれません。

実際にツイッター投稿件数の推移だけ見ても、この3日間岩田教授をめぐる言及が大きく盛り上がっていることが良く分かります。

(出典:Yahooリアルタイム検索)
(出典:Yahooリアルタイム検索)

当然、厚生労働省や政府のトップの方々からすれば、こんな騒動を巻き起こすツイッターやYouTube、FacebookのようなSNSは全て禁止してしまいたいという気持ちになっているのは間違いないでしょう。

実際、今月上旬には相撲協会による力士のSNS無期限禁止が話題になりましたが、今現在、厚生労働省の内部やクルーズ船の現場で、SNS投稿禁止令が出ていてもおかしくはない印象です。

ただ、実際には厚生労働省や医療従事者側をSNS禁止にしたところで、乗客がSNS投稿をすれば同じことが分かってしまう時代です。

もはや情報を隠せない時代に突入している前提で、事態に向き合うしかないわけです。

例えば、今回の新型コロナウイルスの危機をいち早く指摘したのは、武漢の眼科医の李氏による告発だったと言われています。

残念ながらその医師は、今月7日になくなってしまいましたが、この個人による告発がなければ武漢市における対応はさらに遅れた可能性もあるわけです。

参考:新型コロナウイルス、武漢で新型肺炎を「告発」した医師が死亡

「組織」にとって「個人」の不規則な発言や告発はリスクにしか見えないかもしれませんが、「個人」が誰でも情報発信できるからこそ「組織」が隠そうとすることも見えるようになった、という逆のメリットがあるわけです。

ある意味、「組織」が隠そうとすればするほど「個人」の告発が力を持つ時代とも言えるでしょう。

橋本副大臣は沈黙したままで良いのか

そういう意味で、個人的に非常に気になるのは、今回の騒動に対する橋本副大臣を含んだ厚生労働省側の対応が非常に鈍く見える点です。

特に深刻なのは、ツイッターで岩田教授の問題提起を裏付ける写真をアップしてしまった橋本副大臣が、その後沈黙を貫いてしまっている点でしょう。

橋本副大臣は、今回の新型コロナウイルスの感染拡大の過程で、積極的にツイッターやブログを活用して情報発信をされていました。

特にブログには、クルーズ船の状況について長文で説明する努力をされており、個人的にも何度か投稿を拝見して、こういう活動にはとても価値があると感じていた次第です。

しかし、岩田教授の投稿に反論する形で投稿された、いくつかの橋本副大臣の投稿は、とても褒められたものではありませんでした。

現場の責任者として、自分が知らないところで勝手に来て文句を言う人間が出てきて、現場を混乱させたり不安をあおるような発言をしたら、腹が立つのは分かります。

ただ、やはりその怒りをそのままツイッターで出してしまうのは、現場の責任者としては軽率だった印象です。

さらに、残念なのは現場の写真を投稿したことで、自らの認識のレベルが岩田教授の専門家の認識とズレていることが明確になってしまったにもかかわらず、ツイッターの投稿を削除したまま、もう30時間以上の間、沈黙してしまっていることです。

参考:はしもとがく(橋本岳)さん (@ga9_h) / Twitter

もし、ご自身の認識が専門家のものに比べて甘かったということなのであれば、それはそのように素直に謝罪されるべきでしょう。

また、巨大な船内における比較的感染リスクが低い場所だから、このような区分で済まさざるを得ないのであれば、それはそれで説明するべきでしょう。

少なくとも告発動画を投稿した岩田教授は、高山医師に誤解を指摘された結果、動画を削除し謝罪され、記者会見で削除の経緯について説明されているわけです。

ここに来ての沈黙は、疑惑しか生みません。

ゾーニングについての問題点は、岩田教授の指摘通りの面はあっても、岩田教授本人も「乗客の二次感染に関するデータも示され、船内で隔離が行われた2月5日以降に二次感染が拡大していないことが明らかになった」ので、動画で告発した時よりは二次感染リスクは大きくさがっていると明言されています。

せっかく岩田教授がこう説明しても、橋本副大臣が自らの間違いを認めないことで、厚生労働省が事実を隠蔽しているのではないかという疑惑を強化してしまいます。

その沈黙が、多くの人々が今もクルーズ船の乗客に二次感染のリスクが高いままだったのではないか、と心配する原因の1つになってしまっているわけです。

本来これこそが、橋本副大臣が一番避けたかった事態のはずです。

ひょっとしたら、橋本副大臣がこれ以上の余計な投稿を禁じられているのかもしれませんが、それならそれで厚生労働省なりが、この写真削除騒動についての説明を行うべきでしょう。

橋本副大臣や厚生労働省は、今後も間違いを犯しても認めないのではないか、と世界のメディアから思われてしまうことのほうが、よっぽど深刻な将来のデマの種になるように思います。

本当の敵は新型コロナウイルスのはず

厚生労働省側の告発内容に対する説明文章もそうですが、こうした告発に対する対応姿勢として根本的に勘違いされていると感じるのは、橋本副大臣にしても、厚生労働省にしても、今回の騒動を岩田教授個人との戦いと思い込んでいるのではないかと感じる点です。

本来の私たちの敵は、新型コロナウイルスという未知の脅威のはずです。

巨大クルーズ船における集団感染という、日本人が未経験の事態において現実的に完璧な対応ができないことは高山医師が指摘されているように事実だと思いますし、感染症の専門家ではない人間が間違えることもあって当然です。

だからこそ、すべての人の英知を結集してこの未知の脅威と戦わないといけないわけで、仮に正しいルートを経ずにクルーズ船に登場した医師の感情的な告発動画だったとしても、もしその指摘にもっともな点があるのであれば、少なくともその正しい指摘には耳を傾けるべきで。

自らに間違いや知識不足があったのであれば、それを認めて、教えや協力を請うこともできるはずです。

その間違いを認めずに、投稿を削除してなかったことにしてしまうというのは、ツイッターの炎上芸人ならまだしも、厚生労働省の副大臣としては褒められない行為のように感じます。

世界が疑いの目で日本を見ている

現在日本が新型コロナウイルスという未知の脅威にさらされている中、世界の人々が注目しているのは「はたして日本の厚生労働省は、日本の政府は信用できるのか」という問いです。

しかも、新型コロナウイルスについては、もはやクルーズ船だけの問題ではなく、日本各地に感染者が見つかるという段階に入ってきています。

クルーズ船における対応の疑惑がきっかけで、これからの国内での感染防止の対応にも疑問の目が向けられるリスクがあるわけです。

岩田教授が動画で指摘していた中で、個人的に最もショックだったのは、情報公開の姿勢が批判された2003年のSARSの時の中国政府に比べても、今回のクルーズ船における日本政府の対応の方が悪い、という指摘でした。

日本だけでなく世界中の目が、新型コロナウイルスの対応に対する日本政府の情報公開の姿勢に注目している中で、現場の責任者である橋本副大臣が、自ら間違いを起こしたことを隠蔽して沈黙を貫くような姿勢をみせれば、日本政府や厚生労働省を国民や世界のメディアに信頼してもらうことは、ますます難しくなってしまうと思います。

未体験の危機に直面して、現場の方々は想像を絶する苦労をされていると思います。

私のような部外者が何も貢献せずに、勝手な批判をするのは簡単ですが、現場の方々は日々難しい判断に迫られていることと思います。

ただ、だからと言って今回のような告発や批難に直面して、重要な情報を持っている方々が黙ってしまったら、ますます疑心暗鬼の種が生まれ、それこそ新型コロナウイルスの思うつぼです。

是非、厚生労働省の方々には、迅速で丁寧な情報開示を実施して頂きたいと切に願います。