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カーリング協会の失敗に学ぶクラウドファンディング成功の3つの鍵

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
オリンピックでの活躍を見てカーリング選手を支援したいと思う人はかなり増えたはず(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 メダルラッシュに沸いた平昌オリンピック・パラリンピック。

 今回の大会では、選手達の素晴らしい活躍に勇気をたくさんもらいましたが、一方で個人的に気になったのが、冬季スポーツの選手達が意外にスポンサー探しや、お金のやりくりに困っていた、という逸話の数々です。

 スピードスケート女子500mで金メダルを獲得した小平奈緒選手ですら、大学卒業後に長野で競技を続けるためにスポンサー探しに苦労していたという逸話が象徴的でしょう。

 結果的に、小平選手は、相沢病院という企業スポーツとは全く縁のなかった長野の病院が支援を買って出てくれたために、競技に専念することができ、見事に金メダルを獲得することができました。

参考:小平奈緒を支える相沢病院の太っ腹 

 現在も社会現象的な盛り上がりが続いているカーリング女子のLS北見も、本橋選手が2010年8月にチームを結成してから、直近のオリンピックだけでない長期でのスポンサー探しを地道に継続したことで、8年越しで今のチームに辿り着くことができたそうです。

 ただ、こうした幸運な出会いに恵まれなかった選手やチームが、日本には多数いることは素人でも容易に想像できます。 

 特に冬季五輪の競技は、その特殊性から道具代や海外遠征費用、大会参加費や練習場の会場利用費などがかさむものが多く、競技を続けるためにはなんらかの形での支援は不可欠と言えます。

 また、サッカーや野球のように、プロ選手になれば大金が稼げるスポーツと異なり、多くの選手が会社に勤めたりアルバイトをしながら競技を続けるお金を捻出しているのが実情のようです。

■新たなスポンサーとして注目されるクラウドファンディング

 そんな中、今回のオリンピックから明確に新しい支援の1つの形として見えてきたのがクラウドファンディングでしょう。

 通常の企業スポンサーが特定の企業からの支援を受ける形なのに対して、クラウドファンディングは不特定多数の人たちから支援や寄付を募るネット時代ならではの仕組みと言えます。

 例えばスノーボードの大久保選手は、昨年4月に全日本スキー連盟の強化指定選手に選ばれ、ワールドカップを転戦する権利をつかんだ際に、遠征費の問題に直面。

 その際、友人の勧めからクラウドファンディングを実施し、約110万円の支援を受けることができて、無事に海外遠征で実績を出し平昌オリンピックの出場権を獲得することができたそうです。

参考:【スノーボード/大久保勇利】平昌オリンピックで羽ばたき、金メダルを勝ち取りたい!

 

 また、他にもスキークロス女子の梅原玲奈選手が、クラウドファンディングで52万円の支援金を集めて、平昌オリンピックへの切符を手にしていたり、パラリンピックのシットスキーの選手である新田のんの選手は、専用シットスキー開発のために、140万円の支援金を集めることに成功したようです

■目標の1%しか集まらなかったカーリング協会の事例

 一方で、クラウドファンディングを実施しても、全く支援が集まらなかったと言うケースも散見されます。

 象徴的なのは、オリンピック中にネット上でも話題になった日本カーリング協会の事例でしょう。

参考:カーリング、強化費に苦戦 クラウドファンディングも目標1%で4万円

(出典:ACT NOW)
(出典:ACT NOW)

参考:カーリング/平昌オリンピックでメダル獲得を目指す!!

 目標支援金額300万円のところ、4万円弱しか支援が集まらず、達成率1%となっています。

 他のクラウドファンディング事例が同じサービス上で実施されていることを考えると、この失敗は実に際立ちます。

 また、日本カーリング協会では、別のクラウドファンディングサイトでも継続型のプロジェクトを実施しており、昨今のカーリングブームの影響もあって100万円を集めることには成功しているようですが、実はこちらは2015年から継続している企画の模様。

参考:【毎日新聞×JapanGiving】カーリングに熱い声援を!

 一方で、今回のオリンピックにおけるカーリングブームは社会現象に近いレベルになっています。

 カーリングのもぐもぐタイムで注目された北見市の赤いサイロは売り切れ状態が継続しているようですし、北見市へのふるさと納税も申込が急造しているそうです。

参考:殺到する北見市ふるさと納税 「カーリング」に使われる?市に聞くと...

 

■クラウドファンディングで注目すべき3つのポイント

 逆に言えば、このカーリング協会のクラウドファンディング苦戦に、今後のスポーツのクラウドファンディングのポイントがあるように感じます。

 今後、カーリング協会などスポーツ関係者の方々がクラウドファンディングを実施する際に、意識した方が良いのではないかなと感じるのは下記の3点です。

■個人の熱意を出す

■スポーツならではのリターン

■タイミング

 一つずつ解説します。

■個人の熱意を出す

 これはクラウドファンディングではある意味当然となりますが。

 成功したクラウドファンディングのほとんどが、発起人である個人が明確で、個人の思いが明記されています。

 銀行の融資や企業の投資が、通常は組織からの取引であるのに対し。

 クラウドファンディングでお金を出してくれるのは1人1人の個人です。

 クラウドファンディングの仕組み自体が、不特定多数の個人から個人への寄付であったり支援であったりしますから、この「相手の顔や熱意が見える」ことはとても大事です。

 対して、日本カーリング協会のクラウドファンディングでは、クラウドファンディングのプロジェクトの発起人が「日本カーリング協会」そのままになっており、事務局長名は明記されていますが少し事務的な印象があります。

 

 やはりここでは、もっと資金を集めたい人たちの顔や思いを明確に出して、素直になぜお金が必要なのか、を明確にすることが最重要と言えるでしょう。

 特に一般人からすると、「日本カーリング協会」のような立派な名前の組織であれば、お金にはそんなに困って無さそうに見えますし、そういう組織が寄付や支援を募っていても、共感しにくいのが現実です。

 オリンピックの報道の中でカーリングの選手が会社員やアルバイトと両立しながら競技を続けているという逸話が紹介されていましたが、素直に選手がそういった話を募集ページで紹介し、世界で勝ち続けるためには継続的な支援が必要であることを訴えることが、地味に重要なのではないかと感じます。

 実際、カーリング男子の山口剛史選手は個人でファンクラブ方式のクラウドファンディングを実施中。

出典:CAMPFIRE
出典:CAMPFIRE

参考:カーリング山口剛史のファンクラブ

 29人のパトロンが月額500円を支援してくれているようで、決して大きな金額とは言えませんが、実は3ヶ月でカーリング協会がACTNOWで集めた金額を抜く計算になりますから、個人にも関わらず健闘していると言えるでしょう。

■スポーツならではのリターン

 また、カーリング協会のページで個人的にもったいないなと感じるのが、リターンの設定です。

 前述の100万円が集まっている継続型のクラウドファンディングページでは、ストーン型ミニクッションや特製クリスタルストーンの在庫が多数残っているのに対して、20万円のカーリング指導や、10万円の日本選手権大会へのご招待は、1人しか申し込めず売り切れてしまっています。

 4万円しか集まらなかった昨年のクラウドファンディングでは、この20万円や10万円のコースが設定すらされていません。

 おそらくカーリング協会の方々は、他社のクラウドファンディングを参考にされて、お金を出してもらうからには何かしらミニクッションやクリスタルストーンという「モノ」を返さなければいけないと思い込まれている気がしますが。

 実際にはスポーツ選手に支援する方はカーリンググッズよりも、そのスポーツ選手とコミュニケーションができる機会だったり、実際に会える機会だったりの方がはるかに価値があると感じるはずです。

 カーリング業界の底上げのためにも、実はリターンとして、選手からの御礼の連絡がもらえるとか、カーリングの指導の機会を提供したり、カーリング選手がメダルを獲得した暁にはビデオ会議で質問を受け付ける機会を作るなど、「モノ」ではなく「体験」を提供する方が実はより多くの支援が得られるように感じます。

■タイミング

 さらにやはりクラウドファンディングで最も重要なのはタイミングです。

 カーリング協会としては、平昌オリンピックを1年後に控えた昨年のタイミングが一番お金が必要なタイミングなので、昨年からクラウドファンディングを開始したんだと思いますが。

 当然ながらカーリングが最も注目を集めるのは4年に1回の冬季オリンピックのタイミング。

 Googleトレンドでカーリングの検索数のグラフを作るとこんな感じです。

(出典:Googleトレンド)
(出典:Googleトレンド)

 今年の山がとにかく大きすぎますが、いずれにしても4年に一度スパイク状に話題になるのがカーリングの注目のサイクルなのは明確です。

 お金が必要なタイミングはオリンピック直前かもしれませんが、多くの人々がカーリングに注目し、カーリングを支援したいと思うのは冬季オリンピック開催期間中なわけです。

 本来なら日本中がカーリングに注目する冬季オリンピック期間中に4年後に向けた支援を募るのが、最もカーリング協会が支援金を集めるのにベストなタイミングと言えると思います。

 自動的にメディア露出も増えるわけですから、4年後に向けての支援を選手がメディアを通じて訴える機会もたくさん作れるはず。

 4年後なんて気長な話に支援が集まるのか?と思う人もいるかもしれませんが、実際に北京オリンピックを目指すアイスダンスのペアが200万円近い支援獲得に成功している事例もあるようです。

(出典:ACTNOW)
(出典:ACTNOW)

参考:【アイスダンス折原裕香&森望】2022年北京オリンピック日本代表を目指す!の支援者

 実は、カーリング協会も、まだ遅くないので、今から4年後のメダル獲得に繋げるための支援募集に、再度チャレンジしてみても良いのではないかなと感じる次第です。

 先日スポーツナビのインタビューでも提案したんですが、協会側の方々が手が回らないなら、ファンの方々に頼ってみるという手段もあると思います。

参考:時代とともに激変したファンとの距離感JリーガーのSNS事情を考える

 ちなみに、今すぐカーリング協会を支援したいと思った皆さんには、2015年から継続しているこちらのクラウドファンディングで、5000円で日本代表チームの直筆サイン入りポストカードがもらえる、というプライスレスなリターンがありますので、是非どうぞ。

出典:JUSTGIVING
出典:JUSTGIVING

参考:【毎日新聞×JapanGiving】カーリングに熱い声援を!

 個人的にも今回の平昌オリンピックでのカーリング観戦で、すっかりカーリングの魅力にとりつかれてしまいましたので、日本のカーリング選手の方々が競技に集中できる環境ができて、4年後の北京オリンピックはもちろん、それまでの様々な大会でもさらに素晴らしい日本勢の活躍が見られることを楽しみにしております。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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