綾瀬はるかのコカコーラ乾杯CMで考えるテレビCMの未来

(出典:日本コカ・コーラ株式会社公式ブランドサイト)

 日々、選手たちによる熱い戦いが繰り広げられている平昌オリンピックですが、その裏側でオリンピックのスポンサー企業による新しい挑戦への戦いも繰り広げられているようです。

 個人的に、ここまでのスポンサーによるテレビCMで最も印象に残ったのは、綾瀬はるかさんによるコカコーラの乾杯CMです。

(参考:コカ・コーラ公式ツイッターアカウントが2月18日に投稿した乾杯CM)

 これを私が最初に見たのは2月12日(月)夜、スピードスケート女子1500メートルで高木美帆選手の銀メダル獲得が放映された直後のことでした。

 競技の中継が終わってテレビCMに入ったと思ったら、「祝メダル」の文字の後に綾瀬はるかさんが登場し、「すごい!メダルおめでとうございます」と拍手して、「1500メートル、無駄のないなめらかな滑りが格好よかったです」と競技について言及。

 視聴者に対してコカ・コーラでの乾杯を促したのです。

 筆者個人もたまたま生で放送を見ていたため、正直、一瞬目を疑いました。

 綾瀬はるかさんが「メダルおめでとうございます」と発言し、1500メートルと競技名まで言及しているのですが、画面を見た感じ放送は生ではなく録画。

 当然ながらコカ・コーラ社が事前に競技の予測を正確にすることは占い師でも無い限り不可能ですから、このテレビCMは日本選手メダル獲得の結果が出てから放送するバージョンを選択していたことになります。

 もちろん、CM中では「銀メダルおめでとう」と言わずに「メダルおめでとう」でしたし、高木選手の名前も言及されていませんでしたから、ある程度制作するテレビCMのバリエーションは抑えるように努力しているのでしょう。

 ただ、テレビの関係者に聞いた限りでは通常のテレビCMというのは事前の入稿が必須で、放送直前にテレビCMを選択するのは放送事故の元なので、普通はできるだけ避けようとするやり方だそうです。

 今回の乾杯CMは、生中継の後に1本だけCMが流れてすぐにスタジオ放送に戻っていましたので、通常のテレビCM枠ではなく、番組中に企業のCM動画を流す方式の可能性が高い模様。

 ただ、それであっても当然間違えて別のバージョンを流すリスクがあることには違いないそうです。

 その後、特に同じようなCMが流れたという話は聞こえてこなかったので、てっきり一回きりの取り組みなのかなと思っていましたが、昨日のスピードスケート女子500メートルで小平奈緒選手が金メダルを獲得した後にも、同様のコカ・コーラの乾杯CMが流れたようです。

(注:記事冒頭のツイッター動画は、2月18日のスピードスケート女子500メートルのものです)

■乾杯CMはツイッター上でも話題に

 ちなみに、Yahoo!リアルタイム検索で「綾瀬はるか コーラ」という発言でグラフを作ってみると、1500メートルが放映された12日の夜と500メートルが放映された18日の夜に分かりやすく発言数のスパイクが発生しているのが分かります。

画像

(出典:Yahoo!リアルタイム検索

 もちろん、テレビCMの視聴者数を考えると発言数の437件というのは必ずしも非常に多い投稿数というわけではないですが、通常はテレビCMに対してあまり視聴者がツイッターに投稿するまで反応することが少ないのが普通です。

 実際にコカ・コーラでは乾杯CM以外にも、高橋大輔さんとのテレビCMを放映しています。このCMの発表会であった1月30日にはツイッターの発言数でスパイクが発生していますが、その後このテレビCMが放映される際には乾杯CMほどの盛り上がりにはなっていないと言えるでしょう。

 これはある意味、何度も繰り返し放映される通常のテレビCMにおいては当然のことです。

(【コカ・コーラ】 平昌2018冬季オリンピックキャンペーン 「夢の舞台」篇 30秒 ピーチ Coca-Cola TVCF)

 一方で、明らかに今回の乾杯CMは、視聴者がツイートしたくなるようなサプライズだったと言うことができるでしょう。

■視聴者がコンテンツとして見続けられるテレビCMとは

 また、ツイッター上の発言を一つ一つ見てみると興味深いのは、テレビCMからの乾杯発言に対して乾杯していたり、コーラが飲みたくなったり、という好意的な発言が多く見られる点です。

 オリンピックの生中継で、日本選手の活躍を生で目撃した人たちと、そのメダル獲得を祝うための乾杯という文脈は実に見事だったと言えると思います。

 テレビCMの枠をトイレタイムと揶揄する言い方もありますが、なぜテレビCM枠がトイレタイムになってしまうかというと、視聴者が見ている番組とは全く異なる文脈の企業側の宣伝メッセージの時間になるからです。

 それが、今回の乾杯CMは、明らかに視聴者にとって、メダル獲得を一緒に祝うための「コンテンツ」になっていました。

 家で一人で中継を見て、日本選手のメダル獲得に感動していた視聴者からすれば、テレビの向こうにいる綾瀬はるかさんと一緒にメダル獲得を乾杯で祝うという行為は、テレビを通じて綾瀬はるかさんや他の視聴者とつながりを感じる時間にもなっていたように思います。

 ネット広告においては、従来のネットユーザーの邪魔をするタイプの広告に対して、「ネイティブアド」や「スポンサードコンテンツ」と呼ばれる視聴者にとっての情報やコンテンツを企業が提供しようとする流れが生まれていますが、ある意味この乾杯CMもスポンサードコンテンツ的なテレビCMと言えるかもしれません。

 サッカー日本代表のワールドカップ最終予選のオーストラリア戦においても、日本が勝利し、ワールドカップ出場が決まった試合直後にキリンが生CMを流して勝利を祝うという取り組みが実施されていました。

 これは、キリンが長らく日本代表のスポンサーをし続けているからこその生CMだったと言えると思います。

参考:香川照之 W杯出場決定直後に史上初連動生CM「日本の強さは感動」

 

(参考:キリンサッカーCM 「サッカーは総力戦だ。」私たちの代表篇 (60秒))

 視聴者からすると、こうした「コンテンツ」となりうるテレビCMであれば、テレビCMの時間は必ずしもトイレタイムではなく、もう一つのコンテンツタイムになる可能性が見えてきているわけです。

■視聴者がコンテンツとして見続けられるテレビCMとは

 当然、ここで問題になるのはやはりテレビCMの制作の手間でしょう。

 通常のテレビCMは、大きな予算をかけていくつかの立派なテレビCMを作り、その同じ素材を様々なテレビ番組のCM枠に流すことを前提としています。

 これが、視聴者の「コンテンツ」となりうるテレビCMを目指すとなると、番組毎にテレビCMを作ることになり、非常に手間もお金もかかる話になってしまいがち。

 オリンピックやワールドカップであれば視聴者数も多いですし、話題にもなるので、一つ一つのテレビCMを複数バージョン作って直前で差し換えたり、生で流すコストをかける意味があるかもしれませんが、毎回そんなことをやっていたら手間がかかって仕方が無いわけです。

 数年前に、日産自動車が「リアル脱出ゲームTV」というドラマで、出演者が登場するスマホ連動テレビCMをドラマ専用に制作し、話題になったことがありますが、その後同様の施策が増えていないと言うことは、こうした取り組みがいかに手間かと言うことを表しているように思います.

 参考:「ネイティブアド」のあるべき姿を、日産自動車とTBSのテレビでの取り組みに学ぶ

 ただ一方で、そうした面倒とも言える手間をかけているからこそ、視聴者もビックリするし、スポンサーへの共感や感謝も生まれるという面もあるはずです。

 今回、綾瀬はるかさんの乾杯CMにおいても、事前に録画していると思うと逆に冷めるという人もいれば、乾杯CMを見逃したから次の競技では見たいと残念がる人もいたようで、意見が割れている印象もあります。

 ある意味、手間をかけることと、手離れの良さという効率性は対極にありますが、そのかけた手間がテレビCMの目的であるブランドへの共感や好意度アップにつながることが確認できるかどうかが、今後、こうした番組と連動したテレビCMが増えてくるかどうかのポイントになる気がします。

 そういう意味で、個人的には、サザエさんのテレビCM枠を落札したと噂になっているAmazonが、サザエさんの視聴者層を意識したテレビCMを投入してくるのかどうかに注目していたりもするのですが。

 長くなりましたので今日のところはこの辺で。

 平昌オリンピックの閉会式までに、もっと多くの綾瀬はるかさんの乾杯CMが見れることを楽しみにしたいと思います。