私たちが週刊文春に学ぶべき、強みを活かしたデジタルシフト

雑誌「編集会議」春号のトップ特集は週刊文春でした。

今年は週刊文春が本当に凄いですね。

ベッキーゲス騒動に始まり、甘利大臣の金銭授受疑惑、宮崎育休議員の不倫スクープに、ショーンKさんの経歴詐称騒動。

直近では舛添都知事を現在の窮地に追い込んだのも週刊文春の記事だそうです。

まだ2016年も5ヶ月しかたっていませんが、文春砲とかセンテンススプリングとか、週刊文春自体が流行語大賞にノミネートされそうな雰囲気で、その取材力の高さに大きな注目が集まっています。

なにしろ、編集会議の春号ではメイン特集で注目されていましたし。

『週刊文春』編集長インタビュー「紙の時代は終わった」は、売れないことの言い訳

中学生によるこんなインタビューも話題になるぐらいですからね。

「スクープで人を不幸にして楽しいですか?」と週刊文春に中2レポーターが切り込む報道番組

正直な話として、私自身はあまり芸能ニュースとか興味無いので、週刊文春はほとんど読んだことがなかったのですが、先日のベッキー復帰騒動の記事を書くにあたり、あらためて週刊文春の本誌やサイトをながめていて気になることがありました。

それは週刊文春のさりげないデジタルシフトです。

紙の雑誌業界は典型的な右肩下がり

ぶっちゃけ、私は週刊文春って、普通の紙の雑誌だけやってる媒体だと思い込んでいたんですよね。

いわゆる紙の雑誌は、当然ながらネット普及やスマホ普及の煽りを受けて業界全体が典型的な右肩下がりの業界です。

当然、紙の発行にはコストがかかるので、最低限の発行部数を維持できない雑誌は次々に廃刊に追い込まれているのが現状。

一方で、ウェブ上での情報発信は、バイラルメディアという言葉が一時期はやりましたが、ブログ的なシステムを使えば個人でも立ち上げられてしまうので、雨後の竹の子のようにさまざまなメディアが乱立し、正直もはやカオス状態。

雑誌社の方のお話をお聞きしていると、大抵は紙の雑誌だけでは先細りなのは分かってるんだけど、ウェブ側は広告収入が安すぎてまったくスタッフを養っていくのに足りる収益をあげられそうにない。という話になるんですよね。

まぁ、一般的なバイラルメディアとかは、大学生とか主婦のバイトとかに二束三文で記事を書かせていたりするケースも多いわけで、そういうところと単純にPV獲得競争してもそりゃあ不毛な戦いです。

そういう意味で、本当に紙の雑誌は業界的に厳しいというのが個人的な印象です。

参考:出版物の分類別売上推移をグラフ化してみる(2015年)(最新)

出版物の売上推移:ガベージニュースより
出版物の売上推移:ガベージニュースより

週刊文春は紙の雑誌における数少ない勝ち組

ただ、紙の雑誌がウェブメディアに対して明らかに有利な点が一つありまして。

それが一冊丸ごとお金を払って購入してもらえる、というビジネスモデルです。

ウェブメディアだと、そもそも記事をお金を払って買うというビジネスモデル自体がほとんど上手くいきません。

月額料金制のサイトは別として、1記事数十円で買うとかっていうのは面倒ですし、他に無料で似たような情報を読めてしまうと言う感覚があるので、どうしても個別の記事を読むのにお金を払うのにほとんどの人が躊躇します。

そうすると結局広告だけに頼る羽目になり、1記事1記事読者をがんばって連れてきて、その読者の中のわずかな人に広告を踏んでもらって、ようやく収入が入る、というビジネスモデルになってしまうわけです。

でも、雑誌は「一冊」というパッケージで、数百円とかまとめてお金を払ってもらえるんですよね。

で、さらにもう一つ重要なのがテレビの報道番組との相性の良さ。

今回の週刊文春が証明したように、テレビで週刊誌のスクープが取り上げられると、当然視聴者はその中身が気になる人が増えるわけで、雑誌を買う人が増えるわけです。

この時、そのスクープ記事「1記事」が読みたいだけでも、「一冊」分の料金を支払ってもらえる、というのが味噌ですよね。

同様の構造はスポーツ新聞にも言えるんですが、どうしてもスポーツ新聞で取り上げられているニュースは、テレビで見てしまえば大体分かってしまうため、意外にスポーツ新聞自体の売上には貢献しないそうです。

それに比べて雑誌は比較的記事が長いので、テレビで放送されるよりも深い内容を掲載でき、テレビを見た人が雑誌を買う、というサイクルがまわりやすい媒体と言えます。

さらに最近の週刊文春は、テレビ局に記事の使用料を払ってもらうというビジネスモデルも確立したと言うからすごいです。

「週刊文春」と「週刊新潮」がテレビ局に強気姿勢 記事の使用料を要求

そういう意味では、週刊文春は紙不況時代における、数少ない紙媒体としての「勝ち残り組」であるのは間違いありません。

なので、私自身は週刊文春は「紙媒体」とばかり思い込んでいたわけです。

2年前から周到に始められていた週刊文春のデジタルシフト

でも実は違うんですよね。 

そうした従来の雑誌としての確立されたビジネスモデルがあるにも関わらず、実は週刊文春ってデジタル側の取り組みをもうこの2年ぐらい結構進めてるそうなんです。

象徴的なのはニコニコチャンネルで実施している有料の週刊文春デジタル

週刊文春デジタル(週刊文春デジタル) - ニコニコチャンネル

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ニコニコで「週刊文春デジタル」配信開始、雑誌発売日に記事をメルマガ配信

こちらは2年前に開始されたもので、月額800円で週刊文春の記事をデジタルで読めるというもの。

会員数はまだ6000名程度で、当初目標の1万人には届いていないようですが、普通なら週刊文春を購読しなさそうな若者を中心に有料会員を集められているという点で興味深い取り組みです。

800円で6000名と言えば、約月間500万円ですからね。

紙媒体の収益としては大した金額ではないかもしれませんが、ネットのバイラルメディアがGoogle Adsenseとかのバナー広告だけで月500万稼ごうと思ったら、それはそれでなかなか大変なわけです。

読者との「共創」を実現する文春リークス

さらに有料配信より興味深いのが「文春リークス」という匿名での情報提供の仕組みが確立されていること。

文春リークス あなたの目の前で“事件”は起きている!

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従来、メディアへの匿名での情報提供というと、手紙というのが一般的なイメージでしたが、文春はそこをウェブ経由で集める仕組みを作っているんですよね。

ある意味、これは読者と一緒に特集を「共創」している仕組みということもできます。

この情報提供の仕組みがどれぐらい昨今のスクープ連発に貢献しているかどうかは分かりませんが、当然他社に比べて編集部に入ってくる情報量は増えているはずで。情報提供をした読者と編集部の結びつきも強くなるはずです。

紙の編集部が、デジタルを通じた読者からの情報提供を自社の取材サイクルに組み合わせることで、自社の強みを強化できるわけです。

ネット側のリークを売上につなげるサイクルも模索

また、週刊文春では雑誌の記事をオンライン側に一部自らリークして、Yahooニュースでの話題化を狙うというサイクルも既に確立されているそうです。

ベッキーから週刊文春編集部に手紙が来た!

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何でも記者の方々からすると、従来の雑誌だと自分の書いた記事の反響が記事単位では分からなかったところが、オンラインだと明確に記事単位で反響が見えるからやり甲斐も結構でるんだとか。

このオンライン側での刺激が、また新しいスクープを取りに行くエネルギーにもなっているわけです。

で、この一部リーク記事からは、週刊文春デジタルへの入会誘導や、オンライン書店での購入リンクもされているわけで、紙用に作ったコンテンツをデジタル側でも有効活用するというサイクルが見事に組み合わされているわけです。

週刊文春はデジタルシフトに成功したのではないか

今年に入ってからの週刊文春のスクープラッシュがあまりに凄かったので、さすがに年の後半は失速するだろうという見方を持っている方も多くいるようですが。

実は舛添都知事のスクープなんかは、公開文書を丁寧に文春の記者が分析したから書けた記事であって、実は公開されている情報だから他のメディアも同じことができたはず、と悔しがっている声が聞かれます。

そういう意味では、文春が2年間かけて成し遂げたデジタルシフトが実を結びつつあるからこそ、それによるビジネスモデルの複合化によって収益体質が安定しつつあるからこそ、55人もの精鋭部隊を維持してスクープを生むための取材にエネルギーをかけることができているからこそ、今の週刊文春のスクープラッシュは生まれているのかもしれないわけです。

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昨日開催された日本マーケティング大賞の授賞式では、文藝春秋から発売され出版不況にもかかわらず驚きの240万部を突破した小説「火花」が奨励賞に輝いていましたが、実はこの「火花」の大ヒットも文藝春秋がテレビとデジタルや芸人の舞台などを総合的に組み合わせて、複合的なマーケティングPR施策を展開したからこそ生まれたもののようですから、実は文藝春秋では週刊文春だけでなく、様々な取り組みがデジタルシフトしつつあるのかもしれません。

私たちが週刊文春から学ぶべきは、紙とネットを縦割りで考えるのではなく、従来持っていた強みを活かしながらも読者が求める方向にデジタルを組み合わせてビジネスモデルをシフトしていく、柔軟な思考力なのではないかという気がしてきます。

逆に言うと、個人的にはBuzzfeedやNewsPicksのようなネットメディア側がどのようにネット以外と組み合わさっていくのかにも興味があるのですが。

長くなりましたので今日の所はこの辺で。