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「一生に一度は滞在してもらいたい」プロ目線で選ぶ今年のベストホテル(国内編)

寺田直子トラベルジャーナリスト 寺田直子
ハレクラニの象徴がオーキッドプール。150万枚のタイルを埋め込んでいる/筆者撮影
サンセットウイングのロビー。水平線をのぞむ空間は夕景スポットでもある/筆者撮影
サンセットウイングのロビー。水平線をのぞむ空間は夕景スポットでもある/筆者撮影

2019年7月26日、ハレクラニ沖縄がオープンした。場所は沖縄本島・恩納村の海岸線。沖縄海岸国定公園内に位置する。ハレクラニはご存知の方も多いだろうがハワイ・ワイキキにある名門ホテル。その初の海外進出となったのがここ沖縄だ。

ハレクラニとはハワイの言葉で「天国にふさわしい館」という意味を持つ。

1883年、ワイキキのビーチ沿いにバンガロー5棟だけの小さな宿「ハウツリー・ホテル」が誕生。それがハレクラニの前身となる。1917年に実業家のクリフォード・キンバルが買い受け、「ハレクラニ」と名付けて営業を開始したことによってハレクラニの歴史がスタートする。1932年に現存する本館、2階建てのバンガローなどが増築されたのち、1981年、三井不動産が取得。一大改装を経てクラシックな面影を残したエレガンスさでワイキキを代表する高級リゾートホテルとして今も愛され続けている。

その名門ホテル初の日本国内リゾートの開業だけに、多くのハレクラニ・ファンの期待も高まったはずだ。

サンセットウイングのロビーからは青のグラデーションが美しい水平線が。階下にはオーシャンテラスプールがある/筆者撮影
サンセットウイングのロビーからは青のグラデーションが美しい水平線が。階下にはオーシャンテラスプールがある/筆者撮影
おなじくサンセットウイングのロビーからの夕景。見飽きることがない/筆者撮影
おなじくサンセットウイングのロビーからの夕景。見飽きることがない/筆者撮影
ビーチフロントウイングのロビー。ハレクラニらしいオフホワイトとブルーが上品だ/筆者撮影
ビーチフロントウイングのロビー。ハレクラニらしいオフホワイトとブルーが上品だ/筆者撮影

サービスやホスピタリティも一流だが、ハレクラニ沖縄の真骨頂はロケーションとハード、つまり建物のみごとさだと実感した。

岬の突端という地形を活かし、宿泊棟は入り江になった北東側のビーチフロントウイングと、西側に面したサンセットウイングに二分される。名物のオーキッド・プールに直結するビーチフロントのほうがファミリー向け、静かなサンセットウイングはご夫婦やカップルなど大人の滞在向けといった印象を与える(もちろんどちらもゲストの好みで選べる)。

筆者はまずサンセットウイングに到着、チェックインとなったが、ロビーに入り鮮やかなブルーのグラデーションの海が目に前に飛び込んできたときはそのドラマチックさに素直に感動してしまった。ブルーラグーンの美しい海はそれだけで最上級のもてなしになる。海は刻々と表情を変え、夕暮れにはこれもまたみごとなサンセットをゲストに披露。開け放たれた空間はまさに一枚のアートのように心に染み入った。

サンセットウイング側の客室。プランテーション・ルーバーと呼ばれる白いスライド扉などがワイキキのハレクラニを思わせる/筆者撮影
サンセットウイング側の客室。プランテーション・ルーバーと呼ばれる白いスライド扉などがワイキキのハレクラニを思わせる/筆者撮影
バスルーム例。シャワーの水圧は完璧。お湯張りもストレスない短時間。ハードの快適さが際立つ/筆者撮影
バスルーム例。シャワーの水圧は完璧。お湯張りもストレスない短時間。ハードの快適さが際立つ/筆者撮影
コーラルスイートの贅沢なビューバス/筆者撮影
コーラルスイートの贅沢なビューバス/筆者撮影

客室はビーチフロント、サンセットウイングあわせて全360部屋。すべてオーシャンビューだ。一般的な客室は階層や眺望によって5つのタイプに分かれ308部屋、広さはいずれも50平方メートル。加えて贅沢な空間と圧巻のオーシャンビューのスイートルームが47部屋、さらにプライベートプール(温水)と天然温泉を備えたヴィラが5棟。

ハワイのハレクラニを知っているゲストなら、客室も実にハレクラニらしいと思うだろう。

ハレクラニには「セブン・シェイズ・オブ・ホワイト(七色の白)」と呼ばれる基調となる客室のカラートーンがある。オフホワイト、アイボリー、ライトベージュなど微妙なニュアンスの白を配したベッドまわり、インテリアは実にエレガント。テラスの先に広がる青い海とのコントラスト、自然光のきらめきが極上のリゾート感を演出する。

このエレガントな空間をデザインしたのは世界中のラグジュアリーなホテルやリゾートを手がけたニューヨークを拠点とするシャンパリモード・デザイン社。上品さに定評がある。そして、その洗練されたデザインをきっちりと形にした日本側の設計・施工チームのすばらしさも実感する。細かな部分も手を抜くことなく丁寧に仕上げた空間の言葉にならない心地よさ、それがハレクラニ沖縄に特別感を与えているように感じた。

シルーの料理例。沖縄の伝統食材イラブー(ウミヘビ)の出汁を使った温かい前菜/筆者撮影
シルーの料理例。沖縄の伝統食材イラブー(ウミヘビ)の出汁を使った温かい前菜/筆者撮影
シルー料理例。沖縄のブランド牛「もとぶ牛」のステーキ。スライスしたタロイモ、骨髄と島コショウのソースを添えて/筆者撮影
シルー料理例。沖縄のブランド牛「もとぶ牛」のステーキ。スライスしたタロイモ、骨髄と島コショウのソースを添えて/筆者撮影

ハレクラニ沖縄開業で食通たちの間で話題になったのが、レストラン「シルー」。店名は沖縄の言葉で「白」を意味する。ミシュラン二つ星を獲得、また2019年度アジアのベストレストラン50でNo.5に選ばれた東京・外苑前「フロリレージュ」の川手寛康シェフが監修するイノベーティブなダイニングだ。

ワイキキのハレクラニはロブスターやプライムビーフのステーキといったオーセンティックなメニューが味わえる「ラ・メール」が有名だが、それとは真逆の沖縄の伝統食材、ハーブなどを多用しつつ、エッジがかなり効いた川手シェフの革新的な料理が登場する。おもしろがって楽しめるかどうかはゲスト次第だろうか。川手シェフは環境問題にも取り組んだ食材を使うなどサスティナブルに注力する料理人でもある。沖縄のラグジュアリーなリゾートのメインダイニングとして個性あふれる稀有な存在になることを期待する。

ハウス ウィズアウト ア キーの朝食ブッフェにはアサイーなどハワイらしいメニューも/筆者撮影
ハウス ウィズアウト ア キーの朝食ブッフェにはアサイーなどハワイらしいメニューも/筆者撮影
オールデイダイニングのハウス ウィズアウト ア キー。アフタヌーンティーも楽しめる/筆者撮影
オールデイダイニングのハウス ウィズアウト ア キー。アフタヌーンティーも楽しめる/筆者撮影
日本料理の青碧蒼(あおみ)では会席やアグー豚のしゃぶしゃぶ、寿司などのメニューがそろう/筆者撮影
日本料理の青碧蒼(あおみ)では会席やアグー豚のしゃぶしゃぶ、寿司などのメニューがそろう/筆者撮影

ハワイらしさを踏襲するのは、オールデイダイニングのハウス ウィズアウト ア キー。同名のレストランはワイキキのハレクラニの名物のひとつ。キアヴェと呼ぶ大樹の木陰で毎晩、ハワイアンミュージックとフラのショーが開催されることで知られるが、沖縄でも同様のエンターテイメントが行われ、ハレクラニ・ファンにはうれしいところだ。また、毎週一回開催される総支配人主催の宿泊ゲストのためのカクテルパーティもハワイ同様に行われ、こちらもハレクラニの伝統を受け継いでいる。ハレクラニ沖縄の総支配人は吉江潤氏。ザ・リッツ・カールトン沖縄の総支配人を長年務め、沖縄を熟知した逸材。沖縄開業にあたり彼のもとに集まったホテリエたちも少なくなかったと聞く。オープニングスタッフの層の厚さを感じた背景には吉江氏の存在が大きかったようだ。

100年以上の歴史あるハワイの名門ホテルの日本上陸。新しさの中にそのクラシカルな魅力を継承する姿勢が好ましい。すでに完成された感のあるハードにこれから刻んでいくのはゲストと共に重ねていくハレクラニ沖縄としての伝統と品格だろう。その先の100年への期待をこめて今年の国内ベストホテルとしてみたい。

筆者撮影
筆者撮影
トラベルジャーナリスト 寺田直子

観光は究極の六次産業であり、また災害・テロなどのリカバリーに欠かせない「平和産業」でもあります。トラベルジャーナリストとして旅歴35年。旅することの意義を柔らかく、ときにストレートに発信。アフターコロナ、インバウンド、民泊など日本を取り巻く観光産業も様変わりする中、最新のリゾート&ホテル情報から地方の観光活性化への気づき、人生を変えうる感動の旅など国内外の旅行事情を独自の視点で発信。著書に『ホテルブランド物語』(角川書店)『泣くために旅に出よう』(実業之日本社)、『フランスの美しい村を歩く』(東海教育研究所)など。

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