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能登半島地震/復興の邪魔をせず、旅行者が被災地で応援できること、エリアを調べてみた 七尾・和倉温泉編

寺田直子トラベルジャーナリスト 寺田直子
のと里山海道は金沢など各方面から能登半島をつなぐライフライン(筆者撮影)

2024年3月23日、24日で能登半島を取材した。目的は復旧から復興へと進む中で、復旧工事や被災された皆さんの邪魔をすることなく観光でどこまで行っていいのか、何ができるのか。それを確認することだった。

現地に行くにあたり、まず筆者が行っていいものか悩んだ。これまで10年近く、石川県のスローツーリズム事業で能登半島には何度も訪れ、多くの友人知人たちがいる。まず彼らとオンラインで打ち合わせをし、筆者の思いと今はまだ行くタイミングではないかもと迷っていることを話した。その際、友人のひとりが「ぜひ、今の能登を見てほしい。これまでの能登を知っている人に記録をしてもらいたい。同行しますので」と言われ、訪問する決断をした。もちろん現地の復旧・復興活動や地元の皆さんの邪魔にならないのは当然のこと。想定する事態のための準備は入念に行った。それが3月上旬のことだった。


※記事内の写真は取材時の2024年3月23日、24日に撮影したものです。状況は随時、変わっていくので実際に訪問する際は最新情報をチェックしてください。

北陸新幹線延伸もあり、にぎわうJR金沢駅。外国人観光客も多い(筆者撮影)
北陸新幹線延伸もあり、にぎわうJR金沢駅。外国人観光客も多い(筆者撮影)

23日、かがやき501号で朝8時43分、金沢駅に到着。東京を出発して約2時間30分。観光客は多く、金沢はいつもどおりに観光を楽しめるムード、受け入れ態勢になっていることを感じた。

到着後、ホテルにスーツケースを預け取材態勢の身支度で友人と合流。駅前でレンタカーを借りてまず向かったのは金沢市金石(かないわ)の港で開催された「出張輪島朝市in金石」。輪島朝市のエリアが大規模な火災で焼失してから初めての出張形式での開催で、あいにくの冷たい雨にもかかわらず大盛況。29店舗が自慢の海産物、輪島塗の製品、能登産の塩などを販売。久しぶりの接客、朝市のムードに笑顔が広がっていた。この出張朝市、次回はGWあたりに開催を予定。金沢で復興応援できるイベントになりそうだ。

輪島での再興を応援しようと約1万3000人が来場(主催者発表)。甘エビなど早々と売り切れる商品も多かった(筆者撮影)
輪島での再興を応援しようと約1万3000人が来場(主催者発表)。甘エビなど早々と売り切れる商品も多かった(筆者撮影)

その後、のと里山海道を通って向かったのは七尾。能登半島の首根っこの部分、七尾湾に面し、和倉温泉があることで知られる観光地だ。2024年3月27日現在、のと里山海道は金沢方面・徳田大津インターチェンジから、輪島方面に向かうのと里山空港インターチェンジまで一方向通行になっている。逆の能登方面から金沢へ戻る車線は通行不可で249号線、159号線といった一般道を走行する。金沢から和倉温泉までは距離にして約70キロ。通常は1時間ほどで到着する。この日、七尾までは問題なく快適な走行だった。ただ、金沢へ戻る帰路は一部、一般道を通るため所要時間が余計にかかった。さらに道路が地震の影響でところどころ隆起したり、迂回したりという環境のため夜間はもちろん昼間も含め運転は慎重に行ってほしい。道路修復工事は日々、進められているので今後、走行状況も変わっていくだろう。

鉄道はJR七尾線が金沢~七尾・和倉温泉間を特急「能登かがり火」を含め運転時刻を一部変更して運行。観光列車で人気があった「花嫁のれん」は当面運休となっている。のと鉄道は七尾~能登中島間は運行。能登中島~穴水間は2024年4月6日運行再開予定(それまでは代替えバスを運行)になっている(いずれも2024年3月27日時点)。

七尾に向かうにつれ、道路の損傷が大きくなっていった(筆者撮影)
七尾に向かうにつれ、道路の損傷が大きくなっていった(筆者撮影)

和倉温泉は宿泊施設が営業再開していないが、3月26日に人気の日帰り入浴施設「総湯」が断水が解消されたことで一般客に向けて営業を再開した。源泉も豊かに湧出し、観光客が戻ってくる日を待っているかのようだった。

また、地元に愛される洋食の名店「ブロッサム」も3月26日、いち早く仮オープンをした。若手として活躍が注目される黒川恭平シェフは国内外で研鑽を積み、ご両親が経営していた「ブロッサム」を継承するため生まれ故郷に戻ってきた。当面はメニューも限定的とのことだが、和倉温泉に日常が戻る一歩と期待したい。「総湯」近くではパン屋「アンリス」が営業していた。評判の豆パンなど種類も多く、滞在中の腹ごしらえにありがたい存在。周辺は多くの住宅、店舗が倒壊したままなどといまだ復旧を待っているものも多い。あくまでも地元の方の暮らしを優先・尊重しつつ、日帰りで訪ねてもいいのではと感じた。

いち早く再開した日帰り温泉「総湯」。営業時間が短縮されているので事前に確認を。周囲は修復を待つ歩道・家屋などがある状態(筆者撮影)
いち早く再開した日帰り温泉「総湯」。営業時間が短縮されているので事前に確認を。周囲は修復を待つ歩道・家屋などがある状態(筆者撮影)

源泉は元気よく湧出。名物「温泉卵」は近くで営業するスーパーで卵の購入が可能。「温泉卵にするの?」と卵を入れるネットをくれた。その心づかいがうれしい(筆者撮影)
源泉は元気よく湧出。名物「温泉卵」は近くで営業するスーパーで卵の購入が可能。「温泉卵にするの?」と卵を入れるネットをくれた。その心づかいがうれしい(筆者撮影)

営業中のサインがうれしい。ベーカリー「アンリス」(筆者撮影)
営業中のサインがうれしい。ベーカリー「アンリス」(筆者撮影)

「アンリス」の豆パン。たっぷりの豆が食欲をそそる。焼きたてのパンの香りが心を癒す(筆者撮影)
「アンリス」の豆パン。たっぷりの豆が食欲をそそる。焼きたてのパンの香りが心を癒す(筆者撮影)

和倉温泉から七尾市街に向けて出発。目的地は一本杉通り。七尾市の中でも被害が大きかったエリアだ。

一本杉通りは、600年以上の歴史を持ち、国登録有形文化財に指定された町家が並ぶ歴史ある地区。毎年5月に開催される青柏祭(せいはくさい)はユネスコ無形文化遺産に登録される伝統行事。巨大な曳山が一本杉通りを進む様子は圧巻。残念ながら今年令和6年は開催中止が決まっている。来年開催されることを多くの地元のみなさんが待ち望んでいることだろう。

通りに入ると七尾駅周辺よりも災害の大きさが甚大なことがわかる。古い町家の風情が魅力だっただけに現状に胸がつぶされるように痛む。そんな中、場所を変えて仮店舗で再開していたのが「高澤ろうそく」だ。創業1892年。和ろうそく一筋に製造・販売してきた老舗だ。仮店舗ながらのれんを掲げ、灯りがともった店内を見るだけでホッとする。筆者もあれこれと土産に愛らしい商品を購入。「わざわざ来てくださってありがとうございます。うれしいです」とおかみさんに言われると、純粋に来てよかったなと思った。店の外に出て見送ってくれた姿に会釈をして笑顔で手をふった。

一本杉通りは多くの家屋が倒壊。通行制限はなく歩いてまわることは自由にできた(筆者撮影)
一本杉通りは多くの家屋が倒壊。通行制限はなく歩いてまわることは自由にできた(筆者撮影)

手仕事で生まれる高澤ろうそくの和ろうそく。モダンなデザインのものなどオンラインでも購入できる(筆者撮影)
手仕事で生まれる高澤ろうそくの和ろうそく。モダンなデザインのものなどオンラインでも購入できる(筆者撮影)

仮店舗も一本杉通りにある。本店は登録文化財にも指定されている築100年を超える建物、現在再開に向けて尽力されている(筆者撮影)
仮店舗も一本杉通りにある。本店は登録文化財にも指定されている築100年を超える建物、現在再開に向けて尽力されている(筆者撮影)

一本杉通りには「予約が取れない店」として知られる日本料理「一本杉 川嶋」がある。オーナーの川嶋亨さんは七尾出身。かつて文具店だった国登録有形文化財の古民家を改修した店内で京都仕込みの腕を活かし、能登や石川県の豊かな食材を使った一流の味を提供、食通たちをうならせてきた。店の隣に宿泊施設を開業する準備をしていたところで被災した。

震災前から生まれ育った場所を「食」で元気にしたいと一本杉通りの活性化に取り組んできた川嶋さん。震災後は炊き出しを料理人仲間や友人知人たちと行ってきた。今後の方向性は未定だが、クラウドファンディングを募り一から再生を始めようとその想いは力強い。

地震で外壁がはがれ落ちてしまった「一本杉 川嶋」。左隣りにあった宿泊施設の建設が始まっていた建物も危険なため取り壊され更地に(筆者撮影)
地震で外壁がはがれ落ちてしまった「一本杉 川嶋」。左隣りにあった宿泊施設の建設が始まっていた建物も危険なため取り壊され更地に(筆者撮影)

七尾にはもう一軒、食通に高い評価を受けるイタリアン「ヴィラ・デラ・パーチェ」がある。市内から車で約20分。オーナーの平田明珠(めいじゅ)さんは東京出身。震災による店舗の被害は比較的、小さかったが前述の川嶋さんたちと同様に炊き出しに従事。復興への新しいフェーズに入り、炊き出し活動からいったん手が離れたことで2023年3月29日から営業を再開。レストランに併設する宿泊施設も予約を受け付けはじめた。

今回、実際に地震の影響のあった場所を訪れて、七尾・和倉温泉へは金沢からあまりストレスなく行くことはできると思った。ただし一般向けの宿泊施設はなく、生活インフラも限定的なのであくまでも日帰りというのが適切だ。なお、トイレは簡易トイレのほか、公衆トイレも徐々に使用可能になっていた。和倉温泉なら「和倉温泉お祭り会館」(現在臨時休業)前の駐車場にある公衆トイレが使用可能に。七尾ならJR七尾駅のトイレが、また一本杉通り近くなら石川県七尾合同庁舎に設置された仮設トイレが一般でも利用できる。利用したトイレはいずれもトイレットペーパーも備わっていた(場所によっては流さず備え付けのゴミ箱に入れるところも。使用前に注意書き・張り紙に必ず目を通すように)。周辺のコンビニも営業しているので最低限、身の回りの品、ウェットティッシュなど衛生用品などを持参する程度でいいと感じた。なお、ゴミ処理は被災地の大きな課題なので自分が出したゴミは持って帰りたい。

まずは日帰りで。すでに再開している施設・店舗を応援する気持ちで行ってもらいたい。日常を取り戻そうと再起しはじめたところから経済をまわし、交流を生み出すことがわたしたち旅行者にできることのひとつだと思っている。

わたしたちの能登半島・北陸への応援はそこからスタートする。

全取材を終えて金沢に戻る途中。穴水・七尾湾に浮かぶ名所「ボラ待ちやぐら」は無事だった。満月にちかい月光が美しく湾を照らしていた(筆者撮影)
全取材を終えて金沢に戻る途中。穴水・七尾湾に浮かぶ名所「ボラ待ちやぐら」は無事だった。満月にちかい月光が美しく湾を照らしていた(筆者撮影)

トラベルジャーナリスト 寺田直子

観光は究極の六次産業であり、また災害・テロなどのリカバリーに欠かせない「平和産業」でもあります。トラベルジャーナリストとして旅歴35年。旅することの意義を柔らかく、ときにストレートに発信。アフターコロナ、インバウンド、民泊など日本を取り巻く観光産業も様変わりする中、最新のリゾート&ホテル情報から地方の観光活性化への気づき、人生を変えうる感動の旅など国内外の旅行事情を独自の視点で発信。著書に『ホテルブランド物語』(角川書店)『泣くために旅に出よう』(実業之日本社)、『フランスの美しい村を歩く』(東海教育研究所)など。

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