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地震、噴火、豪雨が頻発する日本には「災害省」が不可欠

巽好幸ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)
(写真:Duits/アフロ)

 2018年も災害が多発している。年明け早々に草津白根山の水蒸気爆発で犠牲者が出た後も、霧島火山群では新燃岳と硫黄山が噴火し、8月15日には口永良部島の噴火警戒レベルが4(避難準備)に引き上げられた。また、6月16日には大阪北部で最大震度6弱の直下型地震が発生した。さらに6月下旬から7月初めにかけて、西日本を中心に北海道や中部地方など全国的に広い範囲で豪雨となり、死者数は200人を超えた。

 そんな中、「防災省」設置が少し話題になっている。ある自民党総裁選出馬予定者は、「防災という文化が伝承されないまま国の行政が動くのはいいことではない。体制を整備するため防災省が必要だ」と述べた。同様の提案は、全国知事会や関西広域連合、それに日本学術会議でもなされているが、官邸側は「初動対応は内閣官房が一元的に総合調整を行うなど省庁横断的な対応がなされており、平時から大きな組織を設ける積極的な必要性はただちに見いだしがたい」と素っ気ない。私には自明に思えるのだが、「見いだしがたい」ということなら、その必要性を改めて明示することにしよう。ただし、被害を出さないこと(防災)は不可能であるので、以下では防災省に替えて「災害省」という語を用いる。

世界有数の「災害大国」日本

 まず、地球上のわずか0.3%の面積を占めるにすぎないこの国で、いかに災害が多発しているかを再認識しよう。

  • 日本およびその周辺では世界で起こるマグニチュード6以上の地震の約1割が発生している。2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)以降はさらに高い割合になる。
  • 日本には111、地球上の活火山の約1割が集中する。
  • 日本は例年、インド、米国、インドネシア、中国などと共に、自然災害発生国別ランキングの上位常連国である。
  • 日本の災害被害額は、東日本大震災以前でも世界の総被害額の約1割を占めている。

なぜ日本は災害が多いのか?

 我が国が世界有数の災害大国となっている原因として次のことが考えられる。

  • フィリピン海プレートと太平洋プレートの2つのプレートが日本列島下に沈み込む。これらのプレートの特性と相互作用によって日本列島には大きな歪みが蓄積して地震が多発する。
  • 北海道、東北、中部、関東、伊豆・小笠原、それに九州地方では、プレートが高速で沈み込むのでマグマの生成が活発である。
  • 日本列島はアジアモンスーン地帯に位置し、降水量が多い

災害はますます多発し巨大化する

 最近よく耳にするフレーズに「これまでに経験したことのないような○○」がある。このような未曾有の災害が将来も必ず起きることは、以下のことから明らかである。

  • 人口・機能の集中する地域を襲う首都直下地震南海トラフ地震は今後30年に80%程度の確率で発生する。
  • 日本列島には未確認の活断層が多数存在し、これらは直下型地震を引き起こす。
  • 人間活動に起因する可能性が極めて高い地球温暖化は、豪雨・水害を多発かつ巨大化させる。
  • 最悪の場合この国を壊滅させる巨大カルデラ噴火は、今後100年に1%の確率で発生する。

明日は我が身、子々孫々は不可避:ではどうするか?

 もはや明らかであろう。「自分だけは大丈夫」という根拠の無い思い込み(正常性バイアス)、「儚きもの」に美を感じる無常観、「目先の利益」を追い求める刹那主義にどっぷり浸かって、災害と闘う長期戦略を練ることを放棄してきた日本人には、このままでは平穏な未来は望めそうにない。もちろん自らが難儀することも十分にあるのだが、何と言ってもつけを払う可能性が高いのはこれからの世代である。

 行政や政府の災害対策に関する不備を指摘するのは簡単だが、そもそもその元凶は私たちの不徳にあることは確かだ。だから、これほどまでに切羽詰まった状況にあって、これまで通りの取組で状況が好転するとは思えない。自然はただただ歴史に忠実である上に、人間活動に起因する前代未聞の変化を遂げている。日本人の悠長な取組を待ってくれるほど慈悲深くはないのだ。

 国家と民族の危急存亡の秋にあって起死回生の策として期待したいのが、政府のリーダーシップによる「災害省」の設置である。地震、火山、気象などの災害を引き起こす現象の観測と先端研究、災害大国にふさわしい倫理観の模索と教育、長期的視野に立った減災対策、それに災害時の適切な対応などを、「省庁横断的な対応」ではなく一元的に実行する組織が不可欠だ。国家には、国民の安心と安全を確保する義務がある。

ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)

1954年大阪生まれ。京都大学総合人間学部教授、同大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授、海洋研究開発機構プログラムディレクター、神戸大学海洋底探査センター教授などを経て2021年4月から現職。水惑星地球の進化や超巨大噴火のメカニズムを「マグマ学」の視点で考えている。日本地質学会賞、日本火山学会賞、米国地球物理学連合ボーエン賞、井植文化賞などを受賞。主な一般向け著書に、『地球の中心で何が起きているのか』『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』(幻冬舎新書)、『地震と噴火は必ず起こる』(新潮選書)、『なぜ地球だけに陸と海があるのか』『和食はなぜ美味しい –日本列島の贈り物』(岩波書店)がある。

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