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自民党総裁選の4候補 その資金力を比較

立岩陽一郎InFact編集長
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

自民党の総裁選は4候補による討論会が連日開かれている。そこで少し違う観点から4候補を見てみたい。政治資金だ。誰がどう政治資金を集め、どう使っているのか?その結果は・・・。

資金力トップは岸田氏

これまで政治資金収支報告書(以後、収支報告書)の分析から、自民党などの表に出ない金の存在を伝えてきた。今回は、この収支報告書から、自民党の総裁候補の政治資金の内容を見る。

河野太郎氏、岸田文雄氏、高市早苗氏、野田聖子氏の4人はどのくらいの規模でどのように政治資金を集め、そしてどう使っているだろうか?

公表されている最も新しい2019年の収支報告書から見ていきたい。それぞれの候補は自民党の支部の支部長を務め、それぞれが代表となる政治団体を持ち、それ以外にも後援会を持っている。また政治団体の数に制限は無い。ここでは資金の出入りの多い主要な団体を対象にしている。岸田候補、高市候補、野田候補については政党支部、自身の政治団体に加えて後援会を入れている。河野候補については政党支部と政治団体のみを計算している。それを表にすると以下の様になる。

各候補の政治資金の状況(筆者まとめ)
各候補の政治資金の状況(筆者まとめ)

圧倒的に岸田氏がトップだ。1億8021万円余り。続いて野田氏が1億109万円余。河野氏が9252万円余。そして高市氏が6085万円余。派閥の領袖だから当然という言い方になるのかもしれないが、岸田氏の資金力は高市氏の約3倍だ。

個人からの寄附トップは河野氏

この資金力を細かく見ていきたい。どこから得たものか?大きく分けて、個人からの寄附、法人からの寄附、そしてパーティー収入の3つに分けられる。

俗に「浄財」と言われるのが個人からの寄附だ。政治家個人の知名度がものを言う。この個人からの寄附が最も多いのは河野氏だ。1613万円余。続いて高市氏の568万円。資金力トップの岸田氏だが個人からの寄附は171万円余。野田氏は76万円余だ。

年間1000万円を超える寄附を個人から集める政治家は多くはない。河野氏の収支報告書には個人が1000円、2000円、3000円といった額で毎月寄附をしている記載が並ぶ。寄付は全国から寄せられているようだ。

岸田氏の資金源は

法人からの寄附はどうか?実はこれも河野氏が938万円余でトップだ。次が岸田氏で807万円余。続いて野田氏の654万円余で高市氏の304万円が続く。

ところが、実はそう簡単に言えない。それはパーティー収入を見るとわかる。これは岸田氏がダントツで、その額は1億4830万円余。二位の野田氏の7753万円余の倍近い額だ。そして河野氏の3892万円余、高市氏の3595万円となっている。岸田氏のパーティーによる収入は高市氏の3倍以上になる。

パーティー収入とは何か?基本的にはパーティーを開いて支持者に来てもらい、そこで国会での活動を報告するとともに引き続き支援をお願いする場ということだ。しかし、実態はそうではなく、その参加費を企業が負担しているとの指摘もある。つまり、事実上の企業献金だというもので、企業が大量にパーティー券を購入することで議員を支援するということが行われているというものだ。

勿論、岸田氏のパーティー収入の実態がどうなのかは不明だが、その辺は明確にしてもらいたい。

党費収入トップは高市氏、党本部交付金トップは野田氏

これら以外にも党員から支払われた党費や党本部から支払われた交付金などが有る。党費は規則に基づいて支払われているもので、この党費の額が最も多いのは高市氏で128万円余。続いて、岸田氏の95万円余、野田氏の76万円余と続く。河野氏は0円だった。個人献金の多い河野氏が党員からの費用を得ていないというのは意外だが、少なくとも2019年の実績としては0円だ。

党本部からの交付金は党支部に出されるもので1支部あたり1300万円から1400万円が支払われているケースが多い。ここでは野田氏が1430万円と最も多く、続いて高市氏が1370万円、河野氏と岸田氏が1300万円で並んでいる。因みに、この党本部の支出を決定する責任者は幹事長の二階俊博氏であることは過去に報じている

各候補は何に政治資金を使っているのか

次に支出を見てみたい。当然、岸田氏が支出額も多い。続いて野田氏、河野氏、高市氏と続くのは収入に比例している。では何に使っているのか?

人件費や事務所経費といった経常経費に使う分をのぞいて見ると、「寄付・交付金」が目に付く。これは他の議員や他の議員の政治団体のための支出だ。これは岸田氏が圧倒的に多く1億178万円だ。つまりその年の収入の半分以上を他の議員のために使っていることになる。二位の河野氏が1639万円だから桁が違う。続いて高市氏の691万円余、野田氏の381万円余となっている。

岸田氏の1億円余の「寄附・交付金」は派閥の領袖としての当然の務めということかもしれない。加えて、今回の総裁選挙でもそれなりに効力を持つのかもしれない。

敢えて注目したのは、「調査研究費」だ。これは文字通り、議員が政策立案などで使った作業費だ。これは桁違いに少なくなる。トップの河野氏でさえ108万円余。続いて野田氏の35万円余、岸田氏の12万余と続く。高市氏は0だった。これは人件費などとして経常経費として計算されているものも有るのだろうが、せっかく党本部から1000万円を超える交付金を得ているのだから、もう少し「調査研究費」に使ってもらいたい。

さらなる分析の発表を9月24日にオンラインで

4候補の政治資金については、私も関わる公益財団法人の政治資金センターで更に深く分析しており、その結果を9月24日の19時からオンラインで公表する予定だ。誰でも無料で視聴できる。

この収支報告書は国会議員がそれぞれの持つ政治団体などについて総務省か各都道府県の選挙管理委員会に届け出を行っているものだ。複数の都道府県にまたがって活動する団体の収支報告書は総務省、そうでないものは事務所の所在地の自治体の選挙管理委員会に届け出が行われる。

そして3年間という限られた期間だが公開の対象となる。総務省を含め、多くの自治体ではオンラインで公開している。しかし以下の自治体だけは今もオンライン公開に応じておらず、内容を確認するには開示請求をするか直接、役所に足を運ぶ必要が有る。

新潟県、石川県、福井県、兵庫県、広島県、福岡県の6つの県だ。

この6県を責められないのは、現状は収支報告書が紙媒体で提出されているために、オンラインで公開するためには選挙管理委員会で多大な作業が必要となる。その為の予算措置がとれないところはオンラインで公開できないということだ。

そこで前掲の政治資金センターでは収支報告書のデジタル化を政府、各政党に要求している。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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