「ワクチン接種は最初は混乱するが一度流れができると円滑に行われる」とアメリカのジャーナリストは語った
CDC=アメリカ疾病予防管理センターは5月20日、約1億6,020万人が少なくとも1回の新型コロナのワクチンの接種を受けていると発表した。そこには、1回接種で良いジョンソン・エンド・ジョンソン社、2回接種が必要なファイザー社とモデナ社のワクチンによる完全接種を終えた約1億2,660万人が含まれるという。
バイデン大統領は建国記念日の7月4日までに成人の70%で接種を終えるとの目標を打ち出している。
最優先だった連邦政府職員
接種がなかなか進まず、担当大臣が「僕の失敗です」と話すなど混乱が続く日本のワクチン事情から考えると羨ましい限りだ。
では、アメリカのワクチン接種はスムーズだったのか?10年来の友人に問うた。マザージョーンズ誌のラス・チョーマ記者。トランプ大統領の疑惑追及で全米雑誌大賞を受賞した敏腕記者だ。夫人のケイトはウォール・ストリート・ジャーナル紙記者。2人の子供を育てるジャーナリスト夫婦だ。
「4月初旬までは焦った。アメリカのワクチン接種はパッチワークのようで、最初は混乱だった」。
ラスはそう話した。「パッチワーク」とは、「いろいろな機関や団体が複雑に織りなす」という意味らしい。そして日本からは順調そうに見えたアメリカも4月初旬までは混乱が続いていたということだ。
アメリカも高齢者が優先だったが、2人が住む首都ワシントンは連邦政府の職員も優先されたという。そうした職員の多くは居住者ではない。隣接するバージニアとメリーランドの住人が多い。それでもワシントンは割り当てを政府職員に使ったという。面白いのは、ジャーナリストである彼ら夫妻は、それを批判していない。
日本で例えるなら、東京都のワクチンの割り当てが、千葉県や神奈川県に住む霞が関の官僚にも与えられたということだ。先ず、大変な騒ぎだろう。ここがアメリカの不思議な点で、統治機構の維持に対しては驚くほど合理的に判断する。
大学病院は自治体と別に割り当て
その後、ケイトにはワシントン内のジョージタウン大学病院からワクチンの接種券が届いた。過去2年間の通院歴から病院が選んだという。ラスは言う。
「これはワシントンの割り当てとは別に、各病院にもワクチンの割り当てが有り、病院がそれぞれの持つ記録から接種対象を選べる。残念ながら私は過去2年間、通院歴が無かったので対象外だったが」。
高齢者の接種が進む中、優先接種者の範囲が広がる。4月にはジャーナリストもその中に含まれたという。
「我々の仕事は人々の中に入っていくからね」。
ラスはジャーナリストが対象となった理由をそう説明した。これも、日本では受け入れられないかもしれない。
3つの自治体から得た接種券
ただし、優先接種対象となってもラスは簡単には接種できなかったようだ。ラスがワクチン接種券を得たのは隣接するバージニアからだった。それは連邦政府職員が優先されたために割を食った形のワシントンの住人に対する配慮だったという。しかし接種会場は家から車で2時間半の場所だった。その後にもう1つの隣接州であるメリーランドでも同じ対応をとった。こちらの方が近かったのでバージニアを解約してメリーランドを予約。
ところがその直後にワシントンから接種が可能となり、結局、地元で最初の接種を受けた。それは4月6日だったとのこと。ワクチンは2度の接種が必要なモデルナ社製で、その2度目も5月に入って接種。夫婦そろって完全接種を終えたという。
しかし、当然の疑問がわく。それだけ様々な機関が接種を行っていて、キャンセルなどでワクチンは無駄にならなかったのだろうか?ラスによると、その問題はアメリカでも同じだったという。
「私はバージニアもメリーランドもキャンセルしてワシントンの会場に行ったが、同じ状況でそうしないで自分の行きたい場所に行った人はいただろう」。
では、ワクチンを無駄にしないために、何か対応がとられたのか?これについては実はラスも明確ではないと話した。恐らく問題が大きくなる前にワクチンの大量投入が始まったからだろう。1つ、関連するエピソードを教えてくれた。
「私の同年代の友人がかなり早い段階でワクチンを接種していた。それは、高齢者向けだった施設のワクチン接種で7人、キャンセルが出たので、近くに住んでいた彼に接種の呼び掛けたが有ったからだった」。
それは連邦政府でも自治体の指示でもなく、あくまで施設の判断だったという。
「倫理的にどうかという問題より、ワクチンを無駄にしないという事の方が先決だという判断は理解できる」。
本人はなかなかワクチン接種ができない中でも、ラスは友人の接種に理解を示していたという。
ワシントンに来れば直ぐにワクチン接種できる
冒頭の接種状況が示す通り、現在アメリカでは事前の予約も、接種券も無く誰でもワクチンを摂取できる。ラスは次の様に話した。
「ワシントンに来てくれれば、私が空港まで迎えに行くからそのままCVSに行こう。何の問題も無く直ぐにワクチン摂取ができる」。
このCVSとは日本のコンビニの大きなもので、店内に薬局が併設されている。アメリカではコロナ禍で薬剤師がワクチン接種を担っているとは日本でも報じられているが、これは特別な対応ではない。私がアメリカにいた時は、インフルエンザの予防接種も普通に薬局で薬剤師にうってもらっていた。
ラスが言うには、私がアメリカに行けば直ぐにワクチンを接種できるということだ。実際、そうしたツアーが既に始まっていると報じられているが、残念ながら私はワクチン接種のためにアメリカに行くような経済的な余裕は無い。
ラスは、アメリカの経験から言えることを次の様に話した。
「最初は混乱する。しかし一度流れができると、かなり円滑に行われるようになる」。
確かにそうかもしれない。私もこのワクチンに関しては冷静になることが重要だと感じている。自分が接種できなくても、周囲が接種すればそれは自分の安全につながるという理解も必要だろうと思う。
日本も人々の中に入る公職従事者に優先接種を
しかし、日本がアメリカと異なる点は、ワクチンの量だけではない。優先接種者が高齢者と医療従事者など極めて限られていることだ。勿論、ジャーナリストをそこに含める必要は無い。しかし「人々の中に入っていく」仕事に従事している極めて公共性の高い職種の人は多い。例えば、警察官だ。
都内の派出所の警察官が次の様に話していた。
「ケンカをしている集団の中に割って入る時にマスクと手袋をしろと言われるんですが、マスクはしていても、もみくちゃにされることも有るんです。正直、怖いですよ」。
「ワクチン接種の予定は?」と尋ねると、諦めたように言った。
「何も聞いていません」。
国や一部の自治体で始まる集団接種会場には、警察官を大量に動員して欲しい。それは会場での混乱を防止するためだけではない。キャンセルによって余ったワクチンを優先的に摂取してもらうためだ。
ワクチン接種に必ずキャンセルは出る。それを有効に使う対策が必要だ。接種が遅れている日本は、先行する国々の経験を活かすことができる。それくらいは考えた方が良い。