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菅総理の資金集めの実態

立岩陽一郎InFact編集長
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

菅総理が代表を務める政治団体などの収入の多くが不透明なパーティーによるものとなっている。政治資金の専門家からは、「隠れ企業献金」の疑いも有るとの指摘も出ている。

2020年11月に公表された政治資金収支報告書(以下、収支報告書)で、菅総理が代表を務める政治団体と政党支部について見ると次の様になっている。

まず政治団体の「横浜政経懇話会」。この団体は議員会館を所在地にしている。その2019年に収支報告書を見ると、その年の収入は3763万767円。そのうち個人からの寄附は3件で総額は15万円でしかない。

残りのほとんどが「新しい国創り」と名付けられたパーティーだ。5回開催されており、その収入総額は、前年の繰り越しの60万を加えて3748万円となっている。つまり団体の収入のほとんどがパーティー収入ということだ。

横浜政経懇話会の報告書(筆者撮影)
横浜政経懇話会の報告書(筆者撮影)

何れも、実施日と実施場所のホテル名は確認できるが、参加者数は明らかなっていない。これは1回の収入が1000万円未満となっているためだ。総務省の選挙管理委員会は、「パーティーの収入が1000万円以上であれば別表で参加者数を出さなければいけないが、1000万円未満であればその対象ではない」と話す。

この状況は菅総理が代表を務める自由民主党神奈川県第二選挙区支部でも同じだ。その収入総額は7483万253円。このうち自民党本部からの交付金が1370万円。そして「経済人春の集い」や「経済人朝食会」といったいわゆるパーティー収入が4500万3000円。自民党本部からの交付金を除いた収入の6割がパーティー収入となっている。そして、その多くが1000万円にぎりぎり届かない収入額となっている。このため、その詳細は明らかではない。

神奈川県第二選挙区支部の報告書(筆者撮影)
神奈川県第二選挙区支部の報告書(筆者撮影)

これについて公益財団法人「政治資金センター」の代表を務める阪口徳雄弁護士は次の様に指摘している。

「こうしたパーティー収入は実際には企業が大量に購入しているケースが多いと私たちは見ている。その中には政治資金規正法に抵触するケースも有るだろう。つまり、パーティー収入は実際には、『隠れ企業献金』ではないか。そうすると、有力議員はパーティーさえ開けば、法律で規制されている上限を超えた企業献金を集めることができる」。

阪口弁護士の指摘を裏付けるのが、以前も指摘したパーティーにかかる経費だ。再び、横浜政経懇話会の収支報告書を見てみたい。前年に開催したものを除いた5回のパーティーにかかった経費は合計で570万12円だ。繰り返しになるが、収入は合計で3700万円弱。つまり8割強が利益となっている。

政党支部ではそこまで露骨ではない。パーティーの経費の総額は1535万余りとなっている。パーティー収入の総額が約4500万円なので利益率は7割を切る。政党支部にはその分、自民党本部から交付金が入ると見ると、妙に納得できる。何れにしてもパーティー収入か大きな収益源となっていることに間違いは無い。

横浜政経懇話会と自民党神奈川県第二選挙区支部に問い合わせところ、両団体ともにファクスで問い合わせて欲しいというので5月10日に質問をファクスで送った。質問は以下の2点だ。

  1. 1回の収入を1000万円未満としているのは詳細を明かさないためでしょうか?
  2. 実質的な企業献金ではないかとの指摘についてどうお考えでしょうか?

5月13日までに回答を求めたが、現在まで回答は寄せられていない。

別の点も見てみたい。政党支部には寄附も多く寄せられている。これを見ると企業からの寄附は合計1291万3490円。個人による寄付は合計で244万円。阪口弁護士の指摘が説得力を持つのは、寄付として記載されている8割強が企業からのものだからだ。

勿論、これは違法ではない。しかし不透明なパーティー収入から推測される部分を含めて、総理大臣の収入の多くが企業に負っている可能性が有るということだ。

筆者は、政治家への寄附は法律の範囲内で積極的に行われるべきで、それは、個々の有権者が自らの支援する政治家に小口で行うのが理想と考える。広く薄く、だ。特定の企業からの献金が数多くの政治と金の問題を引き起こしてきたことは指摘するまでも無い。

こうした収支報告書は前掲の政治資金センターのサイトから誰でも確認することができる。政治と金の問題はとかくスキャンダルになってから注目されるが、スキャンダルとならないよう常日頃からチェックすることが必要だ。

政治資金センターは今日(5月15日土曜日)、「菅総理の政治資金をチェックしよう!」と題したセミナーをオンラインで実施する。時間は午後1時半からの90分間。無料だ。

筆者が司会を行い、前掲の阪口弁護士をはじめ政治資金に精通した専門家が初歩的な疑問から見過ごされている問題点まで、一般の人からメディア関係者など様々なレベルの問いに答える。誰でも上記の青字の「セミナー」の部分をクリックして登録することができる。

政治と金の傍観者にならない・・・そう考える人は是非参加して欲しい。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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