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【アメリカ大統領選挙】最後の討論はトランプ大統領、バイデン候補、23対23だった。

立岩陽一郎InFact編集長
大統領候補討論(10月22日)テネシー州ナッシュビル(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

アメリカ大統領選挙は投開票日まで2週間を切った。支持率でバイデン候補が優勢とされるが、こうした中で開かれた最後の候補者討論をファクトチェックすると、その結果は、トランプ大統領が23でバイデン候補も23だった。それは?

最後の討論は10月22日(現地時間)にテネシー州ナッシュビルで開催された。NBCテレビのクリスティー・ウォルカー記者の司会で、新型コロナ、中国、北朝鮮政策、経済、移民政策、人種問題、環境及び気候変動の6つのテーマで討論。それぞれのテーマの冒頭の2分間の発言時には相手のマイクをミュートにするなどの対策がとられ、メディアも冷静な議論ができたと評価した。

私はこの討論を2つの点に注目して見た。1つは、トランプ大統領が何回不規則発言をするか。ミュートになるのは質問への最初の2分間の発言だけで、その後はミュートにされない。その中でトランプ大統領がどのような対応を見せるかを注視した。以下、私の実施したファクトチェックの結果だ。

討論会の最中にトランプ大統領が司会から制された回数は23回だった。CNNの報道などによれば、同時に選挙を迎える共和党の議員から前回の討論会でのトランプ大統領の対応に懸念が出ていていたということだが、それでもトランプ大統領は必ずしも司会者に従順だったわけではない。因みにバイデン候補は1回だけだった。

一方、もう1つ注視したのはバイデン候補が口ごもる回数だった。その数も23回だった。トランプ大統領は1度も無かった。

メディアは大統領討論で政策論の中身で優劣を論じるが、有権者は必ずしもそれだけを見ているわけではない。討論が初等教育から盛り込まれているアメリカでは、討論の仕方にも人々の注意が行くからだ。その上で、どちらが自分たちの「最高指揮官」にふさわしいか判断する。それは単なる頭の良し悪しだけではない。

前回ほどの傍若無人さは見せなかったものの、司会者に必ずしも従わない姿勢を見せたトランプ大統領は、司会者が所属するNBCテレビをはじめとした主要メディアを敵視することが事実上のセールスポイントとなっており、そこで従順な姿勢を示すことをプラスとは考えていない。また、政策通のバイデン候補と政策論で議論するよりも、バイデン候補には無い体力と気力、力強い話術を強調したいという部分も有る。その意識がこの23回に表れている。

一方でバイデン候補の23回は、有権者にどう見られただろうか?これは慎重に言葉を選ぶ姿勢と間違いを回避したいというバイデン候補の気真面目さの表れと見られただろうか?それとも、バイデン候補の弱みとされる高齢さが印象付けられたかもしれない。バイデン陣営としては、もう少し減らしたかったところだっただろう。

日本では支持率で上回るバイデン候補が有利とする報道が多く、その裏をかいて「隠れトランプ派」の存在に注目する報道も幅をきかせる。そのどちらも私は参考にしていない。

勿論、今選挙を行えば総得票数でバイデン候補が勝つだろう。しかしアメリカの大統領選挙は総得票数で争っているわけではない。各州に振り分けられた投票人の数で競われている。一般に「270への道」と言われるように投票人270人獲得した方が勝つ。例えばカリフォルニア州は55人、テキサス州は38人、ニューヨーク州は29人といった様に人数は決まっており、カリフォルニア州で勝てば55人を獲得できる(メイン州の様に案分される州も例外的にある)。だから、仮にカリフォルニア州でバイデン候補が圧勝しようが僅差で勝とうが、獲得数は55人で変わらない。

トランプ政権の取材で2018年の全米雑誌大賞を受賞したマザー・ジョーンズ誌のラス・チョーマ記者は「(支持率で上回ったヒラリー氏が負けた)2016年の時の様に、支持率から結果を予想するのは難しい」と話し、次の様に話した。

「ただし、トランプが勝つためには、フロリダ、ノースカロライナ、アリゾナ、オハイオ、ペンシルバニアを落とせない」。

つまりバイデン陣営はその州のいくつかを確保する必要が有る。勝敗を分ける州が明確になっているということだ。それだけに両候補のそれらの州での戦いは更に激しさを増す。残り2週間を切った両候補の投票人争奪戦は、郵便投票という投票手法の導入もあって、まだその結果を読むことはできない。

※当初、リードにファクトチェックと入れていましたが、誤解を生むとの指摘を受けてリードからは外しました。ファクトチェックは事実の誤りを指摘する取り組みというのが一般的な理解ですが、本来の意味はもう少し幅広く、この記事の様に事実の指摘もファクトチェックの1つです。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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