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新型コロナ・ファクトチェック)「WHOが感染者の隔離は必要ないと方向転換」は誤り

立岩陽一郎InFact編集長
会見するWHOのテドロス事務局長(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

新型コロナの感染者数が東京、大阪で増え続けている。こうした中、WHO=世界保健機構が「急に方向転換」して「新型コロナ感染者の隔離は必要ない」「感染者から感染もしない」などと発表したとのツイートが拡散しているが、これは誤りだ。

●ファクトチェックしたツイート内容

「『WHOが急に方向転換し、新型コロナ感染者の隔離は必要ない。検疫も必要ない。ソーシャルディスタンスも必要ない。感染者からも感染しない』と言い出した」

(7月4日投稿のTwitter)

●ファクトチェックの結果

誤り:WHOはそうした発言も発信もしていない。

以下が問題のツイートだ。7月4日に投稿されている。アメリカのラジオパーソナリティーJohn B Wells氏によるWHOの記者会見の動画に関する英文ツイートを引用し、これを日本語に訳した形をとっている。後述するようにもとのWells氏のツイートは現在は表示されなくなっている。

拡散したツイート
拡散したツイート

ではWHOは 「新型コロナウィルス感染者の隔離は必要ない」「検疫も必要ない」 「ソーシャルディスタンスも必要ない」「感染者からも感染しない」というようなことを言ったのか?検証した。

Wellsのツイッターに添付されていた動画は、6月8日(日本時間9日)に開かれたWHOの定例会見のものだった。

WHO会見(6月8日)
WHO会見(6月8日)

この会見では、WHOの新型コロナ担当のマリア・バンケルコフ氏が次のように発言している。

「これまで得ているデータから、無症状の人から実際に他の人に感染することは稀と考えられる(From the data we have, it still seems to be rare that an asymptomatic person actually transmits onward to a secondary individual)」。

これは、記者から「無症状感染者からの感染」について問われて答えたもので、バンケルコフ氏は「感染者」全般について二次感染しないと発言してはいない。

この日の記者会見では、他にブラジル、中国、南アメリカなどの地域の状況について質疑が行われているが、 ツイッターで書かれているような「新型コロナウィルス感染者の隔離は必要ない」「検疫も必要ない」 「ソーシャルディスタンスも必要ない」 という発言は出ていない。むしろ逆で、直接的な言及はないものの、第二波への警戒からこれらの必要性を強調するものとなっている。

実は、バンケルコフ氏のこの会見での無症状感染者からの感染が稀との発言は波紋を呼び、各国の専門家から批判が相次いだ。ハーバード大学の世界健康研究所(Global Health Institute)は「WHOは、無症状患者が病気をまん延することはめったにないと報告して混乱を引き起こした」と批判している。

このため、翌日、WHOは緊急会見を開き、「無症状者からの感染はまれ」というのは「一部の研究に言及したもので、WHOの見解ではない。会見で触れなかったが、無症状感染者が感染させるという予測の研究もある。新型コロナについてはまだ多くのことがわからず、(6月8日の)会見ではWHOが現在把握している事実だけを伝えただけだ」などと説明。事実上、「無症状感染者から感染はまれ」とした発言を修正している。

WHOは公式サイトで人々に向けたアドバイスを公表している。そこには以下のように書かれている。

  • 他人との間を最低1メートルの距離を保つこと。
  • 風邪、頭痛、微熱のような兆候があるときは、回復するまで家に止まり自身を隔離すること。

WHOが、ツイッターに書かれているように「新型コロナウィルス感染者の隔離は必要ない」 「ソーシャルディスタンスも必要ない」といった立場でないことは明らかだ。

こうした誤ったツイッターは拡散させないことが重要だ。この拡散の大元となったJohn B Wells氏のツイートは世界で3.2万リツイートもされていたが、Twitter社のルールに違反するとして現在は表示されなくなっている。

(筆者が編集長を務めるインファクトはFIJの新型コロナ国際ファクトチェック・プロジェクトに参加しており、この記事にはFIJの武藤珠代リサーチャーが協力している。)

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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