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トランプ大統領が突然、ペルシャ語でつぶやいた・・・その心中や如何に

立岩陽一郎InFact編集長
大統領専用機エアフォースワンに乗り込もうとするトランプ米大統領(写真:ロイター/アフロ)

日本時間の1月12日の朝、トランプ大統領のツイートにペルシャ語が出た。

トランプ大統領のツイート
トランプ大統領のツイート

何だろうと見てみてもわからないが、その前に英文でツイートしている。どうやらその内容をペルシャ語に翻訳したもののようだ。英語では次の様につぶやいている。

イランの勇敢で長く苦しめられてきた人に:私は大統領になった最初からあなた方とともにあり、私の政府は今後もあなた方とともにあるでしょう。私たちはあなたの抗議活動を注意深く見守っており、あなた方の勇気ある行動に触発されています」(立岩訳)。

トランプ政権の誕生前からこの大統領のツイッターをフォローしているが、外国語でのものは珍しい。当然、トランプ大統領の真意はわからない。ただ、こうした異例な対応から、私は今回のイランへの対応でトランプ大統領は実は肝を冷やしたのではないかと推測している。

それはツイッターをフォローしていて感じた私の勝手な推測でしかない。しかし、それもあながち大外れとは言えないケースが有る。

例えば、2018年8月、北朝鮮が弾道ミサイルを発射し、トランプ大統領が「炎と怒りで対応する」と発言した時、日本のメディアは米朝対立かと騒いだ。それがきっかけで出演した情報番組「ちちんぷいぷい」(毎日放送)で、「トランプ大統領は金正恩委員長に会いたがっている。口では緊張を煽っているが、米朝首脳会談に進むのではないか」と伝えた。ツイッターを見ていれば、そうとしか思えなかったからだ。

そして冒頭のトランプ大統領のツイッターについての「肝を冷やした」との推測なのだが、そう考える根拠もツイッターだ。

全ては順調だ。ミサイルはイランからイラクの2つの基地に向けて発射された。現在、犠牲者と被害の状況を確認している。今のところ問題無い。我々は世界最強で最も充実した装備を持つ軍事力を持っている。私は明日の朝、声明を出すだろう」。

トランプ大統領のツイート

これは日本時間の1月8日の午前中、イランが弾道ミサイルを発射した後のものだ。このツイートを、アメリカの軍事行動を示唆するものと理解した報道機関もあったが、私はそうは思わなかった。その日の午後に出演した情報番組「ミント」(毎日放送)で、「アメリカが軍事的な反撃に出る可能性は低いでしょう」と伝えた。

NHKはその後の夜7時のニュースで、軍事攻撃の可能性を強調する報道をしていたが、その際に同じツイートを使っていた。ただ、紹介したのは、「全ては順調だ。ミサイルはイランからイラクの2つの基地に向けて発射された。現在、犠牲者と被害の状況を確認している」だけだった。その後の、「今のところ問題無い」には触れていない

結果的に私が正しかったから書くわけではない。トランプ大統領のツイッターを読む時、その前後のツイッターの動きを見ないといけない。

実は、ことの発端となった米軍によるイラン革命防衛隊のスレイマニ司令官殺害のあたりから、トランプ大統領はツイッターをあまりしていない。

これも推測でしかないが、過去のケースで見ると、トランプ大統領は、動揺するとツイートを控える傾向が有る。例えば、ロシア疑惑で側近の関与が最初に報じられた時、ピタリとツイートを止めている。

話を1月8日に戻す。イランが弾道ミサイルを発射。そこから暫くツイートがなく、前出の「全て順調だ」というつぶやきになる。

私が、トランプ大統領が肝を冷やしたと推測する根拠はこのツイートの流れにある。あくまで、推測だと断った上で更に説明すると、イランが弾道ミサイル十数発発射したという事実は、ある程度の反撃を覚悟していたとしても、その想定を上回っていた筈だ。「ちょっとやばい・・・」と、トランプ大統領が思ったとしてもおかしくない。否、思わない方がおかしい。そして間もなく米軍に犠牲が出なかったと知る。トランプ大統領は大きく安堵した筈だ。そして、「全て順調だ」とのツイートとなる。

ここでツイートから外れるが、トランプ大統領はこれまで大きなものではイエメンでの特殊部隊の軍事活動、シリアへの巡航ミサイル攻撃、そして今回の発端となったイラン革命防衛隊のスレイマニ司令官の殺害を指示している。この中で、特殊部隊の隊員に死者が出ているが、その遺体がアメリカに戻った際に出迎えた場で、「こういうところには来たくない」との話をして遺族の怒りを買っている。目立つことは好きだが、軍事行動を指示する最高司令官としての覚悟も胆力も備わっているとは言い難い。

それらを考えた時、とてもトランプ大統領が新たな軍事行動に出る選択をとるとは考えられない。それをテレビでコメントしたのが、「アメリカが軍事的な反撃に出る可能性は低いでしょう」だった。トランプ大統領の冷静な対応に期待するという話ではそもそもない。

そして日本時間の夜、アメリカ時間の朝に声明を出して、軍事的な選択を回避。そのかわりに新たな経済制裁を発表したわけだが、これは当然、イランの国民を苦しめるものとなる。その怒りが自身、及びアメリカに向かないための冒頭のペルシャ語でのツイート。そう考えるのが自然な気がする。

推測に推測を重ねた話であることは断っておく。ただ、一連のツイートから見えるのは、最強の軍事力を持つ超大国のリーダーの姿勢ではなく、おどおどして先が見えなくなっている人間の弱さでしかない。

そのツイートの発信者の求めに応じて自衛隊が中東に行く。2020年、本当に大変な一年になることを我々は覚悟しないといけない。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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