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株主の視点で企業の不正をただしてきた「株主オンブズマン」が解散 企業監視の役割を終え

立岩陽一郎InFact編集長
東京証券取引所(写真:長田洋平/アフロ)

20年余りにわたって、株主代表訴訟などを通じて企業の不正をただしてきたNPO「株主オンブズマン」が解散の手続きに入った。株主の権利に光を当てて企業の在り方を問うてきた市民団体が一つの歴史的な役割を終えた

NPO「株主オンブズマン」は1996年、大学の研究者や公認会計士らによって有限会社として結成された。その後にNPO法人となった。その間、株主代表訴訟を通じて企業の不正や違法行為についての責任を明確にするという手法で、とかく不透明な日本の企業体質に透明性を求めてきた。

住専=住宅金融専門会社をめぐる不良債権の問題では、政府が推し進めた営業譲渡に株主総会で反対し、あと一歩で否決というところまで迫るなど、不透明な政府の住専処理に社会の厳しい目を向けさせる役割を担った。

このほか、株主総会屋への利益供与が問題となった高島屋、野村證券などや、贈収賄事件で摘発された大林組、国会議員に多額の闇献金を行っていた西松建設などで、不正に支払われた資金を会社に返済するよう求め、企業倫理を公の場で問うてきた。

更に、雪印の不祥事問題では、消費者目線の役員を採用するよう求める株主提案を検討。その結果、消費者団体の代表だった日和佐信子さんが社外取締役に就任している。

こうした一連の活動は、日本の企業にコンプライアンス意識を根付かせる上で大きな力を発揮したと言って良い。「株主オンブズマン」の株主代表訴訟を発足時から支えてきた阪口徳雄弁護士は、「『株主オンブズマン』は理念型の運動というより、現実の謝意改革を株主、市民の目線での運動となった」と、その役割について述べている。

しかし、初代の代表として活動の中心にいた関西大学の森岡孝二名誉教授が死去したことや、主要メンバーの高齢化などで活動を続けるのが困難になっていた。また、企業側にも一定程度、透明性に対する意識の向上が見られるようになったことから、NPOの解散を決断した。

解散について三馬忠夫代表は、「まだ十分とは言えないが、『株主オンブズマン』が活動する前に比べたら企業の意識も良い方向に変化してきたと思う。『株主オンブズマン』は、株主の権利という観点から、企業の社会的な責任を追及してきた。それは日本の不透明な会社文化に風穴をあける役割を担ったと考えている。一つの歴史的な役割を終えたという思いだ」と話している。

一方、「株主オンブズマン」の活動を法的に支えてきた弁護士による「株主の権利弁護団」は今後とも企業監視の取り組みを続けることにしている。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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