大阪ダブル選挙ファクトチェック 都構想は説明不足 本家の東京では別な動きも

大阪府知事選、大阪市長選の候補者掲示(撮影:立岩陽一郎)

大阪都構想を最大の争点に争われている大阪府知事、大阪市長の二つの選挙。ファクトチェック大阪で候補者の発言をチェックしたところ、都構想に関しては説明不足との判定となった。また、都構想のモデルとなっている東京では、都構想の目指す状況を変える別の動きが水面下で起きていることがわかった。

ファクトチェック大阪

4月7日に投開票が行われる大阪府知事選挙と大阪市長選挙は、何れも大阪都構想の是非を最大の争点として争われている。これについて大阪の一般市民が参加して活動を始めたファクトチェック大阪は、これまでネット情報についてフェイクニュースの存在を指摘。また候補者の討論会での発言もチェックして事実と異なる発言について指摘した。

今回も討論会での候補者の発言をチェックした。対象としたのは、前回同様、朝日新聞、毎日新聞、産経新聞が合同で行った候補者による討論会での各候補の発言

大阪府知事選挙、大阪市長選挙の候補者
大阪府知事選挙、大阪市長選挙の候補者

参加者は大阪府知事選挙に出ている吉村洋文候補、小西禎一候補と、大阪市長選挙に出ている松井一郎候補、柳本顕候補。吉村候補、松井候補は維新の会の公認候補。小西候補、柳本候補は自民党、公明党府本部などから推薦を受けている。

今回、ファクトチェックしたのは柳本候補の「8年前から(府知事、大阪市長の)ダブル選があって進んできた都構想。あるいは、4年前からは副首都という言葉も出てきていますが、いずれも東京のまねでしかありません」と言う発言。

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それと、それに呼応する松井候補の「東京は1943年に東京都にかわりました。それから80年弱が経過して、まさに一極といわれる日本をけん引する、成長する大都市になったわけです。なぜそこを目指さないのかが、僕はもう、まずそこを目指していくべきだと思います」という発言。

東京のまねか?

先ず、柳本候補の発言だが、都構想については「東京のまねでしかありません」は、松井候補自身が「そこ(東京)を目指していくべき」と発言しているように事実だと言えるだろう。ただ、副首都まで東京のまねと言えるのかは疑問だ。

副首都の構想は、2015年に大阪府と大阪市が副首都推進本部を設置して進めているものだ。推進本部の資料によれば、「我が国の地形・地勢を考慮すると、東京に加え、西の拠点としての大阪の中枢性を再構築していくことが極めて重要」となっている。また、「東京一極集中は大きなリスク要因であり、東京以外に日本を支える拠点都市を戦略的に確立することが必要」とも指摘している。これは、都構想の目指す方向を示したものと思われる。

つまり都構想と副首都構想は表裏一体とも言える。しかし、副首都という構想は東京から出たものではなく、副首都として「日本を支える」とする発想が東京のまねとまでは言えない。従って、柳本候補の上記の発言は、半分は事実だが、半分は事実ではない。

東京は1943年に東京都に

次に、松井候補の発言だ。この発言は極めて重要だと思われるのは、これこそがまさに都構想の着想の原点だと言えるからだ。

1943年に当時の東京府が東京市を廃止して東京都になったのは歴史上の事実だ。このため、松井候補の発言の前半部分である「東京は1943年に東京都にかわりました」に事実誤認は無い。また、後半の、「それから80年弱が経過して、まさに一極といわれる日本をけん引する、成長する大都市になったわけです」も、語られている言葉に間違いはない。

東京都庁
東京都庁

ただ、この言葉の持つ意味は実はそれだけではない。前半部分と後半部分とは並列ではなく、前半が前提条件となっているからだ。詳しく説明しよう。

東京都だから日本をけん引するのか

先ず、発言を因数分解してみる。「東京は1943年に東京都にかわりました」は前提条件。そして、「それから80年弱が経過して」は事実関係についての言及。そして、「まさに一極といわれる日本をけん引する・・・」は結論となっている。この部分は、「それ故」を加えて、「それ故、まさに一極といわれる日本をけん引する・・・」と考えるとわかりやすい。そうでなければ、そもそも都構想という発想にはならないからだ。松井候補が、東京を目指すべきだと続けているのはその点を指している。

つまり、東京が都制度を導入していることが「日本をけん引する、成長する大都市になった」理由だという説明となる。本当にそうなのか?以下、それをファクトチェックしたい。

指摘の通り、1943年、東京市の消滅によって東京の中心部の基礎自治体はなくなり、本来広域行政を担う東京都が基礎自治体の行政も担う形となった。しかし、これは、「一極といわれる日本をけん引する」ための変更ではなかった。

国防上の要請だった東京都の成立

長年地方自治を研究している早稲田大学の稲継裕昭教授によれば、それは「首都防衛の観点」であり、そのため、当時の「東京市は官選の長官(現在の知事)に率いられた東京都に吸収された」ということだ。

1942年のミッドウェイ海戦以後、戦局が厳しいものになる。こうした中で、総力戦に対応しうる国内体制の成立が急がれる。その1つが、東京市を廃止して東京都に吸収するというものだった。つまり、もともと東京都の成立は国防上の観点からで、経済成長を狙ったものではなかった。

一方で、戦後もその東京都の制度が維持され、結果として「日本をけん引する」立場になったことも間違いない。これについて東京23区が共通の課題を議論するために設置している特別区制度調査会に、「東京の成長は都区制度によってもたらされたものか?」と尋ねてみた。

すると、それについて否定的な回答だった。「都区制度はあくまでも住民生活のための制度であって、成長のための制度ではない」との説明だった。

そもそも東京都の制度と東京の成長とを実証的に検証した研究は有るのか?特別区制度調査会では把握していないとのことだった。

東京はなぜ成長する大都市になったのか

一般的にも、東京が「まさに一極といわれる日本をけん引する、成長する大都市になった」理由は、以下の別な点に求める方が自然だろう。

1つは、大規模な国家プロジェクトの東京及び周辺での実施だ。1964年の東京オリンピックは代表的な事例だろう。また、羽田、成田といった国際空港の建設、拡充も挙げることができる。成田空港にいたってはそもそも東京都内に建設されておらず、東京都の制度とは無関係なものだろう。

また、中央政府の許認可権を求めた企業が東京に本社機能を移した点も見過ごせない。日本を代表する企業の多くは、実際には東京以外で始まっているケースが多い。製薬会社、繊維会社、新聞社など大阪で始まったものも多い。しかし許認可権を独占する中央官庁との接触が企業活動に大きく影響する日本では、必然的に企業は官庁が集中する東京に拠点を移さざるを得なかった。

こう考えると、仮に大阪において大阪市を廃止して大阪府に吸収しても、上記の条件を満たさなければ、東京が担ったような「日本をけん引する」立場にはなり得ないとも考えられる。

東京23区では別の方向が検討

ところで、前掲の特別区制度調査会は、現在の23区の新たな形態を議論している。それは、区の合議体を作るというもので、例えて言うと欧州におけるEUの様なものだという。それは必ずしも東京市の復活ではないが、特別区がばらばらに活動をするのではなく連携するものになるという。

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こうなると、都構想は幾分ややこしい話になってくる。仮に、都構想が大阪で実現したとして、その時には、モデルとなった東京都は別の制度に移行している可能性が有るということだ。勿論、東京がどう変わろうが、大阪を今の状況から変えたいという考え方はあり得る。

説明不足な発言

以上、松井候補の発言に関してファクトチェックしたわけだが、当然、ファクトチェックの結果を一言で言い現わすことは困難だ。敢えて評価すれば、説明不足な発言ということになるだろう。

大阪府知事候補の吉村洋文氏と大阪市長候補の松井一郎氏
大阪府知事候補の吉村洋文氏と大阪市長候補の松井一郎氏

この議論は都構想の根幹とも言える重要な点だけに、推進役である大阪維新の会の代表でもある松井候補には、指摘も踏まえた深い議論と説明を求めたい。

これまでファクトチェック大阪はネット情報と候補者の発言をチェックしてきた。我々はいかなる政治的な立場にも立たない。それ故、都構想については賛成の立場も反対の立場もとらない。それはまさに、有権者が判断することだからだ。このファクトチェックが有権者の判断の材料の1つにでもなれば幸いだ。

このファクトチェック大阪には様々なバックグランドを持った人々が参加している。参加に条件は無い。どなたでも参加できる。関心のある人は、NPOニュースのタネにアクセスして欲しい