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大阪府知事選でフェイクニュース 維新の会代表が拡散に加担も指摘を受けて削除

立岩陽一郎InFact編集長
関西テレビ「報道ランナー」を使った問題のツイート

統一地方選が幕を切って落とされたが、都構想をめぐって激しい論戦が繰り広げられている大阪府知事選挙で虚偽の情報がツイートで流され、それを大阪維新の会の松井一郎代表が一時、拡散させていたことが「ニュースのタネ」の取材でわかった。指摘を受けた松井代表は不適切だったとして自身のツイートを削除した。

これが問題のツイートだ。

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【大阪W選挙】大阪府知事選挙 吉村候補にデマを指摘され、ふてくされる小西候補~ネットの反応「嘘がばれて背中向けるって、子供か!」「吉村候補の引き立て役になってるwww」「大阪府民は全員この映像を見た方が良い」

関西テレビ「報道ランナー」(3月21日放送)での大阪維新の会の吉村洋文候補と、無所属で自民党から推薦を受けている小西禎一候補とのやりとりについての書き込みだ。2人は3月21日に告示された大阪府知事選挙に立候補している。

そこには、前を向いて話す吉村候補に小西候補が顔を背けているように見える画像が張り付けてある。それが、小西候補が「嘘がばれて背中を向ける」という書き込みの根拠となっている。

これが本当なら、小西候補は大人気ない人物ということになる。実際、そうした書き込みが拡散されている。

これは本当なのか?このツイートを「ニュースのタネ」が検証してみた。

まず、前提条件を書いておきたい。この大阪府知事選挙と3月24日に告示された大阪市長選挙は、大阪府を大阪都にするという都構想を最大の争点として争われている。その大阪都構想とは、政令指定都市の大阪市を4つに分割して東京23区のような特別行政区にし、現在、大阪市がもっている政令指定都市としての権限を大阪府に移譲するというもの。1943年に東京が東京市を廃止して東京都となった様にするというものだ。

それによって大阪を発展させて東京と並ぶ日本の牽引力にしようというのが吉村候補。対する小西候補は、都構想を実現したら大阪がけん引力を得るとはならず、逆に実現するためのコスト増で行政サービスが低下すると主張。

それを踏まえて、番組での2人のやり取りを確認したい。

司会:4つ(の区に分けること)に余計にかかるお金が増えていないという(小西候補の)ご指摘はいかがですか。

吉村候補:小西さんは1500億円かかるといわれたんですが。

小西候補:違います、違います・・・。

司会:先ずは吉村さん。

吉村候補:初期コストで1500億円かかると言われたんですが、これは間違いです。まず、初期コストですね、500億円の初期コストで、よく1500億円といわれるんですが、15年のランニングコストがかかるのをまとめておっしゃってますね。ただ、これはコストとは思っていなくてですね。これをすることで4つの特別区ができますから、例えば、今1つの教育委員会ですよね、それが4つの教育委員会ができます。500の学校を僕が、1つの教育委員会でみてますけど、その500の学校を4つにわけてより身近にみていける。つまり、これは住民サービスの拡充に広がる。僕はそういう風に思っています。

コメンテーター:とすると、4つに分けても収支不足は発生しないと。

吉村候補:発生しません。そういう制度設計です。

司会:入ってくるべき交付税が入ってこないという指摘はいかがですか。

吉村候補:交付税に関しては、これは大阪市、大阪府どっちも交付税もらっているんですけども、その範囲内で制度設計していますから、増えも減りもしないんです。

司会:あらためて小西さん、付け加えることがあれば?

小西候補:今の1500億というのは全然関係ない話で、分割によるコスト増がみられていないですよね。入ってくるコストの範囲で制度設計をしてるということは、コスト増の部分は住民サービスが下がるというのとイコールなんですよね。入りは変わらずに、出の部分は従来の行政サービス・プラス・コスト増部分があるわけですから、それをどうするかという部分をお答えいただかないとサービス水準が維持できるかどうかの答えにはならないんですね。

以上が該当する箇所を書き起こしたものだ。

吉村候補の指摘は、小西候補が4つの特別行政区を作る際に庁舎の新設などで1500億円かかると語った際に「初期投資」と言ったことに対する反論だ。ツイートの「デマを指摘され」の「デマ」とは初期投資の1500億円がランニングコストも含んでいるという点を小西候補が言わなかった点を指していると見られる。

ところが、キャスターの横のボードにその点が詳述されており、小西候補もその吉村候補の主張には反論はしていない。小西候補が1500億円を「初期投資」と言った点は正確さに欠けたと言えるかもしれないが、「デマを指摘され」たというほどの内容とは考えられない。この点については「ニュースのタネ」で引き続き小西候補に認識を問うているが、やり取りの状況から見て小西候補が「ふてくされる」必然性はない。

また、番組を見ると、小西候補は一貫してキャスターの方を向いていることがわかる。小西候補の向きが一時的な吉村候補とのやり取りによるものとは考えにくく、「嘘がばれて背中向けるって、子供か!」との指摘には、かなり無理がある。

討論をしたスタジオの様子。小西候補とキャスターの間にボードがあり、小西候補はほとんどの時間、キャスターとボードを見て話している。関西テレビ「報道ランナー」より
討論をしたスタジオの様子。小西候補とキャスターの間にボードがあり、小西候補はほとんどの時間、キャスターとボードを見て話している。関西テレビ「報道ランナー」より

整理しよう。先ず、「吉村候補にデマを指摘され、ふてくされる小西候補」という指摘は事実とは認められない。また、「嘘がばれて背中向けるって、子供か!」の「ウソがばれて背中向ける」についても事実とは認められない。従って、このツイートは、画像を主張に都合よく切り取って事実と異なる虚偽の情報を流したものと言える。

このツイートを発信した@anonymous201504に「ニュースのタネ」で問い合わせを試みたが3月25日現在で反応は無い。

このツイートは6900回以上(3月25日6時現在)もリツイートされており、大阪維新の会の松井一郎代表もリツイートとして拡散していた。松井代表は大阪市長選挙に立候補している。このリツイートについて大阪維新の会に問い合わせたところ、「指摘を受けてあらためて確認したところ誤解を生む内容だとわかり削除した」との回答が「ニュースのタネ」に寄せられた。松井代表も不適切なツイートだと認めたということだ。

一方で、このツイートがデマだという情報の拡散も始まっているが、そこにも事実と異なる情報が混在している。選挙でネット上に虚偽の情報が拡散されるのは、沖縄県知事選でも起きた。

  参考記事 総選挙ファクトチェック 安倍総理が解散理由で語った税収増「5兆円強」は本当か?

ニュースのタネ」では、市民の参加を得て、候補者の発言やネット上の言説について事実検証であるファクトチェックを行っている。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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