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竹田会長の記者会見は本当に「潔白主張」なのか

立岩陽一郎InFact編集長
記者会見で説明をするJOC竹田恒和会長(写真:ロイター/アフロ)

JOC=日本オリンピック委員会の竹田恒和会長が1月15日に会見。指摘されている贈収賄疑惑について「潔白主張」と各社は報じている。しかし会見内容を読めば、「関与していない」という自身の関わりの否定でしかなく、「潔白」と言えるような内容ではない。

竹田恒和元東京五輪招致委員会理事長(IOCのHPより)
竹田恒和元東京五輪招致委員会理事長(IOCのHPより)

以下、竹田会長の会見を検証してみたい。先ずは冒頭の言葉だ。

「竹田恒和でございます。皆様には日ごろから我が国のスポーツの振興、特にオリンピックムーブメントに多大なご理解とご協力を賜っていることを厚く御礼申し上げたいとと思います。また、この度は東京オリンピックパラリンピック競技大会に向けて、ご支援頂いている国民の皆様、スポーツ関係者の皆様、大会準備に携わっておられる組織委員会の皆様に大変ご心配をおかけしており申し訳なく思っております。本日は、2014年までにすでに解散してしまった東京2020オリンピックパラリンピック招致委員会元理事長として会見させて頂きます。改めましてお忙しい中お集まり頂きましてありがとうございます」

興味深いのは「既に解散した招致委員会元理事長として」の会見だと釘を刺している点だろう。JOC会長としての会見ではないということだ。

「本件は招致委員会とシンガポールのコンサルティング会社ブラックタイディング社との間で取り交わされた二つのコンサルタント業務に関するものであります。これが二つのコンサルタント契約は通常の承認手続きに従い締結されたものであります」

贈賄が疑われるブラックタイディング社とのコンサルタント契約は通常の承認手続きだったという。ここが、「潔白主張」の根拠になる。

参考記事 <東京五輪招致疑惑>都に資料は存在しなかった 招致委解散で閉ざされる情報開示

二つの契約に関する稟議書は通常の承認手続きを経て最後に回覧され私が押印いたしました。私の前にはすでに数名が押印しておりまして、これらの契約内容はロビー活動及び関連する情報を収集するコンサルティング業務の委託になります」。

そして、ここが「潔白主張」の続きだ。「回覧され私が押印」したもので、「私の前にはすでに数名が押印」していた。つまり、責任は竹田会長には無いと言っているわけだ。

そして、説明は続く。

「これらの契約につき私は国会の衆参両院の予算委員会をはじめとする各委員会に呼ばれ私は招致委員会元理事長の立場で参考人として説明をいたしました。質疑に対応するため私は実務の詳細につき国及び都から派遣された招致委員会当時の職員などに実態を確認し報告をさせていただきました。招致委員会事務局は主として国と都から多くの人材を派遣いただいてオールジャパン体制で業務を行っておりました。国会においてはその後、本件に対してさらなる追求は有りません」

国会にも説明した。そこで皆が納得した話だと言っているわけだ。責任転換をしているようにも聞こえる。

「さらにJOCは第3者により外部の弁護士、公認会計士による調査チームを設置し延べ37名の関係者を対象に私が署名に至った経緯につき綿密なヒアリング調査を行いました。調査報告書はブラックタイディング社とのコンサルタント契約は適正な承認手続きを経て締結されたものとして確認しております」

(IOCのHPより)
(IOCのHPより)

JOCの第三者委員会の調査結果で問題無いと出ているとの主張。ただし、調査報告書については当時から疑問の声は出ていた。そして、次が会見の肝となる。

承認手続きにおいて担当者が取引の概要説明を記載した書面の稟議書を起案しその上司が順次承認した上で理事長であった私に承認を求めるものであります。私自身はブラックタイディング社との契約に関していかなる意思決定プロセスにも関与しておりません。私には本件に関与していた人々や本件の承認手続きを疑うべき理由はありませんでした」

ここは極めて重要だ。つまり、竹田会長は、承認を求められたから承認しただけだと言っているわけだ。

注目したいのは、「意思決定プロセスにも関与しておりません」という言葉だ。なぜ竹田会長はこう言わねばならないのか?逆に言えば、このプロセスに問題が有ったと認識しているからではないか?そう疑いたくなる発言だ。

「調査報告書は招致委員会からブラックタイディング社への支払いはコンサルタント業務に対する適切な対価であったと結論付けております。また、付け加えますと調査報告書では私がブラックタイディング社と国際陸上競技連盟会長及びその息子といかなる関係があったことも知らなかったことを確認いたしました。また調査報告書はブラックタイディング社との契約締結に日本法において違法性はないと結論付けました。この調査報告書は2016年9月に発表されそれ以降さらなる調査は行われていません」

これは単に、調査報告書の内容を語っただけだ。ここでも強調されたのは、竹田会長が「知らなかったことを確認」しているという点だ。こうなると、責任回避の色彩は更に強くなる。

「2017年初旬にはフランスの要請をうけた東京地検にも協力し全ての質問に対し回答をいたしました。東京地検ではなんらの手続きも行われていません。その後、フランス当局の要請により12月10日パリでヒアリングを受けてまいりました。そこで全ての質疑に応答し、自らの潔白を説明いたしました」

IOCのHPより
IOCのHPより

ここは事実経過だ。そして、しめのコメントに続く。

「現時点、私の心境といたしましては、この騒動により2020年東京オリンピックパラリンピック開催にむけ、着実で順調な準備に尽力されている皆様、そして、組織委員会、オリンピックムーブメントに与えかねない状況になってしまったことにつき大変申し訳なく思っています。また、信頼するスタッフたちが一丸となって熱い思いを持って取り組んでいたのは紛れもない事実でありその支えがあったからこそ、この東京招致が実現できたものと確信しております。この場をお借りして、改めて当時のスタッフを誇りに思うとともに皆様に感謝を申し上げたいと思います今後私は、現在調査中の本件について。フランス当局と全面的に協力することを通じて自ら潔白を証明すべく全力をつくしてまいります。以上であります」

こうして見ると、確かに竹田会長が「潔白主張」していると言えなくはない。しかし、その潔白を支える根拠は、「意思決定プロセスにも関与しておりません」という部分でしかない。深読みすれば、これは、コンサルタント契約には問題が有ったと認識しているとも受け取れる発言だ。

つまり、会計の内容は、報道が伝える「潔白主張」から受ける印象とはかなり違ってくる。

また、竹田会長がここで語った内容が仮に事実だとして、逆にJOCのトップとしての資質に疑問符がつくものになっている。それを本人も周辺も理解していないのが残念だ。或いは、その辺に、「招致委員会元理事長」としての会見だとことわった意味が有るのだろうか。

この会見から見て、次の会見の見出しは、「JOC会長辞任」とならざるを得ないだろう。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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