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安倍総理が解散会見で自画自賛した「内需主導の力強い経済成長が実現」は本当か?

立岩陽一郎InFact編集長
解散記者会見をする安倍総理大臣(政府インターネットTVより)

NPOメディア「ニュースのタネ」は総選挙ファクトチェックを行っており、これまでも安倍総理の解散会見、日本維新の会の公示日の第一声、希望の党の公約発表時の会見などをファクトチェックしてきた。今回、再び9月25日に行われた安倍総理の解散会見の内容についてファクトチェックを行った。

この会見で安倍総理は、次の様に話してアベノミクスの成果を強調した。

今、日本経済は11年ぶりとなる、6四半期連続のプラス成長。内需主導の力強い経済成長が実現しています

この発言のうち、「内需主導の力強い経済成長が実現しています」に注目した。

先ず、内需とはどうやって計算するのか?これは国民総生産から輸出総額を差し引いたものだ。その推移を示したのが以下のグラフだ。国民総生産が概ね500兆円で推移しているのに比して、輸出総額は70兆円程度にとどまっている。つまり、安倍総理の発言にある「内需主導」というのはこの点を指している。

国内総生産(GDP)と輸出額と民間消費支出
国内総生産(GDP)と輸出額と民間消費支出

では、「力強い経済成長が実現」しているのだろうか?確かに、国民総生産も10年のスパンで見ると上向いていることがわかる。また、民間部門の消費の数値を見ても、緩やかにだが上向いている。これを考えると、安倍総理の発言は全ての指標に裏打ちされた発言にも見える。

この安倍総理の発言は、アベノミクスの成果を強調したもので、消費税の予定通りの増税の実施を決定する根拠の1つとなっている。そして安倍総理はこの消費税増税による税収の使途を少子高齢化などの対処に振り向けるとして、その信を国民に問うことが今回の解散総選挙の意味だと主張している。

ここで気になるのは、家計の消費動向だ。その状況を無視して、「内需主導の力強い経済成長」をうのみにすることはできない。また、消費税の増税が直撃するのは家庭の消費であることも間違いない。

ニュースのタネは、政府のまとめた消費支出指数に注目した。これは家計の消費動向を調査して指数化したもので、2015年を100とした時の消費の動向を示している。それをグラフ化したのが以下だ。

画像

※家計消費支出指数(総務省統計局の資料から作成)

すると、「力強い経済成長」とは別の姿が見えてくる。家計の消費指数は減少傾向を示しているのだ。第二次安倍政権が誕生した翌年の2013年は上昇しているが、2014年以降は下降線をたどっている。そして最も新しい2016年の数値は97となっている。つまり、国内総生産は上昇傾向にあるものの、家計の支出は減少傾向にあることがわかる

安倍総理の発言を支えているのは、企業の活動が活発になったことで国民総生産が増えたことにあるが、その影響は家庭には及んでないどころか、実際には家庭の消費は減少傾向を示しているということだ。

前述の通り、安倍総理の発言は消費税の増税を明言するため理由の説明として出たものだ。そうであれば、家庭の消費動向にも触れた説明でないと実態を反映した説明とはならない。

従って、この発言は「事実と認めるには不確かな内容がある」と判定せざるを得ない。

ニュースのタネは今後とも各党代表の発言についてファクトチェックしていくことにしている。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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