Yahoo!ニュース

米トランプ政権、首席補佐官の辞任で更に深まる与党・共和党との溝

立岩陽一郎InFact編集長
大統領首席補佐官を辞任したプリーバンス氏(写真:ロイター/アフロ)

北朝鮮の弾道ミサイルどころではないというのが米政権の状況かもしれない。米トランプ政権の混迷が止まらないからだ。スパイサー広報官が辞任したのに続き、大統領首席補佐官が辞任する事態となった。

トランプ大統領は突然、ラインス・プリーバス(Reince Priebus)首席補佐官の後任に国家安全保障省のジョン・ケリー長官を就けることをツィートで明らかにした。

首席補佐官は大統領の最側近。米CNNテレビは、フリーバス氏は首席補佐官として最も短い在任期間となり極めて異例の事態としている。

この後、フリーバス氏はCNNに出演し、自ら辞任を申し出たことを明らかにし、「解任」ではなく「辞任」であり、今後暫くは公職につかないと話した。

プリーバス氏については、新たにホワイトハウスの広報部長に就任したアンソニー・スカラムッチ氏が米誌ニューヨーカーのインタビューで、口汚くののしったことで、その去就が注目されていた。

トランプ大統領は、オバマ政権時に成立したことでオバマケアと呼ばれる医療保険制度の撤廃と新たな制度の創設を実現し、その後に、税制改革に着手することに低迷する政権の支持率を上げることを目指していた。しかし、新たな医療保険制度の創設が与党・共和党の造反によってとん挫する結果に終わっており、税制改革も共和党内での合意を得るのは困難な状況。

プリーバス氏は共和党全国委員会の委員長からホワイトハウス入りした。共和党の有力者であるライアン下院議長と近いことが知られている。このため、トランプ政権と共和党との関係が更に悪化することが指摘されている。

また、プリーバス氏と二人三脚で政権を支えてきたティーブン・バノン主席戦略官も政権での発言力が弱まっているとされており、プリーバス氏の辞任によってバノン氏も政権を離れるとの観測が出ている。

トランプ大統領をめぐっては、ロバート・モラー特別検察官による捜査が進んでいる。この捜査に介入しないことを明言した司法省トップのジェフ・セッションズ長官の解任も示唆しており、政権の混迷が止まる状況にはない。

米公共放送NPRのデスクは次の様に話している。

「辞任したスパイサー、そしてプリーバスと、ともに政権批判の矢面に立ってきた人物だ。本人がどう言おうが、政権から切られた印象はぬぐえない。事実上の解任だろう。これで、共和党との溝が深まるのは避けられないだろう。上下両院で多数を占める共和党と歩調を合わせないことには大統領は何一つ、政策を実行できない。大統領令を連発するしかない。トランプ大統領が何を目指しているのか、何を狙っているのか、明確に説明できる人は少なくとも米国にはいない

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

立岩陽一郎の最近の記事