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米トランプ政権の外交政策は大丈夫なのか? 孤立する国務長官 各国外交団からも懸念の声

立岩陽一郎InFact編集長
韓国訪問時のティラーソン国務長官 大使館員へのねぎらいは無かったという(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

米国の外交政策を担う国務省は大幅な予算削減を迫られている上、新任の長官は職員との接触もほとんどないという。こうした状況で、国務省職員の士気が下がっているということで、各国外交団からも米国の外交政策への懸念が広がっている。

3月28日、米議会では国務省の予算について議論が行われていた。トランプ大統領は国務省の予算を30%削減する予算案を示している。それを叩き台に、議会が次の会計年度の予算を作るためのものだ。

参考人として呼ばれたのは外交のエキスパート。フーバー研究所のステファン・クラスナー氏、シンクタンクAEIのダニエル・プレトカ氏、そして元国務次官でハーバード大学教授のニコラス・バーンズ氏の3人。

(参考記事:米トランプ政権、北朝鮮との事実上の「協議」入りをドタキャン(36))

議員から矢継ぎ早に質問が出る。「この予算削減案は、国務省の活動にどういう影響を与えるのか?」「この予算を削減すると米国の国際社会での影響力はどうなるのか?」

出席者によると、3人の答えは同じで、異口同音に、この予算削減によって国務省は機能の低下を招き、それは米国の国際社会での立場を著しく損なうものになるだろうなどと話したという。

当然、こうした事態は国務省トップのレックス・ティラーソン国務長官も予想していた筈だ。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (22)~ケネディ前駐日大使、トランプ大統領の外交政策に憂慮示す)

ワシントンポスト紙の3月31日付の記事によると、ティラーソン長官は予算案について議員から「こんなに予算を削減して本当に大丈夫なのか?」と問われ、明らかに不安を共有していたという。しかし、議員によると、ティラーソン長官は結局、不安を共有しただけで終わったという。

このままだと限られた予算の中での外交を強いられる国務省だが、ティラーソン長官がどのような外交をしようとしているのか、実は職員の誰一人わからないのだという。

同じワシントンポスト紙の記事によると、国務省の職員でティラーソン長官に会える人はほとんどいないという。ティラーソン長官は政治任用の側近と行動し、職員はその側近らを通じて長官の指示を受けるのだという。また、ティラーソン長官はこれまで日本を含め、欧州、東アジア、メキシコ、トルコなどを歴訪しているが、通常なら行われる在外公館の職員のねぎらいなどの行事も行われていないという。このため、在外公館でも疑心暗鬼になっているという。

行政取材の長い公共放送NPRのベテラン記者は、「国務省は事実上のリストラ対象官庁となり、その上、長官は自ら孤立した状況を作っている。国務省職員の士気の下がり方は尋常ではなく、『米国の外交は大丈夫なのか?』と、我々メディアだけでなくワシントンに駐在している各国の外交団も懸念を示している」と話している。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (27)~「トランプ船に乗った安倍総理」 米ジャーナリストから見た日米首脳会談)

※議会で証言した3人のエキスパート

Stephen Krasner(the Hoover Institution)

Danielle Pletka,(vice president of foreign and defense policy studies at AEI)

Nicholas Burns(professor at Harvard University)

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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