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米女子レスリング大会で性転換者が優勝 トランプ政権が権利制限に利用するとの懸念も

立岩陽一郎InFact編集長
性転換者の大会優勝を大きく伝えるワシントン・ポスト紙

25日、テキサス州の高校レスリング大会の女子の部で性転換者が優勝した。全米のメディアは大きく扱っており、性転換者の権利を制限する姿勢を明確にしているトランプ政権下で、今後の議論の方向性を左右するものになるかもしれない。

大会の110ポンド級で優勝したのは、マット・ベッグスさん(17)。2日間で4人の女性競技者を破って栄冠を勝ち取った。

ワシントン・ポスト紙によると、会場はベッグスさんの勝利を称える声とブーイングとに二分されたという。このため、ベッグスさんは勝利のコメントも出さずに会場を後にしたという。

(参考記事:元朝日記者家族へのツイート脅迫で賠償が確定 「執念の裁判」と弁護団)

ベッグスさんは2年前に性転換を行い女性から男性になった。ベッグスさんが女性の大会に参加したのは大会の規定による。ベッグスさんは性転換の過程で受けている治療で、男性ホルモンのテストステロンを注射している。筋肉増強や骨格の発達という作用がある。

ベッグスさんは、大会に参加するまで52戦して負けなし。ワシントン・ポスト紙によると、テキサス州の裁判所に、ベッグスさんの参加を取りやめるよう求める訴えも出ているという。ベッグスさん自身は男子の大会への参加を持て求めているが、大会組織委員会は、出生時の性別を基準にしているということでベッグスさんの求めには応じられないとしている。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (25)~”トランプ大統領!米国はグローバル化しているって、でまかせですよ”リポートを米有力紙掲載)

性転換者の権利をめぐってはトランプ政権下で大きな争点となっている。トランプ大統領は、オバマ政権時代に認められた学校でのトイレの利用に関する本人の意思を尊重するなどの取り組みを止めるなど、性転換者の権利を制限する姿勢を明確にしている。

この問題について自身も性転換者であるニューヨーク在住のジャーナリストは次の様に話している。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (20)~トランプ大統領が連邦最高裁判事を指名で、更に米国の分裂が深まるとの懸念も)

「問題は、少数者の意見に耳を傾ける社会かどうかだ。ベッグスさんについて言えば、彼は男子の大会に出たいと言っているわけだから出生時の性別に関係なく男子の大会に出せるようにすべきた。せっかくの優勝だが、こういう形になると、トランプ政権が少数者の権利を制限する方向で利用するのではないかと心配だ」

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (21)~トランプ米大統領、最高裁判事の承認で狙うのは「絶対的安定多数」)

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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