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安倍総理帰国後のトランプ大統領を襲った側近のスキャンダル

立岩陽一郎InFact編集長
トランプ大統領の側近、マイケル・フリン安全保障担当補佐官。(写真:ロイター/アフロ)

双方満面の笑顔で終わった日米首脳会談。しかしその余韻も冷めやらぬうちに、トランプ大統領は厳しい局面に立たされている。側近で安全保障担当補佐官を務めるマイケル・フリン氏が厳しい批判にさらされているのだ。大統領にとって外交の軸とも言えるロシアとの関係で、不適切な接触が次々に明らかになってきているためだ。

●ロシアの駐米大使と制裁解除について議論か?

この問題は、大統領選挙をめぐってロシア政府がハッキングを行っていたとしてオバマ政権がロシア政府に制裁を科した際、当時、政権移行チームのメンバーだったフリン補佐官(当時は民間人)がロシア政府と接触して制裁解除に向けた話し合いをしていた疑いが指摘されているものだ。

これについてワシントン・ポスト紙は9日、制裁が科せられた前日にフリン補佐官が駐米ロシア大使と電話で話し、その際に制裁についても話をしていたと報じた。ワシントン・ポスト紙が、その会話記録にアクセスできる9人の確認を得たとしたことから、フリン補佐官をめぐる状況は一気に厳しいものに。

政権発足前に政権移行チームを率いていたペンス副大統領らは当初、フリン補佐官からの話として、ロシア側と接触していた事実は認めつつ、クリスマスの挨拶程度で、オバマ政権の制裁について話したことはないとしていた。しかし、新聞、テレビ各社のその後の報道によると、ペンス副大統領もフリン補佐官から嘘を言われていたと判断しているという。

これを受けてニューヨーク・タイムズ紙も、13日の社説でフリン補佐官を「安全保障補佐官とされる人物」と酷評。補佐官としての信用を失ったばかりか、民間人が外交問題に関与して外交政策を誤らせることを禁じた法律に違反していた疑いが有るとして、全面的な調査を求めた。

参考記事:現地報告:中国官僚の実態

●沈黙を守るトランプ大統領

この問題についてトランプ大統領が沈黙していることが、事の深刻さを示していると受け止められている。大統領は安倍総理とフロリダに向かう専用機の中で記者団からワシントン・ポスト紙の報道について問われ、「その報道について知らない。それはどういう報道だ?」と話し、その様子はテレビでも流れている。

メディアの動向に敏感で夜中でも朝方でもツイートで報道の内容をやり玉に挙げるトランプ大統領だ。機内での言葉を鵜呑みにする記者は1人もいない。その後もフリン補佐官についてツイートなどで触れていないことから、トランプ大統領が対応に苦慮しているものと見られている。

●国家安全保障会議も機能しない事態に

民主党からも、フリン氏のロシア側との接触を全面的に捜査するよう求める声が出ている。ワシントン・ポスト紙によると、ホワイトハウスの関係者は「フリン補佐官は孤立している」と話しているという。

米公共放送NPRのベテラン記者は次の様に話した。

「オバマ大統領のロシアに科した制裁をめぐっては、プーチン大統領が対抗措置をとらず、それをトランプ大統領が賞賛した経緯がある。仮にフリン補佐官のやり取りをトランプ大統領も知っていたとの疑いがもたれると、更に大きな問題に発展する。だから、トランプ大統領だって、下手なことは言えないだろう。彼をかばうことは自殺行為になるからだ」

しかし、ことは大統領云々というだけの問題ではないとNPR記者は話す。

安全保障担当補佐官は、国家安全保障会議の主要メンバーだ。NPRの記者の話では、既に、この会議も機能しなくなっているという状況が見られるという。

このままでは国家安全保障会議が正常に機能しないという極めて異常な状態が続くことになる。それは当然、米国だけでなく、日本を含めた関係国の安全保障に直結する深刻な事態を引き起こしかねない

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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