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”トランプ大統領!米国はグローバル化しているって、でまかせですよ”リポートを米有力紙掲載

立岩陽一郎InFact編集長
金融政策の大統領令に署名するトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

イスラム教徒の入国を制限した大統領令が批判を浴びているトランプ米大統領。その選挙中からの主張はグローバル化が米国から富を奪っているというものだが、それは事実ではないとしたリポートをニューヨーク大学ビジネススクール所属の研究員がまとめ、米ワシントン・ポスト紙が5日に掲載した。

リポートのタイトルは「グローバル化というでたらめの政治」。

●米国で売られている外国製造品は16%

それによると2014年 に米国で売られている製品の製造地を国別に調べたところ、84%が米国で製造されていたという。つまり外国で製造された品物の割合は16%にしかならず、最もやり玉にあがる中国でも3%にしかならなかった。NAFTA(北米自由貿易協定) の締結国であるメキシコとカナダがそれぞれ2%、続いて日本の1%となっている。他の国は1%未満となっている。

これは2015年もほぼ変わらず、米国が輸入品に依存している比率は15%だった。この比率が米国より低い国はスーダン、アルゼンチン、ナイジェリア、ブラジル、イランの5か国しかなかったという。リポートは、米国人の誰もが思っているよりも米国はグローバル化に依存しているわけではないとしている。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (3)~米トランプ新政権を揺るがすロシアとの関係)

また、人の流入を厳しくする方向性が議論されていることについても現状認識が事実と異なると指摘。2015年時点で、 移民 として入国した第一世代が全国民 に占める割合は14%だったという。このうちメキシコは最も大きな比率を占めているが、それでも4%だった。14%は低くはないが、世界的に見れば高くもなく、この数字よりも比率の高い国はほかに26ヵ国あるとしている。

●でたらめなグローバル化=グローバローニー

リポートは、事実を見ずにグローバル化を誇張して進める政治を見直す必要があるとしている。そして、トランプ政権が進めようとしている保護主義は極めて深刻な事態を招くだろうと警鐘を鳴らしている。

リポートの英語のタイトルは、「The politics of globaloney」。この「globaloney」はグローバルの「global」と、でたらめを意味する「baloney」を合わせた造語だという。グローバローニー。

(参考記事:<東京五輪招致疑惑>都に資料は存在しなかった 招致委解散で閉ざされる情報開示)

公共放送NPRで経済を担当しているベテラン記者は次の様に話している。

「普通に我々が考えている数字とあまりに違うので私も驚いている。この記事についてのツイートを見ると否定するようなものは出ていない。ただ、数字がどうあれ、グローバル化が米国から富を奪っているというトランプ政権の主張の根拠があやふやであることを示したのは意味が有ると思う。このリポートのタイトルであるグローバローニーは私は初耳だが、今後、この言葉はキーワードになるかもしれない

●リポートの詳細

"The politics of globaloney"

執筆者:Pankaj Ghemawat and Steven Altman.両氏ともニューヨーク大学Stern School of Business内にあるCenter for the Globalization of Education and Managementに所属。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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