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来日する米国防長官にトランプ政権の「重し」との期待

立岩陽一郎InFact編集長
議会での国防長官承認の質疑に応じるジェームス・マティス将軍(写真:REX FEATURES/アフロ)

トランプ大統領が「効果的だ」として復活させる意向を示してきた捕虜への水攻め拷問だが、大統領は、ジェームズ・マティス国防長官の意向を受けて断念した。マティス長官はトランプ大統領の発言を否定する考えをいくつか示しており、米国では新国防長官が政権の「重し」になるのではとの期待が高まっている。マティス長官はトランプ政権で最初の閣僚として日本を訪問する。

狂犬マティス将軍

捕虜に対する水攻め拷問についてはオバマ政権時代に発覚し、国際的な批判を受けて禁止されている。これについてトランプ大統領は「効果的だ」として復活させる意思を示していたが、その際に、マティス国防長官の判断に委ねると話していた。

マティス長官は元海兵隊の将軍。2013年、中央軍司令官のポストを最後に退役した。中央軍はアフリカのエジプトから中央アジアのカザフスタンまでの広い範囲を管轄し、米国の中東政策に事実上関与する重要ポストだ。マティス将軍は、オバマ政権がイランとの対話を開始したことに反対したために更迭されたとの指摘もある。

軍人時代、常に前線で指揮を執るその恐れを知らぬ姿が「狂犬」と称されるなどしたことから、国防長官に指名された際は最も懸念された人事だった。トランプ大統領の最も忠実な側近になると見られたからだ。

「将軍、この政権であなただけが希望だ」

ところが、議会での承認の手続きでマティス将軍の評価はがらりと変わる。まず、トランプ大統領が過剰なほどロシアへの接近の意思を示す中、明確にその方針に反対し、「ロシアは米国にとっての脅威の最大の存在」と主張した。

また、オバマ政権が進めたイランとの核合意を破棄にするとのトランプ大統領の意向についても、「米国が進め各国が合意したことを勝手に破棄にすることは米国の国際的な信用問題につながる。その政策がどうあれ、一度国の方針として決めて各国で合意したことは守るべきだ」と反対する考えを示している。

こうしたマティス将軍の発言に、委員会では元軍人は退役後7年経たないと政府高官への任用ができないという規則を凍結させる異例の対応で、国防長官への就任を承認している。

首都ワシントンで国防総省を取材しているジャーナリストは次の様に話す。

「議会では、民主党のリベラルな議員から『将軍、この政権であなただけが希望だ』という言葉が出た。これには驚いた。恐らく、共和党の議員も驚いたのではないか。この政権の方向性に誰もが違和感を覚えている中で、マティス将軍だけがまともなことを言っていたということだろう。政党間の争いの場となる承認の場でそのような場面を見たのは初めてだ」

そのマティス長官が真っ先に選んだ訪問先が日本。国務省時代に日本勤務の経験が有る元外交官は次の様に見ている。

「マティス長官は議会から全幅の信頼を得ており、軍事に限らず外交政策においても暴走しがちな感じのするトランプ政権の重しになるのではないか」

沖縄基地問題への対応は

沖縄の米軍基地問題についても詳しい元外交官に、普天間基地の県外移設の可能性についてきいてみた。元外交官は何の情報もないとことわった上で、次の様に話した。

「可能性は有るかと問われれば、これまでよりは有ると答えたい。もっとも、それは日本政府の問題だから米国政府は関与せずの方針に変わりはないだろう。ただ、彼は海兵隊出身だから海兵隊OBと話ができる。海兵隊は米4軍の中で最も規模が小さいが、その分結束力が強く最も政治力が有ると言われている。そこと話ができる国防長官だから、これまでと異なる展開を見せることはあり得る」

マティス長官は2月3日に来日する。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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