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米トランプ次期政権に娘婿入りで「利益相反」も問題に

立岩陽一郎InFact編集長
中国アリババ・グループのマー代表と会談したトランプ氏(写真:ロイター/アフロ)

トランプ米次期大統領の政権移行チームは9日、娘婿のジャレッド・クシュナー氏のホワイトハウス入りを明らかにした。こうした中、1つのキーワードがささやかれ始めた。「利益相反」だ。ビジネス人脈を活用しようとするトランプ氏だが、候補者の中には政権入りすることで自らのビジネスを有利にできる人が多数入っているからだ。娘婿もその1人だ。

ホワイトハウス入りが発表されたのは、トランプ氏の長女イバンカ氏の夫のジャレッド・クシュナー氏だ 。上級スタッフとしての任用となっているが、その詳細はまだ明らかではない。弱冠35歳という若さのクシュナー氏は既に政権移行チームで主要な役割を担っており、その動向が注目されてきた。ユダヤ教徒のクシュナー氏は中東政策に関心を持っているとされ、外交政策のスタッフで任用されるのではないかと見られている。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか

また、クシュナー氏の妻のイバンカ氏もホワイトハウス入りが取りざたされている。夫婦は最近、首都ワシントンに自宅を購入。政権入りに備えた動きと見られている。

前回も指摘した通り、米国では1967年に制定された反縁故法によって公職に就いた者が親族をその監督下にある公職に就けることを禁じている。これはケネディ大統領が実弟のロバート・ケネディーを司法長官につけたことが厳しく批判されて制定された法律だ。

ただ、問題はそれだけではない。これに加えて問題視され始めているのが「利益相反」だ。

クシュナー氏がかねてから指摘されているのは、彼のビジネスと各国との関係だ。クシュナー氏は主にニューヨークで不動産業を営んでいるが、その資金を中国など外国の投資会社に頼っていることが再三指摘されている。クシュナー氏の弁護士はホワイトハウス入りに際して経営している会社を辞するので問題無いとしているが、仮にクシュナー氏が外交政策の上級スタッフとなった場合、それがどこまで説得力を持つのか疑問は残る。

また、ワシントン・ポスト紙は、投資家のカール・アイカーン 氏のホワイトハウス入りが確実になったと報じた。アイカーン氏は連邦政府の規制のあり方を見直す担当となるという。見直すとは、素直に言えば、規制緩和ということである。

アイカーン氏は主にエネルギー関係の事業に投資をしており、その厳しい連邦政府の規制を批判してきたことで知られる。アイカーン氏が規制見直しの責任者になるということは、彼がまっとうに仕事をすることがそのまま彼の事業を利することになるとの指摘も出ている。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (2) トランプ勝利を予言した米紙の記事)

ホワイトハウスのスタッフは閣僚とは異なり、議会の承認を必要としない。しかし、利益相反に問われた場合、そう簡単には片付かない。任命の後も議会で追及される恐れは有る。今後、この「利益相反」という言葉が米国のメディアを賑わすことになるだろう。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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