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Netflixを無料化する携帯キャリア米国T-Mobileの狙いと、モバイル映像体験というトレンド

松村太郎ジャーナリスト/iU 専任教員
スマホ時代に適したサービスを打ち出し成長を続けるT-Mobile(写真:ロイター/アフロ)

Netflixが無料化されるのは、T-Mobile契約ユーザーのうち、最新のデータ無制限プランであるT-Mobile ONEファミリープランに契約しているユーザーが対象。このプランでは、4人家族全員が通話・SMS・データを無制限で利用でき、1人あたり40ドルで利用することができます。

ここに、NetflixのスタンダードなプランであるHD再生に対応した月額10ドルのプランが無料化されます。結果として、毎年のNetflixの利用料120ドルが節約できることになります。

アメリカの携帯電話業界の変革者、T-Mobile

T-Mobileは、プリペイド主体で業界第4位の携帯電話キャリアでしたが、iPhoneの取り扱いを開始してから急伸しました。高速さとと豊富なデータ量を武器にしたスマートフォンに特化したネットワーク・料金展開と、既存の携帯キャリアの慣習を打ち壊すサービスの導入で利用者を集めてきました。

米国における2017年上半期の調査では、Verizon、AT&T、Sprintといった大手3社を抑え、通信速度ではトップを記録。ニールセンによる調査でも、顧客満足度トップと、サービス面でも評価を受けてきました。

最新の2017年第2四半期までの17期連続で100万加入以上の純増を記録し、6960万人の契約者にまで成長してきました。

T-Mobileは、これまで、携帯電話のサービスの変革に腐心してきました。例えば2年縛りの撤廃やローミングの無償化、音楽や映像のストリーミングサービスをデータ使用量から除外するサービスなど、現在のスマートフォンによるモバイルネットワーク利用でユーザーが懸念していることを次々に解決する旗振り役のような存在だった、とふりかえることができます。

Netflixを無償化する意味

T-Mobileは以前から、データ従量制のユーザーに対して、映像ストリーミングサービスを利用する際のデータ量をカウントしない施策を導入してきました。

ただ、すでにT-Mobile ONEのような無制限プランが導入されたため、新規ユーザーにとってはさほど意味がないかもしれませんが、スマートフォンで映像を楽しむスタイルについて、なんらかの施策を採る姿勢は以前から見られた、ということです。

今回のNetflix無料化で契約できるアカウントは、必ずしもT-Mobileのネットワークを利用する必要はなく、通常の自宅のネット回線やネットTV、セットトップボックスなどのデバイスからの利用も可能です。

ただし、HD再生まで、2台までの同時再生となっているため、4Kの映像を楽しみたい場合、4台までの同時再生したい場合は、追加で2ドルを支払う必要があります。

映像サービスのバンドルは、T-Mobileが大リーグのMLB.comを無料バンドルしたほか、AT&Tは良質なドラマなどで定評があるHBOをバンドルするなど、携帯業界でも大きな流れとして広がりつつあります。

もちろん多くのユーザーがモバイルネットワークで映像を楽しむようになれば、キャリアの負担は大きくなります。

ただ、クルマ社会である米国において、こうした映像サービスのバンドルをしても、その多くのユーザーは自宅で映像を楽しむため、大きな負担とならないのかもしれません。

それ以上に、普段視聴しているサービスの利用料金が浮くなら、という動機で、キャリアの乗り換えを促進させるマーケティング的な側面での効果が大きい、と見ているのではないでしょうか。

映像視聴のスタイルの変化と、虎視眈々のApple

こうしたモバイル契約と映像のバンドルは、やはりスマートフォンでの映像消費をより大きくしていく効果があると考えています。

地上波やケーブルといった既存の手段からストリーミングでの映像視聴へという大きな流れは、当初はユーザー投稿ビデオも含めたYouTubeで拡がり始めました。

現在はその第二段階として、Netflix、Hulu、Amazonなどのストリーミングサービスの成長があります。そして次の段階として、ケーブルチャンネルがスマホやセットトップボックスのアプリで生放送やアーカイブ放送を行うトレンドへと移行しつつあります。

特にAppleは、iPhoneやiPad、Apple TV上のアプリとしてチャンネルがサービスを提供することを後押ししており、アプリ内課金の手数料というかたちで、スマートデバイスでの映像視聴からの売上を得ようと試みています。T-Mobileの動きは、映像視聴をテレビやケーブルから手元に引き寄せたいAppleにとっても、追い風になっていきそうです。

ジャーナリスト/iU 専任教員

1980年東京生まれ。モバイル・ソーシャルを中心とした新しいメディアとライフスタイル・ワークスタイルの関係をテーマに取材・執筆を行う他、企業のアドバイザリーや企画を手がける。2020年よりiU 情報経営イノベーション専門職大学で、デザイン思考、ビジネスフレームワーク、ケーススタディ、クリエイティブの教鞭を執る。

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米国カリフォルニア州バークレー在住の松村太郎が、東京・米国西海岸の2つの視点から、テクノロジーやカルチャーの今とこれからを分かりやすく読み解きます。毎回のテーマは、モバイル、ソーシャルなどのテクノロジービジネス、日本と米国西海岸が関係するカルチャー、これらが多面的に関連するライフスタイルなど、双方の生活者の視点でご紹介します。テーマのリクエストも受け付けています。

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