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クライマックスシリーズでぶっちぎり優勝チームに漂う不公平感と興行面での面白さを両立させる手段とは

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
昨年の日本一はオリックス・バファローズ(写真:アフロスポーツ)

 14日からプロ野球セ・パ両リーグの日本シリーズ出場権をかけた「クライマックスシリーズ」(CS)が始まります。

 毎年、この時期になるとレギュラーシーズンで優勝したチームが2・3位チームに出場権を奪われる制度はおかしいという声があがりますが、今年は両リーグの優勝チームが決定時点で2位を10ゲーム以上引き離しており、さらにシーズン終盤でパリーグ3位が勝率5割付近で競うありさまだった(9日時点)から一層その不公平さが際立っています。

 「メジャーでも優勝できなかったチームがポストシーズンでワイルドカードで出場できるではないか」との反論があるものの日米の差は歴然。メジャーの制度はむしろ公平性を担保しているとさえみなせますから。

 その違いを比較しつつ、あるべき姿を探ってみようと試みる次第です。

始まりはセとの差異化へやっきだったパのもくろみ

 セ・パ2リーグ制となった1950年から2003年まで、日本シリーズは単純に両リーグの優勝チームが覇を競ってきました

 潮目が変わったのは04年からパリーグが「プレーオフ」というCSとほぼ同様の制度を導入してから。レギュラーシーズンの結果は順位付けに止めて3位と2位の勝者が1位と戦って勝った方が「優勝」およびシリーズ出場権を得るというものです。

 まだこの頃はセの人気がパを圧倒していて、パリーグは少しでも盛り上げようと過去に2シーズン制を導入するなど差異化へやっきでした。低迷する観客動員数を少しでも押し上げたいというもくろみもあったでしょう。

興行面の盛り上がりぶりに着目してスタート、

 ところが04年に2位の西武が1位のダイエー(現ソフトバンク)を、05年も2位ロッテが1位のダイエーを破って「下剋上」し、その勢いのまま従来通り1位=優勝チームを送り込んできたセを負かして連続日本一となるや主に興行面の盛り上がりぶりにセも着目せざるを得ず、07年から、ほぼ現行通りのCSがスタートしました。

 当初から「レギュラーシーズンの成績を灰燼に帰す」「各リーグ6チーム中3チームも出場権獲得の可能性があるのは変だ」という批判はあって、CSは順位が上のチームのホームで開催する、優勝チームには1勝のアドバンテージを与える(08年から)といった配慮が施されたとはいえ設計の骨格は維持されたままです。

滅多に起きない「下剋上」でも募るモヤモヤ

 批判派に対して肯定派は「プロ野球は元来『興行』なのだから盛り上がるに超したことはない」「レギュラーと日本シリーズの間に新たな見せ場ができた」「消化試合が少なくなって最後まで2・3位争いでワクワクできるし客も入る」「下剋上もそれはそれで痛快だ」といったあたり。

 結果も2.3位による「下剋上」は滅多に起きません。セ・パともに過去各々3回(2位2回、3位1回)に止まっているのです。

 それでもなお冒頭に示した今年のような状況になればモヤモヤは募ります。最大の理由は長いレギュラーシーズンで均等に(同一条件で同一チームと同数)戦った結果として出た順位が覆ってしまう蓋然性に求められそうです。

 その点、米メジャーリーグは大きく異なります。

米メジャーも68年まで両リーグ優勝チーム同士で「世界一」を決めた

 米メジャーリーグはアメリカンリーグ(ア・リーグ)が誕生して以来、ナショナルリーグ(ナ・リーグ)双方のレギュラーシーズン優勝チーム同士で「世界一」を決める「ワールドシリーズ」を開催(1903年~)。68年までこの形式でした。

 69年、ア・ナ全24チーム(12チームずつ)へ拡大されたのにともない、リーグ内での東西地区制へと移行し「地区優勝」という概念が生じます。ゆえにア・ナのリーグ優勝は東西優勝チーム同士で戦って決まり、勝者がワールドシリーズで激突するスタイルへと変貌。「ポストシーズン」の始まりです。

 ここまでは必ず「優勝」を冠したチームだけが世界一を目指せる仕組みを維持していました。

3地区制でトーナメントを組みにくいため加えた「ワイルドカード」

 変化したのが94年から。「中地区」が新設されてア・ナ全28チーム(14チームずつ)を東・中・西 へと振り分けます。するとリーグ優勝を競う地区優勝チームはア・ナそれぞれで3チームとなってトーナメントを組みにくいため、両リーグ各地区2位での最高勝率チームを「ワイルドカード」として出場を認め、原則として3地区優勝の最高勝率チームと対戦する地区シリーズへと発展したのです。

 ワイルドカードは「優勝」の栄誉に浴していないチームですが合理性はあります。各地区優勝チームの勝率より高いケースがしばしば含まれますから。むしろ地区間の均衡を保つ肯定的な意味合いすらあるのです。

現制度が「優勝」の価値が減じるようで、そうでもない理由

 メジャーのチーム数は98年に30にまで拡大され今日に至ります。2012年からはワイルドカード出場チームを各地区2位以下の勝率1位と2位で1試合だけで決する「ワイルドカードゲーム」が置かれたのです。

 大谷翔平選手が21年以後に大活躍して所属チームのエンゼルスも彼が願ってやまない「ポストシーズン」進出可能かという話題が日本でも普通になされるようになりました。実は22年から地区優勝以外の勝率3位まで1枠拡大されています。残念ながら、それでもエンゼルスは及びませんが。

 「ポストシーズン」の1回戦に相当するワイルドカードシリーズは地区優勝を逸した勝率1位と2位、同3位(第3シード)と地区優勝のうち最も勝率が低いチーム(第6シード)が、それぞれ今までの1発勝負から3戦2勝制へと改まったのです。

 これだと地区優勝してもできなかったチームにいきなり「下剋上」されてしまう可能性が出てきて「優勝」の価値が減じるようで、実はそうでもありません。

 メジャーは同地区(76試合)以外の地区チームとも同一リーグであれば必ず対戦(66試合)する仕組みです。そのため時々に「弱い地区」が発生し、シーズン中に地区トップでも勝率5割を割り込む体たらくすら珍しくありません。今年の成績だとアリーグの地区優勝3チームの勝率最低(中地区1位)をワイルドカード3チームがすべて上回っているという具合に。

 ポストシーズンへ臨めるのは30中12チームで確率4割。日本の5割と大差ないようでメジャーの方は制度の特性を踏まえた納得のいく選抜であるといえましょう。

球団数拡大しかない

 今年の状況から日本のCSに「10ゲーム以上離されたらアドバンテージを2勝に」「勝率5割以下はCS出場不可にする」というアイデアが語られています。ただあまり厳格化すると興行面でつまらなくなる、ないしはもうからないという問題が当然に蒸し返され決定打とはいえません。

 米メジャーにならうならば球団数拡大しかない。20年にはソフトバンクの王貞治球団会長が16球団構想(4球団増)を提言して話題になった件です。過去にはセパともに8球団を抱えた経験もありますし。

 セパ所属チームを現状維持として仮に東西に分けたらセ東地区(巨人・ヤクルト・DeNA+1)、同西地区(中日・阪神・広島+1)、パ東地区(日本ハム・楽天・西武・ロッテ)、同西地区(オリックス・ソフトバンク+2)

 地区優勝同士で今のCSファイナルステージは行えるし、交流戦も含めて地区優勝以上の勝率を残したチームをワイルドカード化するなどの工夫もできなくもない。同一リーグならば地区に関係なく試合は行うので、例えば巨人・阪神戦がなくなるというわけでもなし。

東に新潟、西に静岡・四国・北陸が加入したら

 きっかけになりそうなのが来年から2軍の公式戦に参加すると決まった「ハヤテ223」(静岡)と「新潟アルビレックス・ベースボール・クラブ」です。ハヤテはウエスタンリーグ、新潟はイースタンの属するため、将来の1軍昇格を見込めば西にあと2球団を加えれば16へ届きます。

 現12球団+静岡・新潟の地域保護権を勘案すると明らかな空白地帯は四国。当地には05年から頑張っている独立リーグ「四国アイランドリーグplus」が所在していて素地はありそう。後の1球団が難しいところですが北陸で今年からスタートした「日本海リーグ」は目標をプロ野球2軍リーグへの加入に置いているので注目です。

 新規参入60億円の加入料制度も今は半額となり、かつ10年間維持すれば大半が返ってきます。拡張ドラフト制度の整備にしても国内FA選手獲得で行われている人的補償の仕組み(プロテクトなど)を援用すれば何とかなりそう。

暗黒のパリーグが人気化した地域分散

 過去に「暗黒」とまで呼ばれたパリーグが人気化した大きな理由として地域分散がありました。かつては関東と関西に3チームずつといびつで、それぞれ巨人と阪神というセの人気球団に席巻されていたのです。

 しかし1989年に南海を買収したダイエーが福岡県へ、東京ドームをホームとしていた日本ハムが2003年に北海道へとそれぞれ本拠を移し、04年の再編問題に端を発して誕生した楽天が宮城県で誕生するなど分散して地域の声援を取り込んでバランスのいい発展を遂げました。プロ野球自体の発展にもさらなる多極化は望ましいはずです。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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