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出生数増加は尋常の手段では無理。貧窮化、非婚化推進、「モテる好色」の結婚禁止……果たして極論か

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
それでは手ぬるい(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 厚生労働省が2日に発表した年間の出生数・率が話題となりました。昨年生まれた赤ちゃんは77万747人で過去最少を更新。女性が一生の間に生む子どもの数を示す「合計特殊出生率」も1.26と05年と並ぶ過去最低まで落ち込んだのです。

 もうこうなると尋常の手段で向上させるのは諦めた方がよさそう。そこで視点をガラッと変えて極論ともいえる劇薬を、それでもなお根拠を付して論じてみようと思います。

軒並み高い後発開発途上国の出生率

 出生率は2.07(人口置換水準)を下回ると次世代の人口が減少するとされています。生物学的な男女がほぼ同数で、かつ女性しか生めないから「2」を上回らないと維持できないという簡単な理屈。では世界で出生率が高い国はどこでしょうか。

 ニジェール、ソマリア、コンゴ民主共和国、マリ、チャドといったアフリカの国が出生率「5」を上回っています(※注)。これらの国はGDP順だと110位から150位の範囲内。すべて国連が定める後発開発途上国(最貧国)です。「4」以上の約40ヶ国を概観しても「貧しい国」が圧倒的。

 対してGDP上位の日米中および欧州主要国は軒並み「2」を割り込んでいるのです。

 ここから直線的に思い浮かぶのは「貧しくなれば出生率は上がる」説。でも、ただ貧乏になればいいというわけでもなさそう。

第1次ベビーブームは最も貧しかった時期に生じた

 戦後の日本で最も出生率・数が多かったのが1947年~49年の第1次ベビーブーム。最大で年間約270万人も生まれています。この時期の日本は敗戦後の焼け野原で国土荒廃・産業施設が壊滅したところへ海外植民地や占領地にいた約700万人が帰国したため大失業。政府の物価統制令は絵に描いた餅で都市部にヤミ市が並びインフレ急進。

 良くも悪くも締め付けていた戦前の国家機関の締め付けが蒸発したため47年頃の食糧事情は最悪でした。衛生環境もひどい状態で母子の栄養不足も相まって100人中約7.6人の乳児が死亡するありさまだったのです。

 戦後経済を振り返るとこの頃が特に都市部では最も貧しかった時期といえましょう。なのに巨大なベビーブームがやってきたのです。

経済が「今が底」と痛感するほど低下すれば将来期待が出産の動機に

 2度目の大きな山は71年から74年の第2次ベビーブーム。ただしここは第1次との親子という因果関係があるので説明不要。謎はやはり「なぜ第1次はやってきたのか」となります。

 注目すべきは当時の日本に不思議な高揚感も見受けられる点。例えば現在の「成人の日」のルーツとされている埼玉県蕨市のイベントは「今こそ、青年が英知と力を結集し、祖国再建の先駆者として自覚をもって行動すべき時と激励し、前途を祝し」たのです。

 要するにこの時期の現状が最悪なのは同時代人ならば生活しているだけで説明無用で理解できたと同時に「これ以上悪くなりようがない」との確固たる自覚も生じたでしょう。言い換えると良くなる未来しかない。未来の主人公は若者だ。だから「祖国再建の先駆者」「自覚」「行動」などの言葉が響きました。似た動機を出産適齢期が抱いたとしてもおかしくありません。

 反対に合計特殊出生率が初めて人口置換水準を割り込んだのが75年。以後一度も回復しないまま今日に至っているのです。石油危機の影響で前年が戦後初めてのマイナス成長を記録。名実ともに経済の高度成長終焉を感じた頃と一致します。

 つまり単に貧しくなるだけでなく「今が底」と痛感するほど低下すれば将来期待が出産の動機になり得ます。いわば「パンドラの箱」現象。将来の日本に当てはめると万策尽きて国債の債務不履行や円が無価値となるほど追い込まれた時あたりかもしれません。

出生率高めの主要国との決定的違いは婚外子の割合

 ただ自ら書いておいて何ですけど「底をつくまで落下せよ」で支持が得られるとも思えないのも事実。そこで若干穏便にして「人口置換水準以下ではあるが日本より出生率が高い主要国」から何か学べないかを論じてみます。

 内閣府によると少子化の大きな原因の1つが「未婚化の進展」(非婚化とも)。そうした若者を支援せよという声も高い。でもここには「結婚(≒法律婚)→出産」の順でなければいけないという固定観念が働いていないでしょうか。

 主要国で比較的出生率の高いのがフランス、スウェーデン、アメリカ。これらと比較して賃金、失業率などで有意差はなく、元凶の1つとされる長時間労働もアメリカの方が多いぐらい。決定的な違いは婚外子の割合です。フランスとスウェーデンは半数以上、アメリカも4割を占めるに対して日本はたったの2.3。際立った対照を示すのです。

 婚外子とは法律婚していない男女間に生まれた子ども。先述のように日本の常識たる「結婚→出産」の順で生まれていない者を指します。それが当たり前の他主要国と「隠し子」などと白眼視されかねない日本との差は決定的。

 ここを倣えというならば非婚化は課題でなく解決策。「非婚化上等」という社会を作っていけばいいはずです。

法律婚のくびきを社会から解き放て

 結婚とは一般に人生の一大事とされています。本来、契約の重要度が高いほど慎重になるべきところ結婚という契約は、ある意味で最も慎重さを失った際に決断するという矛盾した営みともいわばいえます。

 やはり内閣府の調査によると「適当な相手にめぐり合わないから」が過半数。何しろ法律婚はズシリと重いので「愛している」ぐらいで「適当な相手」とするのは相当な無理がある上に、そもそも矛盾をはらんだ契約ですから。でも子どもは一時的な「愛している」でも誕生します。

 フランスの場合だと両親が結婚していなくても財産や生命といった法律婚で与えられる社会的権利を同等に享受できるし親権も持てるのです。生物学上の父と母が未婚だとしても子にとって父は父で母は母。反対に親(男女)同士の仲が冷え込んで別れても子は子。永遠の愛と共白髪を誓うなどのムチャを前提にしない方が子は生まれやすいし親子関係は法律婚のそれと同じ。

 法律婚のくびきを社会から多少なりとも解き放ち、何にせよ赤ちゃん誕生が前提条件抜きで目出度いと祝福して「家族」というより「親子」に社会が手を差し伸べる。子ども家庭庁のキャッチフレーズ「こどもまんなか」とは本来そうしたものではないでしょうか。

 付言すると「法律婚をするな」という意味ではありません。したい者は大いに結構だし祝福すべきです。ただ「それしかない」まで狭めると子は増えないという主張を紹介しているに過ぎません。そもそも子を生まない前提の法律婚もあっていいわけで。

生涯未婚率で男性が高い謎に迫ると

 国勢調査などの統計から日本の生涯未婚率が上昇しているのは間違いありません。婚外子は未婚同士で生まれるので割合が著しく低い日本では、その傾向が少子化へ直結してしまいます。

 ただ生涯未婚率は男性の方が高いという面白い傾向もみられるのです。男女はほぼ同数で一夫一婦制だから差異が生じる理由は何でしょうか。

 厚労省のデータで21年の離婚件数を婚姻件数で割ると約37%。この数字は「結婚した者同士が離婚する割合」を直ちに指しはしないとはいえ、まあまあ3組に1組ぐらい離婚しているという傍証にはなり得ます。

 その動機となると9割を占める協議離婚の訳はすぐれて内心の問題で統計がありません。そこでこじれた場合の家裁「申立ての動機別申立人別」という最高裁のデータをやむを得ず参照すると鉄板の1位「性格が合わない」の次に「異性関係」が浮かび上がります。

 「性格が合わない」は何とでも取れる万能鍵のような言葉なので仮に「異性関係」が大きな理由だと仮定しましょう。

 この理由で申し立てている女性は男性の3倍。申立人の総数自体が女性が男性の約2.7倍だから有意差とまではいえないながら、総数で妻が夫の浮気やら不倫やらで呆れているとまでは推測できそう。

 では「異性関係」で三行半を突きつけられた男性はどうするか。下世話にいえば彼はモテる。だから再婚もしやすい。その際の相手が初婚の女性としたら男女間の差異が生じる説明がつきます。夫婦の完結出生児数は低下傾向ながら「2」をうかがう程度は維持しているため出生数増に限れば貢献しているはずです。

 もっともこの形だと配偶者が不倫で傷つきます。不倫は民事上の不法行為で推奨できるわけもなし。としたら「モテる好色」は結婚せず、独身の相手と存分に愛を育み、子をなしていただきましょう。

※注:児童婚や紛争など固有の深刻な課題を抱えているとの認識はありますが、今回は数字のみに徹するのをご容赦下さい。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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