Yahoo!ニュース

WBCのいびつな収益構造で太り続けるMLBと選手会。しかも有力選手は出し渋る矛盾した体質

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
「オオタニサーン」は立派の一言なのだけど(写真:CTK Photo/アフロ)

 大谷翔平選手の活躍などで第1ラウンドB組を首位通過したWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)日本代表。A組2位と東京ドームで対戦し、勝てば米マイアミに渡って準決勝、決勝のトーナメントに臨みます。「史上最強」をうたわれる日本代表だけに3度目の「世界一」も夢ではありません。

 ただこのWBCという大会は収益配分などが極めていびつで「アメリカのアメリカによるアメリカのための大会」とも揶揄されているのも事実。今後の一層の盛り上がりのためにもあり方を注視してみます。

主催の「MLB&選手会」が収益の約7割を持っていく

 2013年大会を前にした11年7月、労働組合の日本プロ野球選手会は臨時大会を開き、WBCへの参加はさまざまな条件が改善されな限り不参加と決めました。満場一致であったから不満が非常に高いとわかります。

 1回目、2回目とも日本が優勝し、視聴率の低下からテレビ放送回数も激減している日本プロ野球で特筆すべき「数字が取れる」国際大会に出たくないとはいかなる理由であったのでしょうか。

 選手会によると09年の2回大会のスポンサー収入は総額で約1800万ドル(当時のレートで15億円~17億円に相当)で大会の総収益もほぼ同額。ところが配分は優勝賞金を除いてアメリカ大リーグ機構(MLB)と、同選手会が計66%を得、日本は13%に過ぎません。そもそもこの比率が「不平等」と批判されてもおかしくなのですが、日本の選手会はそこでなくスポンサー権と代表に関連したグッズなどを商品化するライセンス権を代表チームに帰属させるべきと訴えたのです。

せめてスポンサー権とライセンス権ぐらい自国代表へ

 この時点でスポンサー権とライセンス権はWBCに参加する場合は、大会を運営する会社=WBCI(MLBと選手会が共同で作る)に譲渡するのが条件。国際大会でありながらWBCは国際連盟が主催するのではなくWBCIが各国・地域の代表をスポンサー権とライセンス権といういわば持参金があれば招くといういびつな構造になっていました。

 スポンサー収入の過半は日本代表と推測されており、アメリカの会社が日本を応援する(スポンサー)権利から発生するお金まで譲り渡されるのはどう考えてもおかしいというわけです。大谷選手やダルビッシュ有選手を模したキャラクター人形が爆発的に売れても収益はアメリカへ入ります。23年大会のグローバルスポンサー4社はすべて日本企業。

 ちなみに他競技における通常の国際大会は当然のように自国のスポンサー権とライセンス権は自国代表へ帰属するのが常識。

侍ジャパンが常設された理由

 さらに日本の選手会はこの要求を自身の取り分増加として訴えているのではなくNPB(日本野球機構)の収益を増やすのを目的としていました。主要国の代表はほとんどプロで構成されていてWBCでケガでもしたら肝心の国内リーグに支障を来す恐れもあるのです。このリスクを負うならばせめて収益はNPBへ還元させて日本球界発展のために役立てたいとの切実な思いがありました。

 結局、この問題は大会期間外にも日本代表(侍ジャパン)を常設して年単位で募ったスポンサー収入の一部や対外試合などの収入を得られるという条件をWBCIに納得してもらい妥協が図られました。

開催地、アメリカ有利な第1ラウンドの「工夫」などなど

 とはいえ「アメリカのアメリカによる」という構図は大きく変わっていません。収益配分66%が動いていないのに加えて、

第1ラウンドC・D組と準々決勝、および準決勝と決勝すべての会場はアメリカ

3月開催もMLBの日程を優先しての決定

などなど。

 他にも第1ラウンドは予選を勝ち抜いた(日本は免除)4チームを除けばほぼ地域別なのに政治的にアメリカ(C組)と対立しているキューバはなぜか台北開催のA組。日本と同じくアメリカと覇を競う地力のあるドミニカ、プエルトリコ、ベネズエラはD組と万に一つもアメリカが第1ラウンド敗退とならないよう「工夫」されているのです。

 ついでにいえば1回目から「クラシック」と名づけられたのもMLBの主要試合にならって。例えばメジャーのオールスターゲームは「ミッドサマー・クラシック」といいます。

だったらドリームチームぐらい送り込んでくれよ

 野球が08年北京大会以降オリンピックの種目から外された(21年東京大会は開催都市枠で例外的に実施)理由の1つは最高レベルの選手を集めているMLBが極めて非協力的であった点です。米4大スポーツのうち五輪競技でないアメリカンフットボールを除けば男子プロバスケットボールのNBAやアイスホッケーのNHLがそれなりに五輪と友好関係を結んでいるのと対照的。

 ならばWBCを五輪に匹敵するか凌駕する一大イベント(例えばサッカーのワールドカップのような)に育てるつもりかというとカネは十分にふんだくっているのに主催するMLBなどのやる気があまり感じられないから困ってしまいます。

 「アメリカのアメリカによるアメリカのためのWBC」でアメリカが得をするルールであるならば、せめて目の色を変えてドリームチームぐらい送り込んでくれよと思うところ、メジャーリーガーの辞退が相次ぐなど真剣に取り組んでいるとは言い難いとなれば批判されても当然でしょう。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

坂東太郎の最近の記事