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「若者が選挙に行かない」は本当でも「今の若者は」と嘆くのはナンセンス。中高年が20代だった時は……

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
開票を待つ投票用紙(写真:REX/アフロ)

 今回の参院選もそうであったように国政選挙の若者の投票率の低さがしばしば問題視されます。ここから「最近の若者は政治に関心が薄い」と嘆く中高年以上も。ちょっと待って下さい。そもそもそれは本当なのでしょうか。

1969年から20代は常に投票率最低

 戦後の衆参両院における年代別投票率をみると衆議院議員総選挙は1969年から、参院選はほぼずっと「20歳代」が最下位です。近年注目された「18歳選挙権」(18歳と19歳)もかんばしくありません。確かに投票率=政治意識が成り立つならば「若者は政治に関心が薄い」といえそうです。

 ただしそれは「昔からずっと」であるのを見逃してはいけません。すなわち「60年代の20代」も「70年代の20代」もずっと世代別では最低なのです。

 そういうと「我々の20代はもっと選挙に行ったはずだ」という声が聞こえてきそう。確かに。総選挙でみると90年までは20代も5割を超えているのに対して現在は3割台。でもこの一事をもって「今の若者は……」とも言い切れません。全体の投票率との相関関係を無視した比較だからです。

全体平均との差は確かに開いているが

 1969年の20代は59.61%(全体68.51%)、79年は同57.83%(同68.01%)、90年は同57.76%(同73.31%)、2000年は同38.15%(同62.49%)、09年は同49.45%(同69.29%)、21年は同30.69%(同55.93%)。

 なるほど全体との差は10%程度から25%と広がってはいます。ただこうした傾向は世代が若いほどハッキリ現れがち。つまり全体を超える世代のうち60代が最もなだらかで、次に50代……となっていきます。見方を変えると若くなるほど直線的に見出せるのであって直ちに若者が関心を失っているとまではいえないのです。むしろ反応した結果ともいえなくもありません。

20代が30代・40代となっていくと

 何より重要なのは今の20代は10年後には30代となるという点です。先に示した指標はほぼ10年ごとに区切りました。69年の20代は79年の30代、90年の40代、00年の50代、09年の60代として計算してみます。

 1969年の20代は59.61%(全体68.51%)を基点にして79年の30代は71.06%(同68.01%)、90年の40代は81.44%(同73.31%)、2000年の50代は71.98%(同62.49%)、09年の60代は84.15%(同69.29%)。1人の生涯を追っていくと年齢を重ねるごとに全体の得票率からプラスに転じていくのがわかります。

むしろ30代・40代の低さが気がかり

 考えてみれば当然。社会に出て組合活動で締め上げられたり、育休、税金、社会保険料、年金といった政治と密着する指標へ年を取るごとに敏感にならざるを得ないから。

 ちなみに今(2021年総選挙)時点で60代であった者の20代は79年の57.83%(全体68.01%)で50代は90年の57.76%(同73.31%)が該当。中高年の若き日は投票率最低でした。

 むしろ気がかりなのは20代に限らず全ての世代で減少傾向がみられる点です。「無敵の60代」ですら観測されるし、96年からは30代が、2014年には40代も全体平均を下回っています。やみくもに「今の若者は……」と嘆く前に、こうしたトレンドをどう捉えるかの方が大切なのかもしれません。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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