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参院選の争点に浮上か。政府推進の副業を失うか10%納付かを迫りかねない消費税「インボイス」とは

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
悩ましい選択を迫られるかも(写真:イメージマート)

 2016年の税制改正で消費税が8%から10%に引き上げられました(実施は19年10月)。この時に一部を8%に据え置く軽減税率が導入されたのにともない複数税率に対応した仕入税額控除の方法として適格請求書等保存方式(いわゆる「インボイス」)の導入が決定。23年10月から実施予定です。

 この件に関してインボイスが導入されたら個人事業主の死活問題となるとか政府が推進している副業促進と矛盾するといった声が一部で挙がっていて来る参議院議員選挙の焦点に浮上するという見方も。ややこしい制度なので解きほぐしてみました。

年1000万円を超える企業は経理上の面倒が増える「だけ」

 消費税は消費者の感覚だと「価格に10%乗せて支払う」です。売った側はその10%を預かり、国の定めによる回数で納めるのです。

 ただし売る側が常に「売るだけ」ではありません。エンドユーザー(最終消費者)に売った店は商品を問屋から買っています(=仕入れ)。問屋はメーカーなどから、メーカーは材料などをやはり買う。このように流通の段階で商品の買い手と売り手が異なるのが普通なのです。そこを一律に「10%払え」としたら二重課税が発生します。

 防止のために確定申告で「仕入税額控除」を決定します。先の例から材料(100円と仮定)の提供者はメーカーへ100円+10円(消費税)で売り10円を納付。メーカーは仕入れ110円にもうけ10円を乗せて(計120円)消費税10%の12円を加えた132円で問屋へ売ったとしましょう。ここでメーカーから12円を徴収してしまうと既に材料提供者が払っている10円が二重取りとなるため12円-10円=2円が納付額。この引き算が「控除」というわけです。

 現在、年間1000万円を超す課税売上高(消費税が課税される売上高。以下同趣旨)を計上する会社や個人は課税事業者、つまり消費税を納める義務があります。23年10月からは税務署に「課税事業者である」と登録して「適格請求書発行事業者」となるしかありません。

 この「適格ナントカ」になると登録番号が交付され、以後請求書などにそれを記載しなければいけなくなります。さらに税率、消費税額の記載が細かくなるのです。

 既に1000万円を超す課税売上高を明らかに超える会社などに選択の余地はありません。期限の来年3月までに「適格請求書発行事業者」となって登録番号をもらい、10月以後は請求書の記載事項が増える「だけ」です。経理上の面倒が増えるとはいえ他の金銭的負担が増すというのではありません。

気にしなくていい働き方とは

 本来は軽減税率導入にともなって「8%か10%かをハッキリさせる」のがインボイス導入の目的なのに結果として「課税事業者だけがインボイスを発行できる」となります。そこで問題となるのが年1000万円以下の個人事業主、フリーランスおよび副業の方々です。免税の対象だから「免税事業者」を選択すればいい……と気楽に構えていると落とし穴が。結論を先にいうと下記2点の不安が生じかねません。

1)仕事の発注先から切られる

2)切られたくないため「課税事業者」を選択し、消費税を納める義務が発生する

 驚かすのが本稿の本意でないので、まずは「心配ない」ケースを列挙します

1)給与として報酬を得ている

 非正規(パート・アルバイト・派遣など)雇用であっても雇用契約でさえあれば報酬は給与。給与に消費税はかからないので何も心配ない。

2)仕入れがほぼなく、エンドユーザーへの物販やサービスを行っている

 ハンドメイドの品や自慢のクッキーを売ったり、英会話やピアノを個人に教えているなど。最終消費者は消費税の納税義務がない。ゆえにインボイスもいりません。

3)発注先が「免税事業者」である

仕事の発注先から切られる恐れがある理由

 では「仕事の発注先から切られる」不安から説明します。

 発注先が課税事業者で、かつ簡易課税制度(後述)を選択しておらず自身は雇用されていない場合(業務委託契約や請負契約など)「免税事業者」だとインボイスを発注先に発行できません。発注先からいうと先の「12円-10円=2円」の「-10円」ができないのと同じで12円を納める勘定となります。言い換えると免税事業者分の消費税をかぶる。それは嫌だから切ろうという動機付けになりかねないのです。

 といって発注先が免税事業者に「……というわけで、あなたは免税事業者だから23年10月以降はこれまでの支払い額から10%引きます」と言い渡せそうもありません。優越的地位の濫用とみなされ公正取引委員会などからにらまれる危険があるからです。

 一見すると公取委は受注側の守り神のようですが、発注側が後難を恐れて契約期間の満了という正当な理由で更新しないとの選択をする気になる規定でもあって痛しかゆし。

 ゆえに1000万円以下でも課税事業者を選んで登録番号をもらい、その旨を発注先に伝えれば(幸か不幸か発注先から遅かれ早かれ尋ねてくる)問題ないのですが、消費税を納付する義務が生じてしまいます。免税事業者のまま契約更新を得る方法は他にもあり、後述しますが、いずれもなかなかに面倒な過程を経る羽目に。

結構でかい副業やフリーの納税額

 切られるのを防ぐべく課税事業者となれば消費税の納付義務が生じます。副業やフリーの場合、多くが流通の最終段階に位置するため、ほぼ10%丸々の納付を覚悟しなければならないでしょう。結構でかいですよ。

 細々とした、それでいてそれなりに期待している副業をイメージします。月10万円(税込み)としましょう。年間120万円。10%は12万円ですから1ヶ月分以上を失うわけです。完全フリーランスで生計を立てている方は、得ている額が当然大きく跳ね上がるので納税額も大きくなります。「やっていけない!」と悲鳴が上がりそう。

 いやいや免税事業者という制度自体が「消費税分丸もうけ」しているので納めて当然という批判(給与だけで暮らしている会社員などから)は一理あります。ただ免税事業者の事業活動の仕入れ(経費算入できたとしても)にまったく消費税がかからないケースは皆無に等しいはずです。

 軽減税率およびインボイスの先輩で税率も日本よりおおむね高い欧州主要国で免税事業者はほぼいません。日本の明日を予言しています。

簡易課税制度と経過措置

 では当面、免税事業者であり続けつつ仕事も継続したい場合はどうしたらいいでしょうか。

 最も確実なのは発注先から唯一無二の仕事師と認められている、です。さほどのスキルの持ち主が年1000万円以下であり得ようかという疑問も副業の場合、本職で得た能力が該当する可能性あり。

 次に発注先が簡易課税制度を選択しているかどうか。同制度は課税売上高5000万円以下の企業が対象なので相手が大企業であったら諦めるしかありません。簡単に述べると実際にどれだけの消費税がかかっているか(「払う」も「得る」も)、ではなく一律の「みなし仕入率」(業種によって異なる)で納税する制度です。みなしで税率が決まっているので理論上インボイスも不要なはず。

 あるいは29年9月末まで認められている経過措置で一定程度救済してもらう。同年月までは仕入税額控除がインボイスがなくても8割可能。先の例だと「12円-10円」は無理でも「12円-8円」ができる計算です。

 ただどちらの手段を用いるにせよ、発注側から「事業者区分を『課税事業者』『免税事業者』のどちらにするか」と問われ、免税を選択した上でカクカクシカジカと相談したり質問する必要が出てくるのは避けられません。

たった今の段階でお勧めなのは

 インボイスは法令化されているので延期または廃止のためには法改正が原則必要。つまり国会のみが変えられるのです。「ぜひそうしてほしい」という方は有権者として各党の公約を確認し1票を投じる必要がありそうです。

 免税事業者を維持したい者の当面の対応としては発注側の問い合わせで「課税事業者」を選択した上で「適格請求書発行事業者登録番号」を「取得予定である」として予定日を「23年3月頃」(期限年月)と記入して返答するのがお勧めです。

 というのもインボイスの問題点や具体的な負荷への理解が現段階で知れ渡っておらず、言い換えるといよいよ締め切りの来年3月頃には「大変だ!」との声が広まる可能性があるからです。消費税そのものの8%から10%への引き上げも一度延期されました。同じようになる可能性が残っています。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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