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潰えた「川淵後継」は公益法人改革の趣旨を無視した森組織委会長のデタラメな行動である

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
公益財団であるのもお忘れなく(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 東京五輪・パラリンピック組織委員会(以下「組織委」)の森喜朗会長が12日、評議員および理事・監事らによる臨時合同懇談会で辞意を表明しました。前日まで後任候補として有力視されていた川淵三郎氏は辞退。辞めていく会長自身が後継を推薦する形への批判が人事を白紙に戻させた格好です。

 確かにおかしいのですが、それ以前に2006年に始まった公益法人改革の趣旨を踏まえていないという方が余程変ではないでしょうか。あまり指摘されていないので以下ご紹介します。

評議員は理事の選任・解任権を持つ

 公益法人改革はそれまでの「財団法人」「社団法人」が所管省庁の強力な庇護と裁量権のもとで天下りの温床となっていたり、補助金や公共事業の受注契約など不透明な公金が流れ、「何をやっているのかわからない法人」も多々あったのを見直し、現行制度に改めたものです。2006年に関連法が国会で可決・成立しました。

 組織委は公益財団法人です。新制度では箸の上げ下げまで所管省庁が指導していたのを登記すれば認められるように変わり、癒着の余地を断ち切った引き換えに法人自身がガバナンスを担う責任を法的に明確としました。その切り札が評議員および評議員会の強化だったのです。

 改革以前の評議員・評議員会は理事会の相談機関に過ぎず、議員も理事会で選ぶのが通常でした。改革後は一転して理事会の上に位置づけられ運営が財団の目的通りに運んでいるかどうかについて広範な権限を有するようになったのです。具体的には理事などを選んだり辞めさせたり、会計が正しく行われているかなどを監督します。当然、理事とは兼務できません。

辞めさせる側が辞める側に後継指名される本末転倒

 ここで問題なのは川淵氏が組織委の評議員会議長である点。組織委の定款も法に準じて 理事の選任及び解任を決議する(16条)権能を持つと書かれています。森氏は理事会会長ですから川淵氏への後継依頼は自らを辞めさせる権限を有する評議員のトップに「後は頼む」と懇請したも同然。それ自体がガバナンスを大きく損なう行為です。

 もしそのまま手続きを進めたならばもはや組織委は公益財団の呈をなしていないと地位を剥奪されてもおかしくありませんでした。

 前述のように川淵氏は理事ですらないのですから、会長に就くために見張り役たる評議員会のトップを辞め、評議員も退き、見張られる側の理事に就任して会長へ選ばれるという手続きが(ザックリですが)必要であったはずです。そうした人事が選任されている側の森氏の意向で進み、選任する側がそれに従うなど本来あってはならない。ありていにいえばメチャクチャ。

 仮に組織委がこうした人事を許す組織だとしたら評議員会と理事会が癒着しているか、立場が下のはずの理事会が上の評議員会をお飾りにしているか、その両方かというデタラメな統治がなされているとしか考えにくいのです。

制度を知らなかったのか。知っていて通そうとしたのか

 結果的に川淵氏の会長就任は白紙となりましたが、一時は既定事実のように報じられた自体が信じがたい話でした。

 森氏や川淵氏はそうした法的枠組みを知らなかったのでしょうか。だとしたら問題発言以前に適格性が疑われます。知っていて歩調を合わせたとしたらなおさら改革の主旨をないがしろにして構わない、ないしは「何とかなる」と高をくくっていた人物となり、さらに深刻となります。

 そうでなくても組織委はさまざまな利権を調整する役割を背負っているのですから、この際、組織のあり方を抜本的に見直して再出発すべきです。新会長の選任がどうなされるのか国民は監視しなければなりません。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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