読売新聞のスクープをきっかけに再燃した「桜を見る会」疑惑。いったい何だったのでしょうか。発端が少々古いので疑惑化した当初の動きなどを確認しておきます。ここでは特に現首相の官房長官時代の発言が分析の中心です。真ん真ん中の特捜捜査に関わる内容(見通しなど)は稿を改めます。

安倍氏本人の法律違反?の問題

 「桜を見る会」疑惑最大のポイントは安倍晋三首相(当時)本人ないしは事務所・後援会が公職選挙法(公選法)や政治資金規正法に違反しているのではないかという点です。

 「桜を見る会」において菅義偉官房長官(当時。現首相)は首相の推薦枠が1千人程度設けられていると認めました(19年11月20日衆議院内閣委員会)。また安倍晋三後援会主催の「前夜祭」の会費1人5000円が安すぎ、差額を穴埋めしていたのではないかとの疑いも。これらは公選法が禁じる買収や特定の寄附にあたる可能性があると野党が追及したのです。

 また前夜祭の会費やツアーについて首相関連の政治団体の収支報告書へ記載がないことや、前記の穴埋めがホテル負担だとしたら違法献金に相当し、いずれも政治資金規正法違反になり得るとも。

 この点についての掘り下げは弁護士など法律の専門家がネット上でもさかんになされているのでそちらへ譲ります。ここではもっと一般的な感覚を追ってみたいです。

 同年10月、初鹿明博衆議院議員(立憲民主党)の質問主意書に対する内閣の「桜を見る会」の答弁書には「内閣総理大臣が各界において功績、功労のあった方々を招き、日頃の御苦労を慰労するとともに、親しく懇談する内閣の公的行事として開催している」と書かれています。それが首相の後援会関係者を800人以上招く時点で、どんな功績、功労があったのか疑問です。そこで酒や料理、和菓子などを無料で振る舞っていました。ここは桜疑惑を沸騰させたきっかけである11月8日の参議院予算委員会における日本共産党・田村智子議員の質問の核心でもあります。

 前夜祭の5000円も超一流のホテルニューオータニ東京の「鶴の間」(ホテルのサイトによると「国際都市TOKYOを代表する、第一級のグランドバンケットルーム」)での開催となればいくら何でも安すぎる。ちょっとした店で同窓会を開いても飛んでいく額ですからね。ここに首相のおごり・緩みをかぎ取るのは思想の違いを超えて共有されています。普段は政権に肯定的な読売新聞や産経新聞もこの時は批判的な論調を掲げたのです。

 今回の「再燃」の戦端を切ったのが「政権寄り」とみられがちな読売であったのをいぶかしむ声もありますが、少なくともこの問題に限ってはそもそも同紙も擁護の陣を張っていません。

資料廃棄と高性能シュレッダー

 前述のように「各界において功績、功労のあった方々を招」くのが会の趣旨。騒動の発端は「どうやらそうともいえない者が多数招待されているらしい」でした。ゆえに「誰が招待されていたのか」が焦点になるも内閣府などは当初から「終了後に遅滞なく廃棄した」と存在を否定してきました。理由は「保存期間1年未満の文書」(内閣府)だから。国会で菅官房長官は「個人情報を含んだ膨大な文書を適切に管理する必要が生じるため」と答弁しています。

 「桜を見る会」の淵源は戦前、天皇陛下が主催した「観桜会」です。先の大戦にともなって取りやめとなった後、1952年に吉田茂首相が総理大臣主催の会として復活させ今に至ります。天皇皇后両陛下主催の宴は戦後、園遊会として行われているのです。どちらも各界の著名人や功績のあった方をも招く趣旨なのに園遊会の名簿は30年保存。こちらも約2000人が招かれるので「個人情報を含んだ膨大な文書」のはずです。

 11月15日付け「毎日新聞」朝刊によると廃棄は5月9日(会は4月13日)。同日は日本共産党の宮本徹衆議院議員が国会質問に向け、内閣府などに「桜を見る会」に関する資料要求をしていました。電子データも9日前後に処分したというのです。

 紙の資料は量が多かったので内閣府に1台ある大型シュレッダーの空きを待って偶然?9日に処分した(内閣府)とのこと。そこで野党の追及本部が内閣府を訪れくだんの「シュレッダーを見る会」を実施し、名簿を想定した約800枚の書類を処理したら約30秒で食べてしまいました。こんなすごいマシンが順番待ちになるほど内閣府は日々激しく書類を消し去っているのでしょうか。

「バックアップは行政文書ではない」と菅氏の珍発言

 菅官房長官は12月4日の記者会見でデータ削除後も内閣府のサーバーにバックアップが残っていた可能性を認めた上で「バックアップは行政文書ではない」と珍発言。さらに安倍首相は内閣府のシステムはシンクライアントなので保存期間後の復元は不可能といきなりITな言葉で理解を求めました。

 何をどう考えてもへんてこな話です。第2次安倍政権になって会の参加者は右肩上がり。良い悪いは別にして、これ自体はわかる話です。政権が変わらないのに「今年は呼んだが来年はいらない」なんてしにくいですから。言い換えると、ゆえに名簿を1年以内に廃棄するはずがありません。年賀状を出すのと同じで、毎年はがきをシュレッダーした上に電子データ(住所録)まで削除してどうするのですか。たぶん日本に1人もいないと思います。

 仮にそうなったとしても必死でバックアップを探すでしょう。なぜならばバックアップ(本物と同一かほぼ同一)だから。バカみたいな文章で恐縮ですけど政府の言い分がそうなのだから付き合うしかありません。電子データは行政文書なので当然コピーも同等の価値があります。

 それに役人が所管の名簿やデータを完全消滅させるはずがないのです。何でもかんでも残しておく、特に自身へ責任が及びそうな場合は特に……というのが役人の本能。かならずどこかにあるでしょう。

 シンクライアント云々は筆者がくわしくないので何も申せません。たぶんこうした効果を狙っているのでしょう。

反社会的勢力の問題と現首相の「物忘れ」

 参議院内閣委員会でネット上にアップされた反社会的勢力のメンバーが菅官房長官と一緒に写真に収まっている点を追及されて菅氏は「結果的に入られたんだろうと思う」となかば認めつつ反社の「定義が一義的に定まっているわけではない」とも語りました。

 なるほどそうですね。よく引き合いに出される2007年の「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」は「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」としていますが、粗暴な人や経済犯罪に手を染めるような人がみな当てはまるとは限りません。

 しかし、この指針を取りまとめた第1次安倍内閣の犯罪対策閣僚会議における一員たる総務大臣は菅さんご自身です。自ら策定に加わった指針を「定まっているわけではない」などと弁明されても困ってしまいます。

 内閣府の役人はこの件でも「個人情報なので回答を控える」と答弁。反社が「結果的」であれ何であれ首相が主催する公費で賄う宴に入り込んでいたら大問題で、そうした人の個人情報まで守らなければならない理由も見当がつきません。

 保守系誌ながら権力批判も容赦ない『週刊新潮』12月12日号の関連記事のリードで「いつまでも国会で取り上げるような話題でないことは明らかだが、それがネタの宝庫であるのは間違いない」と得意の斜め切りで紹介しています。言い当て妙。さまざまな疑惑や閣僚辞任を乗り切って憲政史上最長任期を更新した「平成の大宰相」も、令和とともに凋落するのか、はたまた乗り切るのか。

 19年の「桜を見る会」で安倍氏が詠んだ一句がなかなか意味深長です。

 平成を 名残惜しむか 八重桜

 辞世の句にならなければいいのですけど。もちろん物理的なそれではなく「政治生命」の方です。