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毎年開くのになぜ「臨時」国会か

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
「通年国会」が持論だった田中角栄元首相(写真:Fujifotos/アフロ)

 24日から臨時国会が始まりました。ある人から受けた素朴な疑問がタイトルです。

 そっけなく答えれば「憲法の定め通り」。52条で「常会」(通常国会)を「毎年一回」召集しなければならないとした上で53条に「臨時会」(臨時国会)の召集条件を定めているのです。とはいえ「臨時」という言葉から「定期的でない」「一時的」というニュアンスを汲むのも当然で、だとしたら後述のように臨時国会はほぼ毎年開かれているし(定期的)、163日も開催された例もあるので「一時的」と言いがたいのは事実です。

臨時国会がなかった年は5回だけ

 通常国会は1992年から1月に召集されています。臨時国会は内閣または両院いずれかの総議員の4分の1の要求で開かれるのです。開催中の国会は内閣が召集しました。

 現憲法下初の通常国会(1947年12月~48年7月)以降、臨時国会が開かれなかった年は5回しかありません。そうした意味で「毎年やっている臨時国会」はほぼ正しいのです。

 開かれなかった年のうち4回は衆議院の解散・総選挙後に開かれる特別国会が通常ないしは臨時国会を代替したケースです。特別国会は憲法ではなく国会法に定めがあります。結果に関わりなく総選挙後に内閣はいったん総辞職しなければならないため特別国会の主な役割は首相指名選挙ですが、別にそれだけと決まっているわけではありません。

たいていは特別国会が代替。唯一の例外は……

 1952年の吉田茂内閣時、73年の田中角栄内閣時、84年の中曽根康弘内閣時、2005年の小泉純一郎内閣時が当てはまります。うち73年の280日は特別国会最長記録、84年は前年12月末からは8月までで史上2位。2005年は有名な郵政解散・総選挙の後で郵政民営化法案が可決成立しました。

 2015年は珍しいパターンです。安倍晋三首相下で野党が臨時国会召集に必要な「4分の1」以上をそろえて開催を要求したにもかかわらず応じなかったのです。憲法は「4分の1」以上で「召集を決定しなければならない」とするも義務までは明記していないので、このような選択肢があり得ました。

 つまり特別国会で代替せず、かつ内閣も「4分の1」も召集したいと思わなかった年はないとわかります。やはりふつうは開く臨時国会なのですね。

審議の充実より日程ありきの弊害

 通常国会・臨時国会・特別国会と3種類にわけ、それぞれ日程を定める「会期制」は主要国のほとんどが採用していません。非効率だという考えに基づきます。

 通常国会の会期は150日、臨時国会と特別国会は1日で終えても構いません。延長の回数は国会法に定めがあり、通常国会は1回、臨時国会と特別国会は2回です。決めるのは内閣で、端的にいえば首相の判断となります。

 会期制を非効率とする最大の理由は、会期中に提出された法案は、

1)衆議院、参議院ともに可決される

2)衆参両院の可否が別となって両院協議会で妥協案が成立する

3)衆議院可決、参議院否決ないしは60日以内に議決しない場合に衆議院で3分の2の賛成を得て再可決する

のどれかに当てはまらない限り、基本的にすべて廃案となってしまうからです。

 したがって重要法案を何としても阻止したい野党が数の上で劣勢であれば、何とか会期中に両院の採決まで持っていかせず廃案を狙います。首相は自らの内閣が提出した法案で何としても成立させたければ会期そのものを延長して「時間切れ」廃案を防ぐのが一般的です。

 今国会も野党が内閣が提出予定の外国人労働者の受け入れを広げる出入国管理法改正案を「拙速だ」と批判しています。「急いではいけない」というのは要するに今国会会期内で廃案に持ち込もうというのでしょう。対する与党も早くも会期延長をにおわせ対抗する構えです。どちらも思惑こそ正反対ながら日程とにらめっこ。

6月の災害の補正予算が10月に

 スピード感を欠くとの批判も絶えません。今国会に提出される補正予算案は西日本豪雨や台風21号、北海道地震の復旧・復興への手当です。補正予算とは今年4月1日以降に執行されている当初予算ではまかない切れない事態への対応で天変地異を予想するのは無理だから必要でしょう。

 しかし西日本豪雨は6月末から7月にかけて、北海道地震は9月6日、台風21号が日本列島に襲来したのは9月上旬でした。いずれも通常国会が閉幕した7月22日後の出来事で、内閣は予想外の支出に備えた予備費で対応したものの、予備費は本来、予算措置しなくてもいいぐらいの支出が対象です。補正予算を決めるには国会を開くしかありません。結果的にずいぶん遅くなってしまいました。

 こうした弊害を撤廃すべく「通年国会」をめざしたのが田中角栄首相でした。先に述べた史上1位の280日にはそうした思いも込められていたのです。

今一度角栄氏の「通年国会」議論を

 廃案にせず持ち越せる方法として「継続審議」があるにはあります。両院の過半数が賛成すれば次の国会に引き継げます。しかしその法案が両院いずれかで可決されていても持ち越したら改めてやり直さなければなりません。

 会期がない唯一の例外が参議院の緊急集会。衆議院が解散され、総選挙で新しい議員が決まり、国会が開けるようになる間、緊急の要件がある場合に内閣が求めれば開かれます。過去に2回行われました。ただ文字通りの「緊急」措置で直後の国会での同意が必要なのです。

 国会議員最大の仕事は読んで字のごとく「国会」での審議でしょう。であれば田中元首相が唱えた「通年国会」を自ら「やろう」と言い出してもよさそうなものです。無意味な日程闘争もなくなるし。何も土日も働けとはいいません。会社員と同じようにしたらいかがでしょうか。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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