Yahoo!ニュース

「なぜキツツキに頭痛がないのか」などイグ・ノーベル賞に今年も日本人

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
受賞した堀内朗さん(写真:ロイター/アフロ)

 2018年9月、ノーベル賞のパロディとして広く知られるイグ・ノーベル賞「医学教育賞」を長野県の医師、堀内朗さんが受賞しました。日本人の受賞者は12年連続。実は隠れた偉業なのです。

 堀内さんの受賞理由は「座って行う大腸内視鏡検査」を自分で試した業績に対してです。大腸は内視鏡検査でポリープを切除でき、がんの発症を大幅に減らせるとわかっていますが、その準備と検査時の不快感から敬遠する者も多いとされています。

 痛みの方は鎮静剤の改良で以前よりずっと軽くなりました。ただ大病院でとなると、2~3日の絶食や受診前の大量の水分補給など準備が結構大変。その上、伏して肛門から入れるのに違和感を抱かない人は少ない。そこで座ったままできないかを自らを実験台に試し続けて成功に至ったというわけです。

 もっとも座位での検査はせっかく可能となったのに検診者からは横になって挿入する従来の方法よりも恥ずかしいと評判がよくないというオチまでついています。

まねができないし、すべきでもない

 このイグ・ノーベル賞(不名誉なノーベル賞)。位置づけは映画のアカデミー賞に対するゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)と似ているとはいえ、ラジー賞が文字通り「ひどい」「最低」作品にほぼ授与されるのに対し、「笑わせた」上で「でも、考えさせられる」という要素が含まれた自然科学の研究が主な対象です。「まねができないし、すべきでもない」などと自虐しているわりに、本質部分が十分に意味を持つ研究が圧倒的。堀内さんの場合も、自分を調べているビデオ画像は抱腹絶倒ないしは不気味そのものでも「少しでも内視鏡検査を身近にして大腸がんをなくしたい」という真剣な思いが隠されています。

 タイトルに紹介した「なぜキツツキに頭痛がないのか」は2006年鳥類学賞です。頭蓋骨の形や脳の収まり方が人間とは異なるそう。こうした研究にも病の大切な予兆である頭痛のメカニズム解明や、コンタクトプレーの多いスポーツにおける頭部の損傷への応用などさまざまな可能性を秘めています。

女子高生の研究が受賞したケースも

 近年では米英の大学教授や医師が真剣に取り組んでいる「5秒ルール」も「それが問題だ」と叫んだのは何と当時、日本でいう高校3年生の女性。「5秒ルール」とは未だアメリカ人の半数が信じているとされる「床に落ちた食べ物でも5秒以下ならば安全」という説です。長らくアメリカでの一種の都市伝説として語られ、つまりまともな科学者が対象とするような話ではないと見過ごされていました。

 そこにアメリカの女子高生が科学の光を当てたのです。ルールの起源はモンゴル帝国の始祖であるチンギス・ハーンで羊肉を落としてからどれくらいまで食べられるかを検討した……とのっけから「おいおい」という内容。さまざまな床にサンプルを落としては顕微鏡で観察した結果、乾いた床は結構安全であるも細菌がいたら汚染するという至極真っ当な結果でした。2004年に「床に落とした食品を拾って食べるべきか否かの分岐点について」という理由で「公衆衛生賞」を受けました。

 このあたりを出発点に今では食品科学、生命や健康科学、小児科といった分野の専門家が重要なテーマとして調べを進めています。

クエール米副大統領とシラク仏大統領の場合

 このようにただの笑い話でなく深遠な何かをも考えさせられる賞でもある一方で政治家の振るまいなどは時にユーモアで包みながらも辛らつです。

 1991年、栄えある第1回の受賞者の1人がクエール米副大統領。副大統領は何らかの理由で現職大統領が欠けた時に残り任期を大統領に昇格して務めるという大変な任を帯びています。ところがクエール氏は数々の迷言、珍行動を繰り返してアメリカ人に笑われながらも大いなる恐怖をも与え続けた稀にみる人物として未だに知られているのです。

 なかでも有名なのが小学校訪問時の衝撃の事件。12歳の少年が黒板に「potato」(じゃがいも)とつづったのを自ら末尾に「e」を添えて「potatoe」としてしまいました。全米震撼!「科学教育の必要性を誰よりもよく論証した」功績として「教育賞」が授与されたのです。

 1996年の「平和賞」はジャック・シラク仏大統領。前年に強行した核実験が広島原爆投下50周年を記念した功により受賞しました。無粋を承知で付け加えるならばシラク大統領はむろんヒロシマを意識したわけではないでしょう。

 おそらく大学教授らからなる選考委員はトランプ米大統領に何らかの賞を与えたくてウズウズしているはずです。しかし単純にからかうだけでは面白くないのがトランプ氏のキャラクター。彼がグーの音も出せず、世界が喝采するような受賞理由は何でしょうか。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

坂東太郎の最近の記事