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給料カット?有休強制?仕事増加?普及すると困るかもしれない「プレミアムフライデー」

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
これがプレミアムフライデーのロゴです(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 本当は年度末の3月30日(31日は土曜)に街の様子でも取材してから執筆してアップへこぎ着けようと思っていましたが無理無理無理!零細企業経営者でもある筆者は年度末までにやらなければならない事務作業が繁雑で仕事であるはずの取材・執筆すら手が回りませんでした。ましてや早帰りできた人はどれだけいたのでしょうか。

 というわけで少々タイミングが遅れた記事ですが、よろしければご笑覧下さい。

年度末に「プレミアムお花見フライデー」

 2017年2月24日から始まった月末金曜日に仕事を3時に切り上げて消費を盛り上げようとする「プレミアムフライデー」の2回目である3月31日も年度末でした。決算に必要なデータを精査しておかないとうっかりミスで黒字なのに赤字転落してしまって融資を打ち切られて最悪倒産です。人事の時期でもあって異動する者と後任との引き継ぎ最終機会でもあります。

 なお後述するようにこの日の推奨テーマは「プレミアムお花見フライデー」。気楽というか言われなくても見に行くというか。

 そうでなくても月末の金曜日は普段より忙しいのが会社員の常識です。上場企業は多くが取り入れている四半期決算の末営業日と重なる可能性が高い。職種別で比較しても経理が月次決算や支払い、営業が月末までのノルマ追い込み、工場にも納期が、中小零細企業主は資金繰りが待ち受けるわけで。

公務員と大企業の感覚

 引っかかるのは旗振り役の経済産業省や大企業クラブの経団連の「常識」が先行して中小企業の感覚を理解しているか疑わしい点です。

 「プレミアムフライデー」は端的にいえば「給料が入ったばかりのところでパーッと使おう」との思惑を感じます。確かに公務員や大企業正社員の多くは15日から25日の間に給料日が来るのでドンピシャなのだけど中小企業には月末や月初めが給料日というケースも珍しくなく月末金曜日はカネが一番ない時期にもなり得ます。

休んだら給料が減らされる?

 最もわからないのは「午後3時退社」を法的にどう扱うのかです。具体的には給与の扱い。構想こそぶち上げたものの法律を制定・改正したわけでも行政指導でもないから現在の労働基準法などをどう解釈するかが問題となりそう。

 例えばポピュラーな「就業規則で始業及び終業の時刻を9時-6時と定めた」場合はどうでしょうか。国が推奨しているからと午後3時に帰ったら就業規則違反で3時間の給与をカットされても文句が言えません。下手すれば懲戒です。

 反対に国の政策へ賛同して経営者が「3時に帰りなさい」と指示したら労働基準法(労基法)26条の「使用者の責に帰すべき事由」が適用されるのでカットには至りませんが休業手当まで支払わなければなりません。そんな太っ腹な経営者が日本中に満ちていれば「賃金が上がらない」という昨今の現象も起きないはずで非現実的です。

 では年次有給休暇の取得とみなしたらどうでしょうか。まず時間単位の有休制度を導入する就業規則の変更が必要です。多くの企業で有休は1日単位か半日単位のはず。もしかして経産省のような公務員集団はその点に気付かなかったのではないかと邪推したくもなります。

 というのも国家公務員や地方公務員は1時間単位の有休が取れる制度が昔から存在するから。筆者も市政や県政の記者クラブに所属していた際にクラブ担当の公務員が「今から職免です」といって休み時間に入るのを聞いて驚いた記憶があります。「職免ってクビ?」と先輩に質問したら皆かつて同じ疑問を抱いたようで「職務に専念する義務の免除の略だ」と教えてくれました。もし役人が「それが世間一般」と思っていたら大間違いです。

 仮に規則変更ができても有休とみなすならば原則として社員の希望(3時で帰りたい)でなくてはなりません。有休は元来、労働者の権利で使用者が時間を指定して強制するたぐいではないはずです。

 こうした問題が顕在化していないのは導入率が1割程度と超低空飛行のお陰?でしょう。あるいはこうした課題が解決していないので広がらないのかもしれません。

成功するほど休めなくなる職種も

 会社や学校が終わった後でサービスを施す業態だと「3時に退社」などハナから意味がないという別の問題も。普及の主体である推進協議会に名を連ねているのは経産省と経済団体(経団連と日本商工会議所)を除くと百貨店やスーパーなど小売業団体が占めています。消費喚起が目的なので当然ですけど「プレミアムフライデー」が成功したら最も休めなくなる雇用者を抱えている業種になってしまうのです。「成功するほど3時以降が忙しくなる」という矛盾をいかんせん。

 推進協議会事務局は「プレミアムフライデーの認知度・理解度は9割」と自画自賛しています。でもその「認知」ってはやらせようとして全然ダメだった系の死語として珍重されているだけでは。近年では「イクメン」昔なら「E電」の系譜。ふつう「いいとも」「おにゅー」「つっぱり」「なーんちゃって」「フィーバー」のようにいったん流行して今は使われないのが死語の主流ですからね。

寒いか熱いか「推奨テーマ」

 昨年9月、榊原定征経団連会長が記者会見で「企業にとって月末は忙しい時期だ」と驚くほどわかりきった話から切り出して「月初め」への移動を提案したものの結局月末金曜日は維持されると決まりました。

 協議会は後押しのため10月から推奨テーマも設定。10月は「プレミアムハロウィン」。11月「プレミアム“カラダ”フライデー」(何でも皇居外苑を走るイベントがあったらしい)12月「プレミアム年忘れフライデー」。今年1月が「プレミアムはじめるフライデー」、2月「プレミアムフライデー一周年」、3月が前述の「プレミアムお花見フライデー」。結構お腹一杯。1979年にはやった「日本全国酒飲み音頭」を彷彿とさせます。なお今月は「プレミアム ゴールデンウイーク」ですよ!

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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