Yahoo!ニュース

「野望の党」小池百合子氏の5つのポイント

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
次の一手は?(写真:アフロ)

 タイトルは誤記ではありません。どうも「希望の党」というより小池氏個人の野望をかなえるための政党のような気がしてならないので造語を示してみました。

 小池氏の師匠は細川護煕、小沢一郎、小泉純一郎の3氏という指摘がよくなされます。そこでどこが似ているのかを中心にまとめてみました。

1)「しがらみがない」

 小池オリジナル。今回も、都知事選の時も使っているキャッチフレーズです。2008年の自民党総裁選でも用いていました。

 なるほど彼女の人生に政治家の多くが抱え込む「しがらみ」が薄いのは確かです。世襲・二世ではもちろんなく、官僚など行政官の経験もなし。地方議員から叩き上げたわけでも国会議員の秘書経験者でもありません。誰かの地盤を譲ってもらったケースにもあてはまらず、有力団体に支援されてもいない。弁護士、公認会計士、医師といった業務独占資格も学者の経歴も持ちません。

 あえていえばマスコミ出身となるのでしょうが、彼女は一度たりとも組織の正規雇用者を経験していないのです。学閥といってもカイロ大学卒では票田を期待できるはずもなし。タレントやスポーツ界出身者と似ているようで違います。その多くは「客寄せパンダ」的効果を狙った党候補で何らかの組織を準備してくれるのに小池氏にはなし。一時期「チアリーダー」を自称した時期もあったけど今や自民党総裁選に出た(つまり推薦人も集めた)のでもわかるように首相の座を狙っているのは明らかで単なるタレント候補とは野心の程度が異なります。

 終戦からしばらくはともかく、こうしたまったくの徒手空拳で首相の座まで上り詰めたか、接近した人物はほとんどいません。田中角栄元首相となぞらえる向きもありますけれど角栄氏は立候補の時点で実業家として成功していたし公認した民主党(近年の民主党とは無関係)は保守第二党の勢力を誇っていて国会議員ゼロの日本新党からキャリアをスタートさせた小池氏とは相当違います。

 意外と似ているのは菅直人元首相。社会民主連合公認とはいえ衆議院議員3人程度の小所帯で弁理士の資格は得ていたものの生業と呼べるほどではありませんでした。一介の市民運動家から何はともあれ首相の座を射止めたのだからすごい。菅氏と小池氏は主義主張は全く違っていても這い上がってきた経緯が重なるから不思議です。

 徒手空拳を言い換えれば「しがらみがない」です。誰にも助けられなかったから(利用した人はいたけれど)何かに縛られもしないのです。

2)崖から飛び降りる

 小沢氏の口癖で小池氏もそうであると明言した上で折々に使用する言葉です。小沢氏は「風」頼みの選挙を戒めて、風が吹いていれば誰でも凧は揚がる。無い時には走れ。それでもダメなら崖から飛び降りろといった趣旨で用いていました。小池氏の参議院議員1回、衆議院議員8回、都知事1回のうち「崖」パターンは数多くあります。

 最初の参議院議員選挙は前記のように議員ゼロの日本新党からで、すぐさま鞍替えした1回目の総選挙も強行突破に近い形です。しかも選挙区の兵庫2区には土井たか子氏というスーパースターが君臨していました(当時は中選挙区制なので2人とも当選)。2000年総選挙では所属していた保守党が戦前の議席をほぼ半減させ1ケタ台に転落するなかでの勝利でした。そして「崖」の例えを出した05年総選挙(郵政選挙)では何の土地勘もない東京10区で郵政民営化法案に反対した自民前職の「刺客」第1号として舞い降りました。接戦になれば復活当選可能な比例区との重複立候補を断って背水の陣を敷いての勝利です。

 記憶に新しい東京都知事選もそうでした。「都知事選は後出しジャンケンが有利」と主要政党が告示日ギリギリまで候補者擁立を引き延ばしたのをみるや、まさかの「先出しジャンケン」でアッといわせて旋風を巻き起こします。

 元来、小沢氏の戒めは「それくらいの覚悟でやれ」という意図なのでしょうけど小池氏は勝利の方程式のように「崖」作戦を用います。たいていの政治家にとって最後の手段を自家薬籠中のものとしているのです。

3)仮想敵を作る

 政策による対立軸とはニュアンスが異なります。叩きつぶしたい相手を悪者に仕立て上げて自分や自陣営を有利に運ぶ政局的な手段とでもいいましょうか。小沢氏と小泉氏の十八番です。

 小沢氏はかつて、竹下登元首相が率いた派閥「経世会」のホープとして実力者の金丸信氏にかわいがられていました。竹下派は「金・竹・小」(コンチクショー)3人で自民党を牛耳っていたのですが、竹下氏の予想外に早い内閣総辞職と金丸氏の失脚で跡目争いが勃発します……とまあ政局以前の暴力団顔負けの権力闘争だったのを劣勢に立たされた小沢氏が「政治改革」を呼号して反対派に「守旧派」のレッテルを貼って対抗、最後には自民を飛び出して新生党を結成し、総選挙を経て細川非自民連立政権樹立の立役者となり自民党を野党へ転落させました。

 当時、小沢氏の改革姿勢に賛同する者も多かったなか、経世会とその源である田中角栄派の金権体質を批判していた評論家の立花隆氏は1993年6月24日に朝日新聞に寄せた一文で、

 政治改革という錦(にしき)の御旗(みはた)を振り回していれば、そういう恥ずべき過去をみんな忘れてくれるとでも思っているのだろうか。

 いま必要なのは、政治改革よりあなた方の人間性改革だろう。その第一歩は、日本の政治を破壊し腐敗させてきたのは自分たちであると正直に認め、懴悔(ざんげ)し、反省することである。

 自分たちの過去にけじめもつけずに、何が新生だ。ちゃんちゃらおかしい。

と喝破しています。

 小泉氏も当時ほとんどの国民が別段期待していなかった持論の郵政民営化法案が05年の国会で参議院が否決するや直ちに衆議院を解散しました。法案は衆議院を通過していたにも関わらず、です。これも実態は自民党内抗争に過ぎなかったのを大問題のように演出し「イエスかノーか」と迫って反対票を投じた自民党前職に「刺客」をぶつけます。この「小泉劇場」に国民は熱狂し自民党大勝へと結びつけました。

 小池氏の都知事選出馬も第2次安倍政権成立以後、冷遇されていた国政に見切りをつけて新規まき直しを図ったというのが本音に近いはずです。しかしそうした経緯はおくびにも出さず自民党東京都連を悪者に仕立てて候補者擁立過程を「ブラックボックス」と批判します。石原伸晃都連会長は「そんな箱はない」と反論するも(個人的には結構いいリアクションだと思ったのですが)旋風は止まるところを知らず小池勝利となりました。

 国会議員も自治体首長も、さまざまな政策課題をパッケージで示さなければならない立場とはいえ、そうなるとわかりにくくなるのも事実。白か黒かの二分法に持ち込んで自分を白だと言い張った上で「イエスかノーか」を迫っていくやり方が師匠と似ています。

 今回の「希望の党」創設も都政の行き詰まりを打開するというか霧消させるというか、そんな思惑があるような気もします。

4)ゼロから出発・逃げ場なし

 まさに細川氏の日本新党がそうでした。たった1人で創設し、巨大与党へ戦いを挑む潔さは政権の末路を知る今となっては印象が相当薄れていますが、当時は大いにもてはやされました。

 小池氏の都知事選出馬も少し工夫すれば「退路を断つ」必要などありませんでした。自民党の現職衆議院議員で大臣経験者の小池氏が手順を踏んでいけば自民の公認・推薦が十分に得られたはずだから。現に当初、都連へ推薦を求めていたし、党内にも「小池さんでいいのでは」という声がありました。自民党都議団が「相談がない」と憤っていたのも言い換えれば相談しておけばよかった。そうしないばかりか都連の悪口を言い放つものだから態度を硬化させて別の候補推薦に至ったのです。

 心から都連のありように怒っていたのかもしれません。でも「私はたった一人。この戦いざまを見てほしい」と会見で訴えた言葉が訴求したのを踏まえると、少なくともどこかの段階で組織の支援より「ゼロから」の方が勝てると見込んだのではないでしょうか。

5)表もあれば裏もある

 小沢氏が典型。自民党には三木武吉氏や金丸氏のように裏から操る寝業師の系統が見て取れます。小沢氏も十分そうした資質を備えていた一方で経世会のホープという表の顔も持っていて使い分けて長年政界のキーパーソンであり続けました。

 小泉氏も実は派閥政治家で領袖(ボス)の森喜朗氏が首相の間は派を預かって盟友の加藤紘一氏が倒閣に走った時には鎮圧する側に回っています。

 17年都議選で小池氏は地域政党「都民ファーストの会」を結成するも代表には就きませんでした。それでは不安と感じたのか、自民党離党とセットで代表となり一挙に勢いづいて圧勝したらさっさと辞任。かと思えば仲間に委ねていたはずの国政政党結成を「リセット」して「希望の党」代表の座へ就いたのです。自ら率いるのか陰で操るのか変幻自在なところが小沢氏と似ています。

 最近の報道などによると「希望の党」にも陰りが出てきていて「都民ファーストの会」内でも不満が噴出しているとか。小沢氏の特長は新党を作っただけではなく壊すところです。何度も何度も作っては壊す政治家は空前絶後。小池氏もそうなるのでしょうか。それとも反面教師として慎むのか。

……といくつか挙げてみて気づいたのは小池氏の特長は政局で政策がほとんど感じられないという点です。「政策がない」のではありません。主義主張はハッキリ言っています。ただそれを本気で実現する気があるのかどうかが見通せないのです。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

坂東太郎の最近の記事