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東大・早稲田・慶応のホンネは「地方出身生よ来たれ!」

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
法学部B方式に地域枠を設定した慶應義塾大学(写真:アフロ)

真っ盛りのAO入試早慶戦

 知る人ぞ知る。8月・9月は「AO入試の早慶戦」です。

 すでに慶應義塾大学総合政策学部・環境情報学部(通称SFC)のAO入試と早稲田大学政経学部のグローバル入試(AO方式)の出願が3日に締め切られました。次いで25日、慶應義塾大学法学部FIT入試(AO方式)が出願締め切り。以前は9月だった早稲田が近年8月へ前倒ししてきたのは「客層」が重なる慶應義塾大学法学部との一騎打ちを狙った結果でしょう。一次選考を終えて9月に会場試験(面接など)が行われ合否が決定してしまいます。

 出願といっても慶應義塾の場合は願書を出せばいいといった簡単な形式ではありません。2000字程度の志望理由書や自由記述、活動記録に任意提出資料まで含む重量感あふれた書類を用意しなければならず、2次試験(会場で行われる)が受けられるかどうかを決める一次選考の材料となるので志望者は年明け頃から四苦八苦して仕上げています。

来たれ地方出身の英才

 この入試形態に近年「ある意図」が込められるようになりました。両校が立地する東京・神奈川といった東京圏以外の受験生を事実上優遇しようという仕組みの導入です。

 例えば慶應義塾大学法学部にはA方式とB方式があります。こうなったのは2012年から。うちB方式が地方生へのアプローチとなっているのです。出願条件は「外国語、数学、国語、地理歴史、公民)および全体の評定平均値(学校の成績)が4.0以上」とかなり頭がよくないとクリアできないとはいえ注目されるのは募集形態です。全国を「北海道・東北」「北関東・甲信越」「南関東」「北陸・東海」「近畿」「中国・四国」「九州・沖縄」の7ブロックにわけて各ブロックから法学部の2つの学科(法律学科と政治学科)へおのおの最大10人程度を合格させるという制度を用意しました。入試要項には「様々な地域の個性ある学生の『慶應で学びたい』という意欲に応えたいと考えています。そしてそれらの学生が、卒業後にその才能と大学で学んだ成果を、様々な形で出身地域の活性化に活かしてくれることを期待しています」と理由を述べているのです。

 今年から始まる早稲田大学新思考入試(地域連携型)も地方の才能を求める意図が濃厚に垣間見えます。文化構想学部、文学部、商学部、人間科学部、スポーツ科学部が対象で要項によると「これまでの学習や当該地域での経験を踏まえて充分に培われた『地域へ貢献』する意識を持つ人材」「地域性を重視し、全ての都道府県からの受け入れを目標」としています。すでに行われている社会科学部の全国自己推薦入試も「できるだけ各都道府県から1人以上の合格者を出すのを目標」にしており地域性を重視するとうたっているのです。

 少子化で学生の奪い合いが年ごとに厳しさを増すなか都心にキャンパスを持つ大学は1・2年次に過ごしたり学部によっては4年間離ればなれになる郊外校舎を整理して「都心回帰」を進め魅力増強にやっきです。政府は特に東京23区への集中を問題視しており定員増は原則認めないとの閣議決定をしたほどです。国が心配するぐらい都心一極集中が進む半面で増加する地方出身学生へのニーズ。いったい何が起きているのでしょうか。

日本版アファーマティブアクション

 キーワードは「多様性の確保」です。私立大学のなかでも早稲田や慶應義塾はかつて「全国型」と分類され日本中から学生が集ってきました。とくに早稲田に顕著な傾向だったのです。ところが近年、両校とも入学者の圧倒的多数を東京圏出身者が占めるようになりました。同じ高校、特に中高一貫私立からどっと入学し東京圏の価値観が覆うようになってしまったのです。

 ゼミなど大学の勉学は同じような価値観の者ばかりではブレークスルーしません。法律学科で「死刑は賛成か反対か」を話し合うとして全員が賛成(または反対)では討論にならないのです。敢然と少数派になるのを恐れず意見し、しかも理が通っているという者がいてこそ活性化します。地方出身者優遇は「日本版アファーマティブ・アクション」といっていいのかもしれません。

 早慶両校の焦りもうかがえます。私大トップに長らく君臨し「放っておいても全国から我が校を目指す」とあぐらをかいていたら、いつの間にか首都圏限定大学へと成り果てていたとわかり反転攻勢に出ているとも解釈できます。

 ただ思惑通り進んでいるとは言い難い現状があります。慶應義塾大学法学部FIT入試B方式は「南関東ブロック」(埼玉・千葉・東京・神奈川)では過熱といっていいほど志願者が集まっているのに対し他地域はさほどでもありません。「各都道府県から1人以上の合格者を出すのを目標」とする早稲田大学社会科学部の全国自己推薦入試も2017年度の志願者(合格者でも入学者でもないのに注意!)は東京58人、神奈川26人、埼玉22人と人気化しているのに対し他地域の大都市圏を抱える宮城は3人、愛知でも6人、大阪7人と低調で長野、福井、奈良、佐賀、鹿児島はたった1人。パンフレットに記載がない新潟と山口はゼロなのかもしれません。

東大推薦は事実上「御用達校お断り」

 大騒ぎになった「東大の推薦導入」も地方生確保が隠れた目標になっています。「多様な学生構成の実現」の名の下で出願に必須の「学校長の推薦」が「男女各1人まで」(男子校と女子校は1人だけ)と限定しているのに着目して下さい。学校長の推薦を必要とする公募制推薦制度自体は珍しくないものの1校ごとに2人ないしは1人と限るケースは珍しい。毎年ドカンと合格者を出す開成、灘、麻布など私立男子校は各校1人だけ。国立の筑波大学附属駒場も男子校なので同じ。こうした高校の生徒は面倒くさい推薦より前期日程で東大に入ろうともするでしょうから事実上推薦構想から外されているわけです。逆に東大に過去1人も入っていない高校でも「男女各1人まで」の枠が使用できます。

 要するに御用達高校を外して地方生に道を開くとともに、これまた東大悩みのタネである「女性が少ない」問題を解消する糸口にしたいと計算しているようです。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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