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拝啓 もう一度ラガーマンに熱狂したい貴女へ(バックス編)

多羅正崇スポーツジャーナリスト
クボタで主将を務めるセンターの立川理道(写真:松尾/アフロスポーツ)

【部室トーク】拝啓 もう一度ラガーマンに熱狂したい貴女へ(バックス編)

春が来て、もう一度ラグビーに熱狂したい貴女にグッドニュースがある。

2月20日に開幕した“イイ男祭り”がめちゃくちゃ面白いのだ。

イイ男祭りには正式名称があり、「ジャパンラグビートップリーグ2021」という。バッドニュースはといえば、5月23日(決勝戦)で終わってしまうことだ。

このトップリーグは、日本ラグビーの国内最高峰リーグである。そんな大規模大会を、わざわざ「イイ男祭り」とスケールダウンさせた理由がある。

筆者がそう信じているだけなのだが、ラグビーでは「イイ男」ほど良いプレーをする。

過酷なラグビーでは、人格を問われる状況が連続する。いわば一種のストレス・テストであり、優しく勇敢なタフガイが存在感を示すのだ。

だからこそ現在のラグビー界は、言行一致のイイ男を輩出するべく「生活面」にもこだわっている。

マックの行列に横入りをする人間は、ラックのスイープでも横入り(反則)をするはずだ、という考え方のもと、私生活での振る舞いにも規律を求めるのだ。

試合の時だけイイ男を演じてみても、ラグビーを騙すことはできない。だからもしも交際相手の本性を知りたい方は、お相手にラグビーをやらせてみるとよいだろう。

そのお相手が、必要以上のディフェンダーを自分の左右に配置しようとしていたら、その人は臆病であるか、かつての本稿筆者である。言うまでもなく最も手っ取り早い方法は、交際相手に優れたラグビー選手を選ぶことだ。

現代ラグビーはグラウンド外の勝負も熾烈であり、トップリーグはそんな高度化した現代ラグビーの国内頂点に位置しており、参戦する男達は選りすぐりのイイ男達だ。

つまりトップリーグとは「イイ男祭り」なのである。

一点気になる「祭り」部分であるが、ここにも理由がある。

今シーズンは豪華海外スターも多数参加しており、彼らが活躍していてお祭り状態になっている。

ベン・スミス(神戸製鋼)、ボーデン・バレット(サントリー)、グレイグ・レイドロー(NTTコミュニケーションズ)などだ。

もちろんイイ男の条件は十人十色だが、多様性が売るほどあるラグビーでは、イイ男も種類豊富だ。

今回はそんなトップリーグから、5つのポジションがあるバックスのイイ男たちを(ほんの一部になってしまうが)ご紹介させて頂きたい。

【スクラムハーフ】(SH)

ラグビーは緊急事態の連続だ。悪天候でミスが続く、レフリングとの相性が悪い、身に覚えのない理由で外国人選手にキレられている・・・。

実のところ、ラグビーは80分間のパニック映画としても楽しむことができる。

個性的な23人(先発15人+リザーブ8人)がそれぞれの能力を持ち寄り、モールという巨大な多足類と戦ったりしながら、80分間をサバイバルする。ゴジラは登場しないが、トンガン・ゴジラ(キヤノンのホセア・サウマキ選手の異名)なら登場する。

そんなパニック映画ばりのラグビーで仲間を落ち着かせるのが、ゲームコントローラーであるハーフ団(スクラムハーフとスタンドオフ)だろう。

特に9番を背負うスクラムハーフは、攻撃のテンポ、フォワードの心拍数をコントロールする重要な役割を担っている。

外見は大人しいネコ科の動物のようだが、ネコ科はネコ科でも中身はライオンだ。フォワードという猛獣を操っている点でも、まさに百獣の王と言えるだろう。

イイ男の条件に「強気」「リーダーシップ」を挙げる貴女は、ぜひスクラムハーフに注目してみてほしい。

ただトップリーグともなると、一般的なスクラムハーフのイメージには収まらない“規格外”ばかりだ。

日野のオーガスティン・プル(共同主将)はスクラムハーフとしては規格外の守備力を持っており、完全に9人目のフォワードだ。

またリコーのマット・ルーカスも窮地にこそギアが上がる好漢だ。リコーで弟アイザックと兄弟ハーフ団を組んでおり、親孝行っぷりも並大抵ではない。

ヤマハ発動機で14年目の矢富勇毅は健在であり、芸術的なロングパス、強烈なディフェンスはなおも規格外だ。

そしてやはり、ヒーロー的な活躍を連発し、NTTドコモの開幕3連勝に貢献したオールブラックス(NZ代表)のTJペレナラ。

ディフェンダーとしても抜群だが、数手先の詰み(トライ)までの手順を読み切る得点感覚は、まさに規格外だろう。

またペレナラはラグビーの多様性を愛しており、「LGBTQIA+」(より多様性を表現したセクシャル・マイノリティの総称)を積極的に応援している。

ピッチ内外で勇敢なオピニオンリーダーであり、まさにトップリーグを代表するイイ男の一人だろう。

日本を代表するスクラムハーフ、キヤノンの「小さな巨人」田中史朗(筆者撮影)※2017年日本代表合宿時
日本を代表するスクラムハーフ、キヤノンの「小さな巨人」田中史朗(筆者撮影)※2017年日本代表合宿時

【スタンドオフ】(SO)

元神戸製鋼のダン・カーターしかり、どうしてスタンドオフにはイケメンが多いのだろうか。何を言いたいわけではないが、筆者は学生時代スタンドオフだった。

もちろんラグビーグラウンドにおいて端正な顔立ちは役に立たない。美男美女がチヤホヤされる世の中にあって、これほど痛快なことがあるだろうか。

ラグビー場は言動によってのみ人間が評価される、極めて平等な世界だ。ラグビー場が一面増えれば、一面分だけ世界は平等に近づく。ラグビーの魅力に気付いた貴女は輝く感性の持ち主である。

10番にイケメンが多いのはただの偶然に違いないが、スタンドオフの特質上、イケメンに見えるということはあるかもしれない。

スタンドオフはポーカーフェイスが基本だ。

スタンドオフはゲームコントローラーとして「これぞ我がチーム」の存立に深く関わっていることが多い。

チームのアイデンティティ喪失は致命傷になるため、内心はアタフタしていても、外面的にはいつでも丸の内を颯爽と歩くようでなければならないのだ。

イイ男の条件に「冷静さ」を挙げる貴女にはスタンドオフをオススメしたい。

ただトップリーグのスタンドオフともなると、心身の逞しい強者ばかりだ。

ヘイデン・パーカー(神戸製鋼)は世界最高のプレースキッカー。

18年サンウルブズでのキック成功率はなんと96%(50回中48回成功)だ。4%分は人間の範疇を踏み越えたことに対する神の嫌がらせだろう。

山沢拓也(パナソニック)は“超”高精度のキックからトライを生み出す。その場にいる全ての人を山沢劇場の観客にしてしまうファンタジスタだ。

サム・グリーン(ヤマハ発動機)は何でもできるセンスの塊なのに、骨惜しみしないハードワーカーだ。これで一発芸も面白かったら、ラガーマンとして完全無欠だ。

田村優は緊急時のマネジメント、多彩な足技も光るキヤノンの大黒柱。

第4節ヤマハ発動機戦では、後半11分40秒から4種類のキック(ロングキック、グラバーキック、ショートパント、ドリブル)で荒井康植のトライを演出した。

またプレーオフ(4月17日開始)から登場するトップチャレンジリーグ(2部相当)上位4チームでは、コカ・コーラの今泉仁が好タックラーだ。

一般的なスタンドオフの枠に収まらないスタンドオフの競演に、ぜひ注目してほしい。

キヤノンで主将を務めるスタンドオフ田村優(筆者撮影)※2017年日本代表合宿時
キヤノンで主将を務めるスタンドオフ田村優(筆者撮影)※2017年日本代表合宿時

【センター】(CTB)

石を投げればイイやつに当たる、と言われるほど、ラグビー界にはイイやつが多い。

イイ男ほど良いプレーをするとも書かせて頂いたが、しかしラグビーが人間性を暴露するスポーツならば、人間の激情もそこになければ逆に不自然だろう。

そんな激情を解放させる自由を、ハーフ団(スクラムハーフ、スタンドオフ)に比べて謳歌しているように見えるのがセンター(12、13番)である。

アタックではトップスピードで敵陣に突っ込んでいき、ディフェンスでは相手にタックルをぶちかます。

勇敢であるか、痛覚がないか、その両方でもない限りは立派に務まらない。12番はゲームメイクを担当するテクニシャンも多いが、いずれにせよ頼もしい。

自暴自棄になり、何もかも信じられなくなっても、後半20分以降に身体を張っているセンターは信じられる。クボタの立川理道(キャプテン)は信じられる。そういう人間を見せてくれるラグビーは信じられる。

イイ男の条件に「勇敢さ」「頼もしさ」を挙げる貴女は、ぜひセンターに注目してほしい。

ヴィリアミ・タヒトゥア(ヤマハ発動機)はリーグ屈指のキャリアーだ。そろそろ「世界で最も多くボールキャリーをしたセンター」としてギネスに認定されるのではないだろうか。

NTTコミュニケーションズのシェーン・ゲイツは、ピンチになると全速力で自陣に引き返すチームマン。戦場で最前線に置き去りにされた仲間を救うべく、銃弾の雨の中を引き返すタイプだ。

NECのマリティノ・ネマニはいつでも獅子奮迅の活躍だが、最後まで勝負を諦めないファイターでもある。

リコーの濱野大輔(共同キャプテン)は正確なタックル、鋭いリロードで働き続けるナイスガイだ。

また三菱重工相模原のマイケル・リトルは、一人で局面を変えられる日本代表候補。他にも数多いる勇敢なセンターの攻防に、ぜひとも注目してほしい。

クボタで主将を務める勇敢なセンター、立川理道。(筆者撮影)※2017年日本代表合宿時
クボタで主将を務める勇敢なセンター、立川理道。(筆者撮影)※2017年日本代表合宿時

【ウイング】(WTB)

プレイヤーの役割が明確化した現代では「遊び」の余地が年々少なくなっているように見える。

ただ着想を表現する自由を謳歌しているように映るのがバックスリー(ウイングとフルバック)だ。スリリングな抜き合いは華々しい独壇場だろう。

バックスリーの生態は猫に似ている。

普段はあまり動かないが、動く時はビックリするほど速い。

また特にトライゲッターのウイング(11、14番)はなぜか愛嬌があり、天真爛漫である。

たまにプロップと仲良しのウイングがいるが、猫がコタツを好きな理由と同じなのではないかと筆者は疑っている。

ただバックスリーの仕事は、猫の手を借りてもまったく役に立たないほど目まぐるしい。

現代ラグビーではピッチ両端に大型のフォワードがいることも多く、一層の守備力が求められている。またキックに備え、立ち位置を過敏に調整し続けなければならない。

また守備では、大きな声でディフェンスラインの整備に尽力する。もちろん私生活でペナルティを犯している者が「ノーペナ!」(ノー・ペナルティ)と叫んでも、説得力はないだろう。

声の専門家である以上、人一倍の品行方正を求められているはず(?)のポジションがバックスリーだ。

その意味においても、実力においても、医学の道へ進むために今季限りで現役引退をする福岡堅樹(パナソニック)は光り輝いている。

全盛期に引退し伝説になることが確定的な最高のウイング、その一挙手一投足を、このトップリーグで目に焼き付けておきたい。

またサントリーではテヴィタ・リー、そして早大卒業後にセンターから転向している1年目の中野将伍の活躍はまぶしい限りだ。

中止になった2020年シーズンのトライ王、11トライを挙げたヤマハ発動機のマロ・ツイタマは今季も超高速。

NTTコミュニケーションズの張容興、東芝の桑山聖生はディフェンスでも頼もしい。

プレーオフから参戦するトップチャレンジの近鉄では、南藤辰馬がクレバーなフィニッシャーだ。ボールを持っていない時のウイングも要注目だ。

左からウイングの福岡堅樹(パナソニック)、山田章仁(NTTコミュニケーションズ)、レメキロマノラヴァ(宗像サニックス)。(筆者撮影)※2017年日本代表合宿時
左からウイングの福岡堅樹(パナソニック)、山田章仁(NTTコミュニケーションズ)、レメキロマノラヴァ(宗像サニックス)。(筆者撮影)※2017年日本代表合宿時

【フルバック】(FB)

そしてラスト、ポジション図の最後尾に位置するフルバック(15番)。

現代ラグビーでは、ラック脇から大型フォワードがいきなり独走してくる場面が散見され、フルバックは絶体絶命の「To be continued…」な瞬間に何度も襲われる。

また高く蹴り上げたボールを捕球するハイボールキャッチは、何が起こるか分からない瞬間へ自分を投げ出し、果敢に前方へ飛ばなければならない。

重圧の中で高いスキルを発揮しつつ、相手が抜けてきたらいつでもタイマンを張る――そんな肝っ玉の持ち主がフルバックだろう。

ただトップリーグのフルバックともなると独創的である。

トヨタ自動車のウィリー・ルルーは、何をやらせてもスマートに見えるシャレオツ系フルバック。

カウンター席に着くようにスタンドオフの位置に入り、女性とパーティーを抜け出すようにラインブレイクする。

今季限りの現役引退を表明している五郎丸歩(ヤマハ発動機)は、誰もが認めるザ・フルバックだろう。15年W杯後の“五郎丸人気”を強い責任感から引き受けた。きっと多くの日本人が抱くフルバックのイメージは、これからも五郎丸歩に違いない。

2021年シーズン限りでの現役引退を表明したヤマハ発動機の五郎丸歩(筆者撮影)
2021年シーズン限りでの現役引退を表明したヤマハ発動機の五郎丸歩(筆者撮影)

わずかしか紹介できなかったが、以上がオススメのイイ男達(バックス編)だ。

パニック映画などと書かせて頂いたが、どんなジャンルにせよ、ラグビーでは必ず「ノーサイド」という名シーン、グッド・エンディングが待っている。

清々しいノーサイドの余韻に浸りつつ、競技場を後にするさいのデトックス感は何物にも代えられない。 

実はラグビーには、他にもチームスタッフやレフリーといった重要ポジションがあり、彼らなくしてラグビーチーム、試合は成り立たない。

ラグビー界という奥の細道は、まだ先へと続いている。しかし隅々まで多様性が咲き誇っている明るい細道だ。

トップリーグの選手、スタッフによる総力戦はもう始まっている。

温暖な春を迎え、今からますますラグビー観戦が楽しい。「ジャパンラグビートップリーグ2021」はこれからが佳境である。 敬具

※ラグビー国内最高峰リーグ「トップリーグ」公式サイト https://www.top-league.jp/

※スポーツテレビ局「JSPORTS」の公式YouTubeチャンネルより

『【世界のスター選手 独占インタビュー】ブロディ・レタリック、グレイグ・レイドロー、ベン・スミス、TJ・ペレナラ、マルコム・マークス ~トップリーグ2021開幕スペシャル~』

スポーツジャーナリスト

スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める

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