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リーグワンはディビジョン3が面白かった!!

多羅正崇スポーツジャーナリスト
ラグビーの社員選手は業務後ダッシュで練習場へ向かい、楕円球を追う(写真:アフロ)

【部室トーク】リーグワンはディビジョン3が面白かった!!

12月9日(土)に国内ラグビー「リーグワン」が開幕する。このリーグは3部制であり、ディビジョン1(D1)の奥地に分け入っていくと、ディビジョン2(D2)があり、さらに奥に分け入るとディビジョン3(D3)が存在している。

藤岡弘さんに探検してもらうかどうかも含めてこのD3を調査してみると、これがとても面白く、興味深いディビジョンである事が分かった。

まず驚いたのは、D3の過酷さである。

5チームが参加するD3は、フルタイムで働く社員選手の割合が大きい。

社員選手とは一体何かといえば、同僚が業務後ビールを飲んでいる時にプロテインを飲むことである。

同僚が土日に疲労回復している時に、試合で疲労を溜め、多少の怪我があっても翌朝出社することである。

確かに競技力はD1に劣るかもしれない。

ではビジネススキルはどうだろうか。一度「資料作成力」などビジネススキルを競技化し、全チームと競ってみてほしいものである。

D3の社員選手は「早着替え選手権」でも強いだろう。スーツから練習着に着替えるスピードなら世界最高峰に違いない。そもそも競技力においても社会人でプレーしている時点で超エリートである。

このように多大な労力を費やしてでもラグビーをしたい、諦められない、そんな男達の純情が詰まっているのがD3だが、それでも最も過酷なのは12チームによるD1だと思われている。

苦労をあまり知られない苦労のあるD3が、リーグで最も過酷である事は明らかである。

(※D3クリタウォーターガッシュ昭島の“サラリーマン・ラガー”石井主将に一日密着した昨季のリーグワン公式動画)

D3は先進的なディビジョンでもある。

D3の年間試合数は、リーグ最少の30試合。つまり運営におけるCO2排出量が最も少ないディビジョンといえそうだ。競技力という一つの側面をもって3番目になっているが、地球に1番優しいのはD3なのである。

今季D3の5チームは東京3チーム、広島2チームで「関東-広島間」を行き来するディビジョンになっている点も高ポイントだ。23年W杯ではエコ重視の大会運営がなされ、フランス代表がTGV(高速鉄道)で移動していたことは記憶に新しい。

このようにサスティナビリティ(持続可能性)の点で最も優れているD3は、いっそ独立独歩で「サスティナビリティ・ディビジョン」と名乗ってみてはどうだろう。

そのさいはD3独自のポイント制として「環境ポイント」も設けてほしい。

これは1シーズンのチーム活動における環境負荷が最も少ないチームに「勝点4」を与える画期的なシステムだ。それの何が面白いのか、という指摘はありそうだが、参加チームの社会的信用度、価値は高まるに違いない。

D3の推しチームも探してみた。

全チームになったのはたまたまである。

まずは昨季親鳥かというくらいボールを保持して攻めまくったクリタウォーターガッシュ昭島(昨季3位)だ。孵化して羽ばたいたのは拓殖大卒のWTB濵副慧悟(ゲインメーター1位、ライン突破1位タイ)だった。

今季はそのバックラインにゴジラが上陸する。

強烈キャリーで「トンガン・ゴジラ」の異名をとる元サンウルブズのホセア・サウマキだ。スクラムも強いが、「シン・ランニングラグビー」への進化を期待せざるを得ない。

(※2018年スーパーラグビーの日本チーム「サンウルブズ」でのハットトリック。D1神戸Sの弟サウマキアマナキは自身も目指した日本代表でW杯2023に参加した)

ラグビー界において一番偉いのは、ビル・ボーモント会長(ワールドラグビー)でもなければエディー・ジョーンズでもない。身体を張るやつである。

その点で、中国電力レッドレグリオンズ(昨季5位)には偉い人がたくさんいる。

守勢に回った時間も関係するが、リーグ初年度でD3最多タックル成功のベスト3は、全員レッドレグリオンズの選手だった。

リーグ最強タックラーの一人であるFL森山皓太(108回)。そしてフッカーなのに2位だった岩永健太郎(101回)。3位だった今季共同主将のLO西川太郎(93回)の3人だ。

今季D2からやってきた日野レッドドルフィンズは期待の新人が多い。

HO谷口永遠(天理大学)、WTB水間夢翔(日本大学)はプレーが派手。「何かやってくれそう」と期待していると本当に何かやってくれる選手だ。新人の出場機会が比較的期待できる点も、無数にあるD3の魅力の一つだろう。

レッドドルフィンズは、23年W杯トンガ代表のSHオーガスティン・プルも健在だ。

タックルの三段活用は弱いものから順に「ナイス」「ビッグ」「ホスピタル」とあるが、SHプルは小柄な9番なのにいつも「ホスピタル」を繰り出す。対戦する相手のため、レッドドルフィンズの試合には総合病院が帯同してほしい。

同じくD2からやってきた清水建設江東ブルーシャークスは、広く選手を募集するクラブチーム制度(2001年導入)がユニークだ。

たとえばクボタでプレーしたHO立川直道。元キヤノンの森谷直貴。ラグビーを諦めず働きながら夜間練習に通い、深夜に帰宅する。

不死鳥のように甦ってくる漢は他にもいる。昨季監督だったのに現役復帰した41歳のFL大隈隆明(プレイングコーチ)だ。ドリカムはブルーシャークス選手の生き様をみて名曲『何度でも』を着想したに違いない。

推したい最後の5チーム目、マツダスカイアクティブズ広島(昨季4位)は、その名の通り広島を本拠地としている。中国電力レッドレグリオンズも広島拠点であり、この2チームには日本一の味方がいる。

広島県民だ。

広島県は広島東洋カープ(プロ野球)とサンフレッチェ広島(J1リーグ)を擁するスポーツ王国で、総務省がまとめるスポーツ観戦率(年に1度でもスポーツを直接観戦する人の割合)が全国1位だ。

広島には「おらが街」のチームを熱狂的に応援してきた歴史があり、「広島県民」が喉から手が出るほど欲しいGMは少なくないはずだ。広島2チームの可能性は無限大だ。

さらにスカイアクティブズについて調査してみると、無視することが不可能な生き物を見つけた。2023年8月1日の広島東洋カープの試合にそれが登場した様子が、これだ。

こんなに守備力が高そうなマスコットは日本初だろう。打撃系はいっさい効かないタイプだ。

それでいてどこか愛嬌があり、かわいらしい。なにか別の生き物が中に入っているような気もするが、そこに触れてはならないという気もする。

まさに底知れぬ魅力をもつこのマスコットの名前は「ウィズリー」だという。

なんとモチーフはあのヒバゴン。1970年に広島県庄原市(旧比婆郡)で目撃が相次いだ謎の類人猿――。

リーグワンの奥地には「伝説の野人ナトゥー」も「謎の地底人クルピラ」もいなかったが、ヒバゴンをイメージしたマスコットは実在した。

ウィズリーに会えるかもしれないスカイアクティブズの今シーズンは、12月16日(土)のウォーターガッシュ戦(広島・Balcom BMW Stadium)で幕を開ける。

さあ、スタジアムへD3の魅力を見つけにいこう。

(※スポーツテレビ局『J SPORTS』はリーグワンのディビジョン1、2の開幕節を全試合無料放送。ネットの『J SPORTSオンデマンド』では今回一部紹介したディビジョン3も加えて無料配信される)(了)

スポーツジャーナリスト

スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める

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