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まだまだいる!ラグビーW杯の知られざる怪物達。

多羅正崇スポーツジャーナリスト
ラグビー・イングランド代表のプロップ、エリス・ゲンジ。(写真:ロイター/アフロ)

 9月20日に開幕したラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会は成功を収めつつある。

 日本代表は優勝候補のアイルランド代表に勝利し、チケットは9月27日時点で販売可能席の97%を販売した。かなり気の早い話だが、日本は今後W杯開催国の常連になるかもしれない。

 そんな歴史的なラグビーW杯をより楽しむため、ぜひ知っておいてほしい怪物を5人紹介したい。

 といっても、ニュージーランド代表のボーデン・バリットのような、日本でも知名度のある世界的スターではない。日本ではあまり知られていない選手達だ。

 2018年から担当しているサンウルブズ(日本)公式のスーパーラグビー選手名鑑、そしてラグビーW杯日本大会の選手名鑑づくりを通して、W杯参加20か国の選手達(約600人)のプレー映像は可能な限り確認してきた。

 まずは、最も衝撃を受けた選手から紹介させてほしい。

■イングランド代表/エリス・ゲンジ(Ellis Genge)

(187cm 113kg/24歳/プロップ)※年齢は2019年10月2日時点

 

 フットワークとパワーが怪物級だ。

 スクラムを最前線で組むプロップ(PR)という最重量級のポジションだが、驚くべき俊敏性で相手のバックス選手も抜き去る。

 イングランド代表を率いるエディ-・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)は、ゲンジを後半から起用することが多い。

 おそらく体力が落ちる後半にゲンジを投入することで、彼の爆発力を最大限に活かす意図もあるのだろう。

 とんでもない怪物が日本大会にやってくると思っていたら、9月26日のアメリカ戦に途中出場し、さっそくド派手なプレーを見せた。

※背番号17がPRゲンジ。

■フランス代表/ジェファーソン・ポアロ(Jefferson Poirot)

(181cm 123kg/26歳/プロップ)

 プロップ(PR)では、フランス代表・ポアロの機動力もモンスター級だ。

 

 体重は120kg超だがスピード抜群。密集戦でボールを奪う「ジャッカル」というプレーも大得意。

 

 フランス代表としてのデビュー戦は2016年2月6日のイタリア戦だったが、この日が唯一のリザーブスタート。

 2017年に代表指揮官が代わっても(ノヴェス→ブリュネル)、ポアロは初試合を除く全29試合で先発中。指揮官が誰であれ、彼以外の選択肢はないのだ。

■アイルランド代表/ジョーダン・ラーマー(Jordan Larmour)

(178cm 90kg/22歳/ウイング・フルバック)

 

 唯一無二のステップワークを持つ、22歳のトライゲッターだ。

 アイルランド代表はロブ・カーニーというハリウッド俳優並のイケメンFB(フルバック)がおり、彼の影に隠れがちだが、ラーマーはアイルランドの未来だ。

 12-19で敗れた日本戦では後半20分から途中出場し、活躍の場は少なかった。

 白眉のステップワークは、2018年11月のイタリア代表戦。

 ラーマーは見たこともないようなステップで防御を切り裂くのだが、プレーの途中で鳴るのはフルタイムのホーン。

 彼はこの日フルバックとして先発出場し、80分間戦っていた。ラストプレーで見事なステップを見せ、独走トライを決めたのである。

※後半40分にラーマーは華麗なステップワークを見せた。

■南アフリカ代表/ピーターステフ・デュトイ(Pieter steph du toit)

(200cm 119kg/27歳/フランカー・ロック)

 ド派手なスーパートライはないが、ピンチにこそ身体を張るアンサング・ヒーローも紹介したい。

 

 南アフリカ代表のフランカー(FL)、ピーターステフ・デュトイは仕事量がモンスター級だ。

 「ボールあるところにデュトイあり」で、多くの局面に顔を出し、一歩前に出る激しいディフェンスを続ける。

 トライも決めた今大会のNZ戦では、両チーム最多の13タックル。ボールキャリーはFWでチーム2位。

 小兵フランカーなら十分理解できる運動量だが、彼の体格は身長200cm、体重119kgなのである。常識では考えられない。

■フィジー代表/ビリアメ・マタ(Villiame Mata)

(195cm 117kg/28歳/ナンバーエイト)

 ラグビーではタックルを受けながらボールをパスするプレーを「オフロードパス」という。

 このオフロードパスを得意とするチームのひとつがフィジー代表。

 フィジーは得意のオフロードパスを活用しながら、7人制ラグビーが初採用されたリオデジャネイロ五輪で金メダルに輝いた。

 その金メダリストの一人が、ナンバーエイト(NO8)のビリアメ・マタだ。

 大柄な突進役にして、予測不能のパスでトライもアシストする。規格外のテクニシャンだ。

※動画15秒からカウンターを仕掛ける8番がマタ。

 

 選手にとってラグビーW杯は、自分を世界に売り込むビッグチャンスでもある。

 

 2007年大会で名ウイングのハバナ(元南アフリカ代表)を外で振り切ったングウェニア(元アメリカ代表)など、一夜にしてラグビースターを生み出すのがラグビーW杯でもある。

 豪州戦でハードプレーを見せたウェールズのFLアーロン・ウェインライト(Aaron Wainwright)。

 そのウェールズ相手に一歩も引かなかったジョージアのウイング、21歳のギオルギ・クベセラゼ(Giorgi Kveseladze)。

 釜石で行われたフィジー戦ではウルグアイの無名ウイング、米リーグでプレーする26歳のロドリゴ・シルバ(Rodrigo Silva)が獅子奮迅だった。

 果たして大会後にスターは生まれているだろうか。自分だけのお気に入り選手を見つけるのも楽しいだろう。ラグビー界最大の祭典は11月2日(土)の決勝戦まで、まだまだ続く。 (了)

スポーツジャーナリスト

スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める

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