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『部活動サミット』で話題の静岡聖光学院ラグビー部が「花園」初戦突破。秘策・ローリングモールが炸裂。

多羅正崇スポーツジャーナリスト
選手が独自に採用を決めた秘策・ローリングモール。(筆者撮影)
第98回大会1回戦の舞台は12月28日、花園第2グラウンドだった。(筆者撮影)
第98回大会1回戦の舞台は12月28日、花園第2グラウンドだった。(筆者撮影)

3年ぶりに第98回全国高校ラグビー大会「花園」の舞台に立った静岡聖光学院ラグビー部(静岡)が、12月28日、8年連続出場の高鍋(宮崎)に22-16で逆転勝ちして1回戦を突破した。

静岡聖光は5回目の花園出場(09、10、14、15、18年度)となる強豪。

ただ練習は週3回で、平日の練習時間は11~1月が60分、2~10月は90分と短く、土曜も最長で120分という。

ダッシュしたのちタックル姿勢で給水をするなど、多様な時短テクニックを持つことで知られ、今年9月には短時間・高密度の練習方法を共有する研究大会『部活動サミット』をラグビー部が主催し、話題を集めた。

■ハーフタイムが静岡聖光学院の見せ場。

試合の戦術を選手が考えるなど、主体性も重要視する。

就任3年目の佐々木陽平監督からハーフタイムの指示はない。

選手は短時間で課題を発見、修正点を共有する“修正スキル”を磨いてきた。ハーフタイムは静岡聖光が誇る主体性ラグビーの見せ場でもある。

礎を築いた前監督・星野明宏副校長のあとを2016年に継いだ佐々木監督は、指導者不在のハーフタイムを「プライドを持ってやっています」と答えた。

「主将中心にリーダーがたくさんいるので、そこはプライドを持ってやっています」

「県大会からハーフタイムで指示をしなくなったんですが、後半のスコアで上回るようになってきました」(佐々木監督)

ハーフタイムにピッチ中央で円陣を組む静岡聖光学院。(筆者撮影)
ハーフタイムにピッチ中央で円陣を組む静岡聖光学院。(筆者撮影)

■効果大の秘策・ローリングモール。

しかし静岡聖光は3年ぶりの花園で、前半を6点ビハインド(5-11)で折り返してしまう。

ここで静岡聖光は磨いてきた修正力を発揮する。

黒ジャージーの集団は、ハーフタイムで指導者不在の円陣を組んだ。

「キックを深く蹴ってディフェンスから流れを作ろうと話しました。エリア取りの修正です。話し合って修正することで、後半にたくさん点を取れると思っています」(CTB小林大悟・3年)

静岡聖光は後半に逆転した。ハイパントから相手にプレッシャーをかけて敵陣で攻撃を開始するなど、「キックしてディフェンス」の意志統率がトライの起点にもなった。

大きな威力を発揮したのは、監督も実戦採用を知らなかった秘策・ローリングモール。

埼玉県決勝で敗れた昌平高のモールを見て、フォワード陣が極秘裏に採用を決めたという。

前半も敵陣でモールを組んではいたが、ここは言わば“前フリ”でローリングはしなかった。

後半の勝負所でくるくると回転するモールを披露して、東大阪市花園ラグビー場・第2グラウンドが沸いた。

一方で観客席からは、敵選手がディフェンスを妨害する反則「オブストラクション」ではないか、との声も上がった。

しかし選手たちは、レフリーとしての国際経験も豊富な平林泰三コーチに、ルールは確認済みだった。

自身も休憩なしの60分間トレーニングを提唱している平林コーチは「あのようなローリングモールをするチームはいくつかあります」と試合後に語った。

「モールは最初に組み立てるときは、ボールは先頭。そこから(相手を)つけてディフェンスが入ってきて、右か左にもれているほうに力を逃がして前進していくという形ですね」(平林コーチ)

後半19分、27分にローリングモールを起点に連続トライを挙げた。

特に1点リード(17-16)で迎えた後半27分のトライは、回転しながらインゴールへ。理想的なトライにスコアしたPR柴田(3年)が雄叫びを上げた。

後半27分にモールからトライを決めるPR柴田。(筆者撮影)
後半27分にモールからトライを決めるPR柴田。(筆者撮影)

■ラインアウト編成の変更も的中。

秘策は他にもあり、ラインアウトで優位に立つ高鍋に対抗するため、ジャンパーを変えるなどしてカット(スティール)の技術を磨いてきた。

部活動サミットを主導したLO風間悠平(3年)が明かした。

「高鍋さんとやると決まったとき、ラインアウトの高さでは勝てないので、スピード勝負にしようということで(ジャンパーをリフトする)スピードを磨いてきました」

「本当は僕がジャンパーで飛ぶのですが、僕と市川(PR/3年)で飯山(FL/2年)を持ち上げました。狙い通りでした」

狙い通り、ラインアウトで相手がスローイングしたボールをカット。攻撃権を奪取する場面を披露した。

花園常連の高鍋は高速アタックで静岡聖光学院を翻弄した。(筆者撮影)
花園常連の高鍋は高速アタックで静岡聖光学院を翻弄した。(筆者撮影)

■子どもを輝かせる大人たちの忍耐。

自主性ラグビーの真骨頂を大舞台で披露した静岡聖光だが、その陰には、子どもを主役にする大人たちの存在がある。

北海道出身の佐々木監督は、世代別代表のアナリスト経験もある分析家だ。

しかし分析により得られた答えがあっても、そこは忍耐で口をつぐむ。

「分析が好きで答えを言いたくなるのですが、我慢は必要です。ミーティングでは僕がテーマをあげることもあって、そのときはテーマだけ与えて、答えを与えることはありません」

「たとえば『高鍋さんはこういうアタックをしてくるけど、明日の練習までにどういうディフェンス・スタイルするか決めておいて』と。それで僕がグラウンドでチェックします」

静岡聖光のピッチサイドには、子ども達を忍耐強く見守る大人のまなざしがある。

試合後に観客席へ挨拶する静岡聖光学院メンバー。(筆者撮影)
試合後に観客席へ挨拶する静岡聖光学院メンバー。(筆者撮影)

■先輩の意志も継いで、目標は「花園ベスト8」。

過去4回ある静岡聖光の最高成績は2回戦敗退。

30日に対戦する2回戦の相手は、6月の東北大会優勝の岩手・黒沢尻工。他の東北勢は1回戦で姿を消しており、黒沢尻工には東北代表としての期待もかかる。

対する静岡聖光の目標はベスト8という。

花園ベスト8を掲げながら、2017年度の県予選決勝で3点差(12-15)に散った、先輩の想いを自分たちで背負った。

「去年の先輩たちにはベスト8という目標がありました。でも僕たち高校2年が足を引っ張ってしまい、花園にも出場できませんでした」

「そこで、先輩の想いを引き継いでいこうという想いと、僕たちもベスト8になりたいという想いがあるので、ベスト8を目標にしました」(LO風間)

今年も花園は熱い。果たしてどんな熱戦が繰り広げられるのか。

黒沢尻工×静岡聖光学院の2回戦は12月30日、花園のメイングラウンド、華の「第1グラウンド」で午後2時30分にキックオフだ。

※【映像ハイライト】花園1回戦「高鍋(宮崎)× 静岡聖光学院(静岡)」

スポーツジャーナリスト

スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める

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