体育会OBにできること。中央大学アメリカンフットボール部の取り組み。

(写真:アフロ)

一般社団法人の設立、強化費を捻出する「応援米」、参画しやすいOB会づくり……。近年高度化する学生スポーツの新時代を、アイデアと実行力で乗り切ろうとしているチームがある。中央大学アメリカンフットボール部ラクーンズだ。

中央大アメフト部は、2017年に発足50周年を迎えた伝統校。関東学生リーグの最高峰である「TOP8(トップエイト)」に所属し、2017年シーズンはチーム過去最高の4位(4勝3敗)という好成績を収めた。

関東の強豪8校が参加するTOP8の中には、資金の潤沢なチームもある。しかし中央大アメフト部は、資金力や練習環境において優位性があるわけではない。

■リーグ再編成をキッカケに組織強化へ。

中央大学八王子キャンパス内にある人工芝1面の練習場(画像提供:中央大アメフト部)
中央大学八王子キャンパス内にある人工芝1面の練習場(画像提供:中央大アメフト部)

中央大アメフト部には専用グラウンドがない。八王子キャンパス内にある人工芝1面の練習場は、ラグビー部、ラクロス部との共用だ。

2017年までは部員寮もなかった。ウエイトトレーニングについても、今でこそ大学至近のジム(チームOB経営)を利用可能だが、以前は八王子市内の提携ジムまで電車で通っていたという。

そんな中央大の転機は、2013年のリーグ再編成だった。

関東大学アメリカンフットボールは2013年、それまで並列だった上位2リーグを縦列に再編成。2014年シーズンから上位8校の「TOP8」、下位8校の「BIG8(ビッグエイト)」がスタートした。

中央大は新リーグ初年度から関東大学最高峰のTOP8に入った。しかし、懸念があった。

大学アメフト界の頂点に立つには、すでに設備、リクルーティング、コーチ体制といった“組織力の充実”が重要だった。しかし当時の中央大は、有志のチームOBが本業のかたわら指導するなど、トップ校と伍していくためには不安な体制。

危機感を募らせた中央大は2014年、組織力の本格強化に乗り出す。

2017年のチーム発足50周年へ向けた強化プロジェクト『R-NEXT50』(Raccoons the Next challenge for 50th anniversary)を立ち上げたのだ。

■法人設立で支援を受けやすく。

大学日本一を目標とする『R-NEXT50』は、「経済的な自立」「安定したコーチング体制の確立」「学内・地域貢献を通じた中央大ブランドの向上」を目指し、2014年に本格始動した。

プロジェクトメンバーは2014年3月、まずチーム活動の母体となる一般社団法人を設立。名称は「一般社団法人 中央ラクーンズアスリートクラブ」だ。

設立の目的は、ひとつは対外的な信用を獲得すること。

それまで支援企業からの寄付金は、チーム関係者の個人口座に振り込まれていた。しかし寄付する側にしてみれば、法人名義でのやりとりの方が安心感がある。法人格を得ることで寄付を受けやすくしたのだ。

また、複数の支援組織をまとめる母体ができたことで、支援体制に継続性、透明性が生まれた。現在はOB会、後援会、チーム指導陣などの代表者6名が「中央ラクーンズアスリートクラブ」の理事を務めている。

■コーチング体制の確立、リクルーティングの強化。

中央大のフラッグフットボールイベント「八王子シルクフェスタ」は毎年賑わう(画像提供:中央大アメフト部)
中央大のフラッグフットボールイベント「八王子シルクフェスタ」は毎年賑わう(画像提供:中央大アメフト部)

『R-NEXT50』では、コーチング体制の充実にも取り組んだ。

2014年度からフルタイムコーチ兼GMを招へいし、2016年度からは他大学出身のコーチも複数名登用。コーチ費用は短期的に寄付金を募り、同時に収益事業体制の構築を進めるなどしてまかなった。

推薦枠の少ない中央大では、学生のリクルートも重要だ。

中央大は高校生に少しでも興味を持ってもらおうと、説明会も兼ねたアメフト指導会「高校生クリニック」を実施。今年2月に3回目を迎えたクリニックには、全9校144人の高校生が集まった。

学外にも少しずつ種を蒔いている。

昨年は公的機関(※1)が後援した中央大のフラッグフットボールイベント「八王子シルクフェスタ」。2007年からスタートした同イベントには、毎回多くの小学生が参加している。彼らが大人になって、いつか中央大に戻ってきてくれれば嬉しい。

■部員寮の確保、強化費を捻出する“応援米”。

2017年にアパートの一棟借りで確保した部員寮(画像提供:中央大アメフト部)
2017年にアパートの一棟借りで確保した部員寮(画像提供:中央大アメフト部)

こうした一連の強化策が求心力にもなって、2017年度は、悲願だった部員寮も確保した。

部員寮は、大学徒歩圏内にあるアパートの一棟借り。貸主にとっても、安定収入が見込める一棟貸しは魅力的だ。貸主との交渉の結果、低価格での契約にこぎつけ、ミーティング設備や食堂といった「部員寮」の機能を整えることもできた。

そんな部員寮には、時に“サポーターの期待”が届くこともある。

「ラクーンズ応援米」は、中央大を応援したいサポーターが指定のお米を購入することで、上乗せした強化費分がチームに振り込まれる仕組みだ。購入者の元には、チームの活動レポートと共にオリジナルラベルの「ラクーンズ応援米」が届く。

希望すれば、購入したお米を部員寮へ贈ることもできる。お米を届けられた選手たちは、日常生活の中でサポーターの期待を感じることできるというわけだ。

こうしたチームOBの熱心な取り組みは、選手の発奮材料もなっているという。2017年度新任の蓬田和平ヘッドコーチは、「選手の意識も変わり始めています」と選手の変化を語る。

チームOBの献身、支援者の熱意に、選手が応えようとする好循環が始まっているのだ。

■“楽しいOB会“でOB会費の回収率アップ。

チームOBによる定例会も変わりつつある。

2017年にOB会長に就任した石坂政一氏は、定例OB会でのネガティブワードを禁止。2か月に一度の定例会を進歩的な場にするためだ。時間は夜7時からの2時間を厳守。終了後には有志で飲み会を行う。

「そこへ行ったらポジティブな空気がある、参加したら楽しいよね、という形を目指しています」(石坂OB会長)

OB同士の新年会も工夫した。

若手OBなど多くの人に参加してもらうため、OBから協賛を募って景品を集め、抽選会を行ったのだ。大いに賑わい、新しい試みは好評だったという。

また石坂OB会長は“集まる目的”の必要性を感じ、OB・OG同士のビジネスマッチングを企図。新年会の場で、参加者一人ひとりが仕事内容を含めた自己紹介を行なった。その後、若手OBと中堅OBが個別にビジネス相談をするなどの成果があった。

こうした“楽しいOB会”づくりも奏功し、OB会費の回収率は過去最高の70%近くまで上昇。

カードによる自動継続決済スキームを取り入れ、OB会費を支払いやすい環境を整えたことも効果的だった。

■自由闊達な雰囲気がチャレンジを生んだ。

2017年度の中央大学アメリカンフットボール部(画像提供:中央大アメフト部)
2017年度の中央大学アメリカンフットボール部(画像提供:中央大アメフト部)

創意工夫で組織力を高めている中央大アメフト部だが、そもそもこうした取り組みを始めるためには、チャレンジを支える土壌がなければならなかった。

最高齢70歳からなる約800名の組織の中、プロジェクトを推進してきた40歳の石坂OB会長は言う。

「前OB会長がいらっしゃって、その方が何でも言えるようなフラットな環境を作ってくれていた、ということが大きいんです」

前OB会長の仁木高樹氏は、1970年代後半から計20年以上監督を務め、現在は総監督の立場でチームに関わっている。中央大アメフト部のために勤務先を変えるなど、生活のすべてをチームに捧げたことで知られ、チームOBの尊崇の念を集めている。

「僕ら若手がフタをされることがなかったからこそ、こういうこと(新プロジェクト等)を思い切ってやれています」(石坂OB会長)

若手OBが自由に発言できる“脱・体育会系”とも言える環境が、時代に合わせたチャレンジを生んだ。

■仕事、家庭と向き合いながら。

2017年の発足50周年へ向けた強化策を進めてきた中央大アメフト部は、昨年度から新たなプロジェクト「ホワイト・キャンバス・プロジェクト(White Canvas Project)」を進めている。

それまでのプロジェクト『R-NEXT50』を包括し、発足50周年の節目に今後の指針を明文化したもので、3つの柱として「1、形に捉われない柔軟な発想」「2、共創プラットフォームの創出」「3、資金・組織の透明化」を掲げる。ラクーンズ応援米は同プロジェクトの一環として行われたものだった。

石坂OB会長を含めた一般社団法人「中央ラクーンズアスリートクラブ」の理事6名には、それぞれ本業がある。

大学アメフト界のみならず、多くの学生スポーツにおいて、仕事、家庭と向き合いながらチームを本格強化する労力は、並大抵ではない。

それでも中央大アメフト部を支える人々は「いまできること」を模索しながら、今後も積極的な取り組みを進めていこうとしている。 (了)

(※1)多摩市/多摩市教育委員会/八王子市教育委員会/日野市教育委員会/公益財団法人日本フラッグフットボール協会

(画像提供:中央大アメフト部)
(画像提供:中央大アメフト部)