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アップルは「MacのゲーミングPC化」推し!でも本命はiPhone向けAAAタイトル移植かも

多根清史アニメライター/ゲームライター
Image:Apple/YouTube

最近のアップルは、目立ってゲーム推し。iPhone用ゲームアプリがドル箱なのは今に始まったことではありませんが、主に「コンソール(ゲーム専用機)向けの大作ゲーム」に重きを置いていたりします。

今年6月のWWDC(世界開発者会議)ではmacOS向けの『デス・ストランディング ディレクターズカット』移植を、小島監督ご本人が発表。こちらは昨年、やはりWWDCでカプコンがMac向け『バイオハザード ヴィレッジ』を予告した流れの延長にあるのでしょう。

Image:Apple/YouTube
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が、同時に開発者向けツール「Game Porting ToolKit」を提供開始。ザックリいえば、これは「Appleシリコン(独自開発チップ)搭載Mac上で、Windowsゲームをすぐ動かせる」エミュレータ環境と「WindowsゲームをMacに移植しやすくする開発環境」から構成されています。どんな感じで動くか確認した上で、移植の開発作業が始められるってことです。

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さらに、9月のiPhone 15発表イベントでは、Proモデル専用の『バイオハザード RE:4』や『アサシンクリード ミラージュ』、それにiPhone版『デス・ストランディング』も合わせて発売予告。もしかして、アップルさん本気なの?

ええ、Macを強力なゲームプラットフォームにします!と語るアップル幹部のインタビューが、米テックメディアInverseに掲載されています

Appleシリコン搭載Macはゲーム開発者から注目のマト?

Image:Apple/YouTube
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アップルのMac製品マーケティング・マネージャーであるゴードン・ケッペル氏は、「Appleシリコンが全てを変えた」と述べています。インテル製チップを積んでいた過去のMacとは違う、というわけです。

「現在、Appleシリコンを搭載した全てのMacは、AAA(超大作)ゲームをかなりファンタスティックに遊べる。Appleシリコンは、M1、M2、そして最新のM3でグラフィックスを飛躍的に向上させた」とのこと。実際M3は、今やゲームハードに欠かせないレイトレーシング関連機能をハードウェアとして実装してますしね。

さらにソフトウェア・マーケティング・マネージャーのリーランド・マーティン氏は、Appleシリコンのおかげでゲーム会社のMac向け開発過程もシンプルになったと付け加えています。

すなわち「数年前のMacのラインナップは、内蔵GPUと外付けGPUの両方が混在していた。そのため、ゲーム開発には複雑さが伴いました。複数の異なるハードウェアの組み合わせを考えなければいけないから」と述べています。

「今ではAppleシリコンにより、そんな問題は完全になくなり、iPhone、iPad、Macにまたがる統一されたゲームプラットフォームが誕生しています」とのこと。

要は、以前のデスクトップMacは外付けグラフィックボードも使えたので整合性を取るのが大変だったけど、今では内蔵GPUしかないから複雑さはナシ。それにiPhoneやiPad、Macのチップは基本設計が同じのため、移植もしやすいということです。

その最たる例が『バイオハザード・ヴィレッジ』。最初にMac版が発売され、次にiPhoneとiPad版も登場したことが、それを証明している形です。

さらにマーティン氏は、上記のGame Porting Toolkitのおかげで、ゲーム開発者がアップルに関心を高めていることを詳しく説明。コジマプロダクションやAnnapurna Interactive Games(サイバーパンク猫ゲー『Stray』開発元)をはじめとした開発企業やパブリッシャーから注目が集まっているそうです。

特にGame Porting Toolkitのうち、高く評価されているのがMetalシェーダコンバータとのこと。シェーダとは3Dグラフィックの描画でシェーディング(陰影処理)を行うプログラムであり、Metalシェーダ~とは「Windows用ゲームの陰影処理をMac向けに自動変換してくれる」というものです。

このシェーダ関連コードはゲーム内に何万もあるのですが、それをオートで変換することで「開発者たちは信じられないほど便利で、開発期間の大幅な短縮につながったと称賛しています」と述べています。

本命は「Mac版から移植されたiPhone版のAAAタイトル」かも

Image:Capcom/YouTube
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ここでアップル幹部達が語っていることは、おそらく全て事実でしょう。Macはグラフィック回りが統一されたことでシンプルなハードウェア構成となり、Windowsゲームも飛躍的に移植しやすくなっている。

が、「グラフィック回りの統一」は、裏返せばWindows PCのように外付けグラフィックボードを挿して、性能を底上げできないことを意味しています。「基本構成のままで戦ってくれ」ということで、ゲーム専用機と近い発想ですね。

また、Macのなかで最強の性能を持っているのは、最新のM3チップ搭載モデルだけ。最もお安い24インチiMacでも20万円弱で、わりといいWindowsゲーミングPCが買えそうですね……。

そんなわけで「MacをゲーミングPCとして買う」はちょっと現実味に欠けるとは思います(個人の感想ですが)。が、Macに移植したゲームは、いずれiPhoneに移植される可能性が高いことも証明済み。

つまり、「iPhoneで家庭用のAAAゲームがドッサリ遊べる日がやって来る」と期待できるはず。

現在のiPhoneはXboxコントローラーやPS5用DualSenseコントローラーも正式に対応しており、しかもiPhone 15 ProはUSB-Cポートから外付けディスプレイに出力もできます。携帯ゲーミングPCがちょっとしたブームですが、いつかはiPhoneごと大作ゲームの数々が持ち歩きできるように……。

ネックとなるのは、まずMacに移植するのに時間がかかり、そこからiPhoneに移植する手間がかかるため、Windows版から1~2年遅れになりかねない点でしょうか。十分にiPhoneの性能がアップすれば、「Windows版とiPhone版が同時発売」の未来もあり得るかもしれません。

アニメライター/ゲームライター

京都大学法学部大学院修士課程卒。著書に『宇宙政治の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。現在はGadget GateやGet Navi Web、TechnoEdgeで記事を執筆中。

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