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人気の携帯ゲーミングPC「Steam Deck」は“買い”なのか?

多根清史アニメライター/ゲームライター
Valve公式サイトより

PCゲームプラットフォームSteamのValve社が満を持して発売した、携帯ゲーミングPC「Steam Deck」。7インチ画面でゲームパッド内蔵のぜんぶ入り、さながらNintendo SwitchのPC版です。

すでに海外では発売されており、好評・不評いろいろと聞こえてきますが、日本向けの発売時期はまだ決まっていません。では、実際にはどんな感じなのか? これまで入った情報を、ざっと振り返ってみましょう。

Steam Deckで動くSteamゲームは約60%。ネックは「アンチチートソフト」

Steam Deckが注目されたきっかけは「安さ」でした。64GBストレージモデルが399ドル(2021年夏の発表当時は約4万6000円)という設定は、中華系のモバイルゲーミングPCが軒並み10万円超えのなかでは驚かれたものです。

が、それら先行者たちがどれも「持ち運びやすさと処理能力」のどちらにも振り切れず中途半端だったこともあり、はじめは本製品にも厳しい目が向けられていました。

その一方では発表直後から予約申込みが殺到しており、おりからの半導体不足も手伝って2ヶ月の発売延期となり、逆に期待がめきめきと盛り上がることに。「最高の製品は発売してない製品(妄想だけが膨れあがるため)」とも言いますが、今年2月に発売されてユーザーの手元に届いた後も評判は意外と落ちませんでした。

たとえば海外テックメディアThe Vergeの総評「まだ準備ができていない(買うのは早い)」というもの。ハードウェアとしては前代未聞の安さで高品質、ゲームパッドなど操作系は無限にカスタマイズできる(PCですからね)。ただしソフトウェアはバグだらけ、最も人気のあるSteamゲームの一部は動かない、というぐあいです。

どれだけ人気ゲームが動かないかといえば「検証が取れたもの(Verified)」が20%、「一応は動く(Playable)」が40%。そして動かないものが40%もあると正直に明かされています

なぜ、動かないゲームがけっこうな比率あるのか。単純にグラフィック性能だけでいうと、Steam Deckの処理能力は1.6TFLopsで、Xbox One S(1.4TFLops)とPS4(1.8TFLops)の中間あたり。最新世代のAAAタイトルを遊ぶのは辛いが(解像度を落とす必要あり)携帯ゲーム機としてみれば十分に優秀です。Nintendo Switchは0.5TFlops(推計)で現役やってますからね。

それよりネックとなっているのが「アンチチートソフトが完全に動くわけではない」ということ。アンチチートとはオンラインゲームプレイ中の不正行為、いわゆるチートを検出して取り締まるためのソフトウェアの一種であり、その代表的なものが「Easy Anti-Cheat」(EAC)とBattleEyeの2つ。メジャー作品のほとんどは、これらをインストールしないとゲーム本編が遊べない仕組みとなっています。

根本にあるのが「Steam DeckではWindowsではなく、Steam OSが動いているから」です。このSteam OSはLinuxをベースとしていて、Steamライブラリの大半を占めるWindows用ゲームは本来遊べないはずですが、互換性レイヤー「Proton」により動作可能としているわけです。

呼びかけています

が、ゲーム運営の肝であるチート防止にも関わるためか、なかなか首をタテに振らないパブリッシャーもあったりします。Epic Gamesの看板タイトル『フォートナイト』がその最たるものですね。

次期「Steam Deck2」待ちか、分解・改造しやすいオモチャと割り切るか

そうした面倒を避ける上でもっとも手っ取り早いのが、「Steam DeckにWindows 10をインストールすること」です。じっさいValve社も「できる」と言っており(ただし、今のところSteam OSを完全に消去する必要あり)、Windows用ドライバさえ提供していますが、この場合は公式サポートの対象外となります。

マイクロソフトの劇重ゲーム『Microsoft Flight Simulator X』も、“アンチチート“のためSteam Deckで遊べないと謳われているので、Windows 10を(ライセンスを買って)入れれば動くのでしょうね。一応は最小システム要件は満たしているはずですし、快適に飛べるかどうかはさておき。

かたや「持ち運びやすさ」については、画面サイズが7インチで重さは約670g。これは15インチのゲーミングノートだったり、あるいはGPD Win Maxシリーズ(8インチで約900g)等よりは優れていることは確かです。

が、Nintendo Switchの398gと比べれば圧倒的に重い。しかもバッテリー持ちが2~8時間で、やはりスイッチの4.5~9時間には及ばずで、「スイッチ感覚でPCゲーム」というには無理があります。家の中で寝転がって『エルデンリング』を遊び(実は「検証済み」なのです)電池切れになる前に充電、あるいは『ヴァンパイア・サバイバーズ』を通勤電車の行き帰り遊ぶ、止まりじゃないでしょうか。

まとめると、「まだ未成熟なので、第1世代は見送った方がいい」というのが正直なところです。さいわい最上位バージョンが圧倒的に売れたために(もっと高いスペックの需要があると分かったから)「Steam Deck2」が計画中公式に明かされていますし、先に買えた海外ユーザーらは人柱になってくれた……ということで。

ただ、内蔵SSDやアナログスティックは交換しやすい設計になっていますし、マニアが遊ぶには楽しいハードウェアには違いないでしょう。すでにSSDスロットに外付けGPUをつないでゲームを動かしているYouTuberもいますし、Valveの公式保証がなくなってもいい人にとっては、いろいろな意味でいいオモチャになると思います。

アニメライター/ゲームライター

京都大学法学部大学院修士課程卒。著書に『宇宙政治の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。現在はGadget GateやGet Navi Web、TechnoEdgeで記事を執筆中。

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