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164cm髙相みな実、174cm山口頌平が見せた「高さ」に負けぬ「武器」と「自信」と「強さ」

田中夕子スポーツライター、フリーライター
小さな大エース、髙相みな実(写真/PFU Limited 2022)

年齢も身長も“ただの数字”

 かつての名選手が発した言葉を、事あるごとに思い出す。

「Age is just a number」

 年齢はただの数字だ。

 発したのは、イゴール・オムルチェン。クロアチア代表のオポジットで、12年から14年までJTサンダーズ(現JTサンダーズ広島)で、14年9月から引退する19年まで豊田合成トレフェルサ(現ウルフドッグス名古屋)に在籍した。15/16シーズンでのリーグ優勝時はMVPを受賞し、攻撃の大半を担い、圧倒的な決定力を誇った世界を代表するオポジットに取材の機を得た時、最後に自ら「大切なこと」と切り出し、大事なことだからもう一度、と繰り返したのが、冒頭の言葉だった。

 年齢や在籍年数で「ベテラン」「若手」と区分されることを解せぬと思いつつ、いつもつきまとう数字。

 バレーボールにおいては、年齢と共にもう1つ、ついて回るのが身長だ。

 今年1月の春高でも2mを超える大型選手が揃い、大きく取り上げられた。確かに、高さが圧倒的な武器であるバレーボールにおいて、17歳、18歳の選手で2mを超え、なおかつ打つだけではなく器用にレシーブをこなす選手もいれば、ブロックに跳んでから間をあけず次のプレーに移行する俊敏さを持つ選手もいた。

 そんな選手たちの活躍を見れば、決して遠くない未来、彼らが日本を背負い戦っていく存在になるであろうことは、誰の目にも明らかだ。

 とはいえ、高さが武器であるバレーボールの世界で、大型選手が活躍する中でも決して「高さ」に屈さず、光を放つ選手もいる。そんな姿を見て、イゴールの言葉を思い出し、また別の言葉に当てはめてみる。

 Height is just a number,too.

 身長も、ただの数字だ。

「小さいことをマイナスに思わない」

 特筆すべき2人の選手がいる。

 1人はV1女子、PFUブルーキャッツの髙相みな実。もう1人はV1男子、堺ブレイザーズの山口頌平。

 髙相の身長は164cm、山口は174cm。学生時代から豊富なキャリアを持ち、髙相は都市大塩尻高(長野)、中京大でエースとして活躍。山口は大村工業高(長崎)、早稲田大でセッターとしてのキャリアを積み、17年には日本代表セッターとして出場したユニバーシアードで銅メダルを獲得した。

 ポジションの違いはあるが、2人に共通するのはコートにいるだけで抜群の存在感があるということ。高相の場合は、高さで勝るブロッカーに対してどんな攻撃を仕掛けるのか。山口は、どのようにアタッカーを生かすのか。高さはなくとも目を引く。その確固たる理由がある、と改めて思わせるシーンがあった。

 3月12日の岡山シーガルズ戦で途中出場、3月25日の久光スプリングス戦でスタメン出場した髙相の姿は、まさに彼女らしさが溢れた試合だった。

 堅守の岡山を相手に、コートに入りまず意識したのは「相手を少しでも崩すために、自分の得意なサーブを思い切り打つこと」。途中交代で投入されるということは、流れを変えることが最大の役割であり、弱気は大敵。「行ける」とチームだけでなく自分にも自信をつけるべく、まずはサーブから攻める。まさに狙い通りとばかりに髙相のサーブは効果を発した。

 攻撃面でも、託されたトスは思い切り、ブロックを見ながらも空いたスペースを狙い叩き込む。決まれば片手を突き上げ、一方の拳をぐっと握り、雄たけびを上げるガッツポーズは勢いをもたらすだけでなく、何より絵になる。

 結果的にブロックを抜いたコースにレシーバーを配置した岡山の前に敗れはしたが、スタメン出場した久光戦ではその反省と悔しさを生かし、ラリー中に託されたトスを、高さで勝るブロックに対しても臆することなく次々決めて見せた。

「岡山戦ではここ、という1本を決めきれなかった悔しさがありました。決めたい、という気持ちはもちろんありましたが、熱い気持ちを持ちながらも前に出しすぎず冷静に相手を見ること。決めた時に行く覚悟、思い切り打つ以上は止められる覚悟も持って攻め切れたのが決められた要因だったと思うし、周りからの“アスさん行け!”の声にも力をもらいました」

 圧倒的な攻撃力やジャンプ力を誇っても、ステージが上がれば相手が自分より高いのは当たり前。小さいことはリスクとされる競技の中、髙相の意識を変えたのが昨季PFUの監督に就任した坂本将康監督だった。がむしゃらに攻めるばかりでなく、冷静な状況判断のもと、今は何をするのが一番得点につながる確率が高いか。時に相手の虚を突くようなプレーを選択すれば、そこに高さは関係ない、と説かれるうち、髙相の意識も変わった、と言う。

「小さいっていうことに対して、坂本監督と出会ってレッテルがはがれました。高い選手は高い選手の良さがあって、自分には自分の良さ、武器があると教えてもらえた。自分は小さいんだ、とマイナスに思うのではなく、今はこの身長でもやっていけるという自信があるので、テクニックを磨いてまだまだVリーグでも活躍していきたいな、と思います」

コートで見せる感情表現も髙相の魅力の1つ。周りを引き付け、チームを鼓舞するガッツポーズも注目だ(写真/PFU Limited 2022)
コートで見せる感情表現も髙相の魅力の1つ。周りを引き付け、チームを鼓舞するガッツポーズも注目だ(写真/PFU Limited 2022)

「マイナスもプラスにする」ディグとトスワーク

 大型化が顕著なのはアタッカーのみならず、セッターも同様だ。V1男子でも、名古屋の永露元稀、JT広島の金子聖輝、大分三好ヴァイセアドラーの伊藤洸貴など、学生時代はアタッカーとして活躍し、高さを備えたセッターたちが試合出場の機会を増やしている。

 アタッカーに打ちやすいトスを供給し、相手より多く得点を取る。そこに身長は関係ないが、ずっと同じ位置に固定されるのではない以上、セッターも前衛になればブロックに跳ぶ。どれだけジャンプ力を磨こうと、そこで立ちはだかる高さの壁は圧倒的で、ブロックとレシーブのトータルディフェンスの確率や精度をより高めること、高い位置からのセットアップでアタッカーの打点をより高くするために、大型セッターが起用されるのも確かに納得ではある。

 だが、試合前の公式練習時からボールの下に素早く入り、1人1人の高さや好みに応じて丁寧にセットする山口の姿を見るたび、やっぱりうまい、と気づけばアタッカーよりも山口ばかりに目が向いた。学生時代ばかりでなく、試合に出場する機会が限られる中でもやはり、いいセッターだ、と思い続けてきた理由を改めてかみしめたのが、2月5日のJT広島戦だった。

 今季堺に移籍し、レギュラーセッターを務める深津旭弘に代わり、途中交代でコートに入った山口は、まさに学生時代から変わらぬセッターらしさを見せつけた。サーブで攻める相手に、多少レシーブが崩されようと追いかける。ただボールをつなぐのではなく、自分の仕事はアタッカーに打たせることだ、と表現するかのごとく、走って、走ってボールの下に入り、よりよい質で提供すべくオーバーハンドでセットする。安易にアンダーハンドで上げたり、とりあえず上げやすい場所に、と逃げるのではなく、次につないで点を取るために最善を尽くす。

 一番高い打点で打てるように、と丁寧なセットをアタッカーが次々決めるたび、駆け寄って喜び、決まらなければ「自分のトスが悪かった」と声をかける。その姿に、山口にとっては同じ大村工業の先輩で、北京五輪にセッターとして出場、現在同校バレーボール部の監督を務める朝長孝介の言葉を思い出した。

「山口はどんな状況でも立て直せる。実はそういう仕事が確実にできるセッターは、いそうでいません。僕のように、最終的には自分がやりたいことをやるタイプではなく(笑)、彼は周りを生かすために自分を押さえて引き立てることができる。ブレイザーズだけでなく、代表でもその力は通ずるだろうというぐらい、僕は彼以上のリリーフセッターはいないと思います」

 トスがいいのはわかる。でも身長が。きっとそんな言葉を山口も飽きるほど聞いたはずだ。だが、JT広島戦でも高さがないことを補って余りうる彼が持つ武器を随所で発揮した。レシーブだ。

 ブロックの横や上から抜けてきたボールを、文字通り体で上げる。負けてたまるか、の声が聞こえてくるような、気迫あふれるプレーには山口の意地も込められていた。

「(ブロックの時は)相手の攻撃も自分のところから攻めてくるのをわかっていますし、セッター前だよ、という声もあっちのコートから聞こえてくる。そこでマイナスな分も自分が後ろに行った時には、ディグでプラスにするというのはずっと思っていたし、拾ってやろう、と。結果的に前衛のマイナスよりも後ろでプラスにすれば大丈夫、と思い続けてきましたし、大きいセッターに負けたくないという気持ちもあるので、サイドアウトやトスの面で勝って行きたいです」

コートの雰囲気を一変させる力を持つ山口。セッターとして自らの武器を自信に、万全の準備をして臨む(写真は2017年のユニバーシアード)
コートの雰囲気を一変させる力を持つ山口。セッターとして自らの武器を自信に、万全の準備をして臨む(写真は2017年のユニバーシアード)写真:松尾/アフロスポーツ

小さくたって戦える

 出場機会が減り、セッターとしてコートに立つ機会が減る中でも山口はJT広島戦で自身も「何年振りかわからない」と振り返るチャンスを得て、自らの役割を果たした。

 ラリーを決めきれず、味わった悔しさを久光戦で発揮した髙相も同じく、たとえいつめぐって来るかわからない「次」だったとしても、来たチャンスを逃さない。そのためにベストの準備をして臨むだけ、と変わらず、やるべきことに徹してきた成果でもあった。

 レギュラーシーズンの終了を前に、突如順位決定方式が変更されたため、3月30日のFC東京との代替試合が堺の最終戦となったが、その試合でも山口はスタメンセッターとして、最後までコートに立ち続けた。

 大きいことは確かに武器だが、小さくたって戦える。自分にしかない武器がある。これ以上ない形で見せた選手たちの姿に、やはり思う。大切なことだからもう一度。

 Height is just a number,too!

 身長も、ただの数字だ。

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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