日本社会の見えない場所で進行する「留学生問題」とは―ある社会派映画監督の挑戦

日本語学校に留学するベトナム人学生。その日常から日本社会の構造的課題が見えてくる

現在、日本語学校に留学するベトナム人少女の日本での日常を描いた映像がVimeo上で公開されています。「take a picture」と名付けられたその作品は、児童養護施設で暮らす少女を描いた「風切羽~かざきりば~」、性暴力被害を題材にした「月光」など、社会問題をテーマに作品を作り続けてきた小澤雅人(おざわ・まさと)監督の新たな挑戦でした。

課題先進国とも言われる日本の社会問題の中でも、あまり認知度が高いとは言えない外国人の課題。今回の衆院選における各政党政策・公約の中でもその扱いは限定的で、バラつきが大きく「課題」としての認識自体がまだ浸透していない状況です。そんな中で、小澤監督は今なぜ、外国人の中でも日本語学校の留学生の問題を映像化しようと考えたのか。監督にそのきっかけと映像に込めた思いをうかがいました。

無関心でいること自体が、問題を生み出している

「昨年、『月光』がワルシャワ国際映画祭に招待されてポーランドを訪れる機会があり、アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所跡地を訪問しました。そこですごくインスピレーションを受けることになったんです。特にアウシュビッツを案内してくれた日本人ガイドの中谷剛さんが、強制収容所を案内する中で今の政界情勢や難民問題とアウシュビッツで起きた事実を照らし合わせて問いかけてきたんです。

…正直、僕も今まで難民ってすごく遠い世界だったので、正直あまり関心がなかったんですけど。そこで無関心が難民を生んでいるし、日本人が無関心でいること自体がすでに、難民を生み出していることに気付きました。」

アウシュビッツ訪問で無関心でいることへの危機感を持った小澤監督は、その後、日本の難民問題や外国人問題を調べ始めることになりました。その中で、当時西日本新聞社において連載されていた「新移民時代」で取り上げられていた留学生や技能実習生の問題に着目するようになり、いまだ正確な状況が知られておらずあまりも注目されていない日本語学校の留学生をテーマにしようと思ったといいます。

「外国人をただの労働力として扱う現状に、危機感を感じる」と小澤監督
「外国人をただの労働力として扱う現状に、危機感を感じる」と小澤監督

「留学生」という名の労働力になっていないだろうか

「留学生」と聞くと、大学に通っている学生というイメージを持つ方も少なくないのではないでしょうか。しかし、一般財団法人日本語教育振興協会の調査によると、平成28年の時点で、留学生の在留資格で日本に滞在する外国人277,000人の内、約19%にあたる52,278人は日本語学校に在籍する学生で、その数は過去最高に上っています。

(*在留外国人数は法務省統計より)

ここ最近のニュースで「留学生」が「問題」として取り上げられる際、その多くが、大学で学ぶ外国人ではなく日本語学校で学ぶ学生のケースであることに、気づいた方もおられるかもしれません。

日本政府は2008年より「留学生30万人計画」を推進しています。その一環として、2010年7月に改正入管法が施行されそれまで「就学」という資格で日本に在留していた日本語学校の学生等が、大学や専門学校で学ぶ「留学」の在留資格に一本化されました。

実はこの改正に伴い、1日4時間までしか認められていなかった「就学」資格を持つ学生の就労時間は大学等に留学する学生と同様、1週間に28時間まで緩和されることになりました。そして今や、日本語学校に留学する学生は、コンビニやファストフード店などでは欠かせない「戦力」となっています。

(*就学資格時、1ヶ月あたり約80時間程度の就労制限は、法改正後には110時間以上の就労が可能な状況に)

日本語学校のこうした授業風景は、一部「常態化」している実態も:
日本語学校のこうした授業風景は、一部「常態化」している実態も:"take a picture"より

留学生問題を議論することで、構造的課題、改めて議論する機会にしたい

小澤監督の短編作品「take a picture」では、ベトナムで仕送りを待つ家族の為に、飲食店で懸命にアルバイトをする日本語学校の留学生の姿が描かれています。日本に来るために借金まで背負い、仕事に追われ、日本語学校では疲れから眠りこけてしまう場面は、メディアでも報道された日本語学校の学生が直面する現実の一端でもあります。

「この(留学生)問題に取り組んでみて僕もハっとしました。留学生問題を議論することで、人権や労働や経済構造、そういったものを改めて議論する機会になるのではないかという気がしています。ただの留学生の苦労話、ではなくもっと大枠を見せられるんじゃないか。そのためにはどうしたら良いか、今いろいろと考えてもいます。」

小澤監督は、日本社会の中でこうした学生達をはじめとする外国人を「ただの労働力」として空気のように扱う現状に危機感を感じる中、1人1人の背景を描くことで、その人個人を見てほしい、留学生や実習生に対する関心を高めたいと考えています。

「自分には関係ない世界にいるように見えるけれど、宅配やコンビニなどで働いている留学生がいるから、我々は便利なサービスを受けることができる。その辺りの仕組みや、社会的構造の中に外国人がかなり入り込んでいるということを知ってもらいたい。」

「みんながそれぞれの生活で精一杯で、他者に係っているような余裕がない。そんな中で犠牲になっている人々がいる。そのシステムというか経済的な弱者を搾取して成り立っている、そんな社会でいいのか。そういうことを考えるきっかけになったらいいなと思っています。」

これから作品を長編化し、送り出し側・日本側の思惑や構造を描いていきたい

政治に自らの声を届ける手段を持たない、日本で暮らす外国人に関わる諸問題。特に留学生は「増えるほうがよい」と言ったイメージもあり、問題が発生しても制度的な側面に対する疑問の声は、なかなか大きくなりません。

改めて私達の日本社会が、留学生や定住外国人などの多様な人々とどのような社会を作り上げていくのか。「take a picture」が描くテーマは、今、日本に生きる全ての人々にとっていっそう重要なものとなっています。

「この問題をしっかりと描くなら10分ではとても足りないので、今後は長編映画化して、留学生の送り出し国側の事情からそこに関わっている日本側の思惑、そしてその結果日本で何が起きているのかという構造的な部分を、丁寧に描きたいと思っています。」

小澤監督による、ベトナム人女子留学生の日本での日常を描いた短編作品「take a picture」は、現在「坂本龍一 | async 短編映画コンペティション」に応募しており、その審査期間中で動画共有サイトVimeoで無料公開されています。Vimeo上にアップロードされている作品への再生回数やシェア数なども審査の対象に。

日本社会の見えない場所で苦しむ留学生を描いたこの作品が、1人でも多くのオーディエンスの目に触れることで、今後いっそうの関心が高まることを期待したいと思います。

「坂本龍一 | async 短編映画コンペティション」応募作品、「take a picture」審査期間は10月30日まで

【小澤雅人監督プロフィール】

映画監督・映像クリエイター。

2016年より全国公開されている最新作『月光』(監督/脚本/編集)では性暴力被害の実態を描き、NHK総合「おはよう日本」で特集が組まれるなど各メディアから大きな注目を集める。そして同映画は第32回ワルシャワ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門に正式出品された。

親からの虐待を受けて育った少年少女を描いた長編第二作『風切羽~かざきりば~』 (監督/脚本/編集)は、世界中から質の高い芸術作品を選出することで名高い、第14回全州国際映画祭(韓国)のインターナショナル・コンペティション部門の作品賞を受賞。全国16館で劇場公開され、大きな反響を呼んだ。

長編第一作『こもれび』(監督/脚本/編集)は世界10大映画祭の一つ、第14回上海国際映画祭(中国)等に正式招待されている。他にも若者のホームレスや機能不全家族、ギャンブル依存症といった切実な社会問題をテーマに映画を描き続けている。