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バリアフリー選挙へ行こう!―今考えたい、みんなにやさしい選挙のこと

田中宝紀NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者
「やさしい選挙」を実現するために、今できることは何か考えよう(提供:アフロ)

バリアフリー選挙してますか?

参政権は憲法で日本国民に保障された権利で、障害の有無にかかわらず有権者はだれもがその権利を行使することが可能です。

これまでも選挙時には必要に応じて代理投票や点字投票などの制度が設けられてきましたが、今回の選挙からはさらに体が不自由な高齢者や障害者が投票しやすいよう、移動費用を国が負担する規定が新設されたり、候補者の演説内容を文字で要約して筆記する際に要約筆記をする人員への報酬が支払えるようになりました。

また、政見放送では手話通訳や字幕をつけることが可能となっていたり、選挙公報を点訳・音訳で配布する取り組みなども行われています。

例えば京都府の選挙管理委員会には以下のようなページがウェブサイト内に設けられています。

今回の選挙の「選挙のお知らせ」については、京都府に「きょうと府民だより」点字版の送付申込みをされている方には点字版選挙公報「選挙のお知らせ」を、「きょうと府民だより」音声版(テープ版又はデイジー版)の送付申込みをされている方には音声版(テープ版又はデイジー版)選挙公報「選挙のお知らせ」をそれぞれお送りします。

「きょうと府民だより」の点字版又は音声版(テープ版又はデイジー版)の送付の申込みをされていない方で、点字版又は音声版(テープ版又はデイジー版)の「選挙のお知らせ」を御希望の方は、京都府選挙管理委員会に電話又はファクシミリで6月21日(火曜日)までにお申込みください。

出典:京都府選挙管理委員会

各地域の選挙管理委員会のウェブサイトにも、音声読み上げに対応したり、文字の拡大ができるなどの配慮がされています。

このように、特に投票所へのアクセスや投票行動に対するサポートなどを中心に、投票しやすい選挙のバリアフリー化は前進しつつあるように見えるのですが、一方で6月19日には共同通信より以下のような記事が配信され、各紙に掲載されました。

22日公示の参院選では、体が不自由な高齢者や障害者が投票しやすいよう、移動費用を国が負担する規定の新設など支援の仕組みが一部拡充される。一方、既存の郵便投票は対象拡大が進まず、周知不足で実際の利用も低調だ。政見放送での障害者に対する配慮も課題が残り、選挙のバリアフリー化は道半ばだ。

出典:『バリアフリー選挙、道半ば 高齢者、障害者に配慮不足』共同通信2016年6月19日

・・・SNS上では障害者差別解消法が施行された今においても、政見放送の手話通訳や字幕が義務規定ではないことへの違和感や、放送によっては手話も字幕もなく、政策比較ができないといった声が複数あがっていました。

投票所に行くということのバリアだけでなく、各党の政策を集め、比較し、どの政党や候補者に自らの一票を託すかを判断するために必要な「票を投じる前」のバリアが、まだまだ存在していることを窺わせます。

有権者の多様性を、政治参加へのバリアにしないために

さらに、海外にルーツを持つ日本人で、日本語を母語としないために、政策情報などの難しい日本語がわからない有権者の存在など、現時点ではその存在すら、一般に認識されていないバリアもあります。

日本語を母語としない、海外にルーツを持つ日本人有権者が国内外を含めて何人いるのか具体的にそれを知る手がかりはありません。ただ、現時点ですでに日本国籍を持つ、日本語指導を必要とする子どもたちは、日本の公立学校にだけでも7,800人以上が在籍していて、この10年で、その数は2倍に増えています。

彼らは数年のうちに有権者として政治に参加する権利を持つことになりますが、その時点で政治参加に十分なだけの日本語の力を、育くむ機会は今、100%いきわたっているとは言えません。

これまで、さまざまなバリアのために政治参加・選挙参加が困難だった有権者の方々に対する、一層のバリアフリー化が進むことの必要性と同時に、多様化する「日本人有権者」が直面するバリアにも、目を向ける必要性が今後一層高まってくるのではないかと考えています。

例えば各党マニフェストや選挙公報を「やさしい日本語」で配布することは、難しい日本語がわからないすべての有権者にとってアクセシビリティを高めるだけでなく、未来の有権者を育むという点でも有効かもしれません。

マジョリティの有権者の間で選挙への熱が高まる中で、マイノリティの方々が抱えている困難はいっそう見えづらくなり、その声も小さくなりがちです。でもその小さな声こそ、政治に届けることが必要な声なのではないでしょうか。

今、やさしい選挙の実現に向けて私たち一人ひとりにできること・すべきことは何かを考えてはみませんか?

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者

1979年東京都生まれ。16才で単身フィリピンのハイスクールに留学。 フィリピンの子ども支援NGOを経て、2010年より現職。「多様性が豊かさとなる未来」を目指して、海外にルーツを持つ子どもたちの専門的日本語教育を支援する『YSCグローバル・スクール』を運営する他、日本語を母語としない若者の自立就労支援に取り組む。 日本語や文化の壁、いじめ、貧困など海外ルーツの子どもや若者が直面する課題を社会化するために、積極的な情報発信を行っている。2021年:文科省中教審初等中等分科会臨時委員/外国人学校の保健衛生環境に係る有識者会議委員。

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